「流星。行くけど、どうする?」
春人がうしろからこそっと話しかけてきた。
春人の返事には頷き
「ごめん。新しい子の挨拶に行ってくる。ちょっと待ってて」
自分のお客さんに伝えた。
「えー。もう?」
「いい子だから」
「わかった!いい子で待っている!」
ヘルプに指示を出し、春人のうしろについて行く。
「こんにちは。今日は、来てくれてありがとうね!」
春人が葵の後輩の隣に座る。
「春人さん、会いたかった!」
彼女は大きな声を出し喜んだ。
「失礼します。ちょっとだけ、同席してもいいですか?」
俺が挨拶をすると
「えー!!流星さんだ!!どうして!?」
「俺と流星って仲が結構良いんだよ。大切な俺の姫を流星に紹介したくてさ」
「すごーい。華、VIP席みたい!」
俺がいることで嫌がらなくて良かった。
「この間の先輩ちゃんは、今日は来ないの?」
春人が話を彼女に振る。
「ああ、葵先輩?一応、誘ったんですけど、絶対行かないって断られました」
「ホストクラブ、嫌だって?」
「うーん。まあ、こういうところ苦手みたいで。彼氏いたんですけど、あんまり大切にされてなかったみたいだし、男の人の経験も少ないみたいだし。ああ!お金ないって言ってました」
葵らしい理由だな。
「でも、私がこの中で一番誰がカッコ良かった?って聞いたら、迷わず、流星さんって答えましたよ!だから実は、葵先輩もイケメンが好きなんだと思います」
「えっ?」
俺?柄にもなく、顔が赤くなる。
「だって、流星良かったねー?」
春人が面白そうにニヤニヤしている。
「そうだね。嬉しい。華ちゃん、葵先輩にありがとうって伝えておいて?」
それだけ聞けば充分だ。
俺は席を立った。
今すぐ葵に会いたいけど、今日は、ラストまでお客さんいるし、会いに行くのは無理だよな。
次の日——。
「葵先輩!昨日、お店に行ってきました!なぜか、春人さんと流星さんが二人で私のテーブルについてくれて、一瞬、超VIP扱いだったんですよ!?私!」
すごい。華ちゃん、一人で行ってきたんだ。
今日、仕事なのに。
「そっか。楽しかった?」
「楽しかったです!春人さんはやっぱり優しいし。流星さんは、めっちゃカッコ良かったです!!それで、葵先輩のことを聞かれたんで、答えときました!」
なんだか嫌な予感がする。
「何を聞かれたの?」
「葵先輩はなんで来ないの?とか。あと、せっかく流星さんがいたので、先輩は流星さんが一番カッコ良いって言ってましたって伝えておきました」
ああ、恥ずかしい。
どうしてそんなこと伝えるの。
「流星さん、葵先輩にありがとうって伝えておいてって」
「あー、はい。ありがと」
「流星さんってすごいですね!昨日もお客さんいっぱいで、ラスソン流星さんでしたよー?」
「ラスソンってなに?」
「ああ、ラスソンっていうのはですね、基本的に、その日の売上が一番多かったホストさんが最後に歌を歌ってくれることですよー。流星さん、歌も上手でした!」
そうなんだ、すごいんだな。
瑞希くんは、私なんかと本当に関わってていいのかな。
そんなマイナスなことを考えてしまう。
「楽しかったみたいで良かった」
私はそれ以上、華ちゃんに声をかけることができなかった。
その日、帰宅をした。
残業を一時間程度したけれど、もっと遅くなってしまう日もあるから。今日は良かった方だな。
だけど、疲れはある。
玄関の鍵を開けようとした。
「あれっ。鍵が開いてる?」
不審に思い、ゆっくりドアを開け、玄関から部屋を見た。電気がついている。
「えっ。誰かいる?」
玄関を見ると、見たことのある靴が揃えもせず、脱ぎっぱなしになっている。この靴は……。
部屋の中に入る。
「うわっ!驚かすなよ?」
「人の部屋に勝手に入って何してるの?」
元彼の尊だ。
何かを探している様子で、部屋の中が荒れている。
「俺の荷物、取りに来ただけだよ」
そんなことはない。
先日、彼の荷物は尊が私にしてきたように、全て着払いで送り返したはず。
そう問い詰めると
「お前にあげた、プレゼント返してもらおうと思ってさ」
「はあ!?」
世の中には、一度人にあげたものを別れと同時に請求してきたりする人がいるって聞いたことがあったけど、あなたもその中の一人だったんだ。
「なんでもらったもの返さなきゃいけないの?だったら、私があげたプレゼントも返してよ!」
負けない。言いたいことははっきりと伝えたい。
「いいだろ!こっちはいろいろ大変なんだよ!」
私の制止を振り切り、アクセサリーボックスに尊は手を伸ばした。
「ちょっとやめてよ!私が自分で買ったものだってあるんだから。そんなに返してほしければ、返すよ!」
私は尊からもらった、指輪やネックレスなどを彼に投げつけた。
コメント
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ここで元カレ出てきちゃうのか、😭 続き楽しみです!🫶