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新しく用意された席に案内された3人。
改めて支配人に詫びられ、さっきよりも豪華な料理と飲み物を用意され、何もなかったように女子会が再開した。
「やっぱり携帯は水没してしまって、もうダメですね」
乃恵も麗子も携帯をワインで濡らしてしまった。
支配人からは弁償を申し出られたけれど、大事にしたくなくて丁重にお断りした。
「麗子さん、携帯つながらなくて大丈夫ですか?」
徹は連絡なんてしてこないだろうけれど、孝太郎はかけてくるかも知れない。
「うん、一晩くらいなら大丈夫よ」
本当かなあ。
「お兄ちゃんに連絡します?」
唯一無事だった携帯を差し出す一華。
「いいわよ。明日会社からすれば大丈夫」
「心配しますよ。お兄ちゃん、ああ見えてヤキモチ焼きなのに」
さすが妹、よくわかっている。
「大丈夫よ。みんな私が遊んでいたみたいに言うけれど、全然もてないのよ。孝太郎だって分かっているわ」
「もてないわけないじゃないですか」
これだけ綺麗なのに。
「本当よ。男性と付き合ったのも孝太郎が初めてだし」
「「えええぇー」」
乃恵と一華の声が重なった。
***
「ちょっと驚きすぎ」
ギロッと2人を睨む麗子。
「もしかして、お兄ちゃんが初めての人ですか?」
乃恵が聞きたかったことを、一華が聞いてくれた。
「ええ、そうよ」
「嘘」
思わず心の声が漏れてしまった乃恵。
一華は口を開けたまま動かない。
「だって・・・。2人は違うの?」
「「そりゃあ、まあ」」
なぜか声がそろう。
恋愛経験は人それぞれ。
乃恵だって経験豊富な方ではないと思っている。
でも、これだけ綺麗な麗子が・・・
「綺麗すぎるのも大変ですね」
一華の呟き。
「何言ってるの、大金持に嫁いだことを散々愚痴った人が」
「ああ、そうでした」
知らない人が聞けば贅沢で嫌みな会話なんだろう。
それでも当人にとっては違う。
人それぞれ立場があって、悩みがあって、思いがある。
「結局、乃恵ちゃんが一番幸せね」
一華の言葉で、乃恵が顔を上げた。
「そうですか?」
そんなことはないと思うけれど。
「私ももっと勉強しておくんだったわ」
一流大を卒業した一華の言葉に、
「しがらみばっかりで窮屈な仕事ですよ。私はどちらかというと、普通の主婦になりたいのに」
これが乃恵の本音。
***
話せば話すだけ一華は気さくないい人で、麗子と過ごす3人の時間は楽しかった。
料理もたくさん食べ、ドリンクも堪能し、3時間ほどが過ぎたとき、
ウッ。
麗子が口元を押さえた。
「大丈夫ですか?」
仕事柄慌てることもなく、ハンカチとお水を差し出す乃恵。
「うん、ありがとう」
麗子は息を整えながら、お水を口にする。
「本当に、妊娠じゃないんですか?」
もう一度乃恵に聞かれ、
「違うわ」
はっきりと答えた麗子。
先月の生理は予定通りに来たこと。
元々胃が弱くて、胃薬も飲んでいること。
母が胃ガンの家系で、祖母も祖父も胃ガンにかかっていること。
それでも今回ほど強い症状が出たことはなくて、怖くて胃カメラに行けないでいること。
麗子は全てを素直に告白した。
「早く病院へ行くべきですね」
フォークを持つ手を止めてしまった一華の意見。
確かにそうなんだけれど・・・
「まずは孝太郎さんに話すべきじゃないですか?」
黙っているのはよくない気がする。
***
「悪いけれど、はっきりするまで孝太郎に話す気はないの」
「何でですか?」
誰よりも心配している人なのに。
「もしガンだったら、私は孝太郎とは結婚しないつもり。1人で治療して、最後を向かえるわ」
「そんなこと言ったらダメですよ。私がいい医者を紹介します」
「ありがとう、乃恵ちゃん。でも、本気だから。これ以上孝太郎の負担になりたくないの」
うっすらと麗子さんの目に涙がにじんだ。
明るく言っているけれど、悩んだ末の結論なんだ乃恵は感じた。
その気持ちは乃恵にもわかる。
きっと自分でも同じ選択をするだろう。
「もし本当にガンだったら、私が麗子さんの看病をしますよ。どうせ徹には香水の女がいるんですから、家にいる必要もありませんし」
「何言ってるの、私が一緒に暮らすわ。どうせ、鷹文は私になんて興味ないんだから、優華も連れて麗子さんの家に押しかけるから」
一滴のお酒も入ってないくせに、なぜか盛り上がる2人。
半分は麗子を勇気づけるための空元気、もう半分は本気で麗子の家に押しかけるつもりだった。
「ハハハ、3人で暮らすの?楽しそう」
まんざら冗談でもない顔で笑った麗子。
つられたように、乃恵と一華も笑い出した。
その時、