テラーノベル
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練習後、レギュラーとサポートメンバーがミーティングルームに集められた。
次の大会の対戦相手のデータが印刷された資料を、顧問から受け取ると、私はそれを部員たちに配った。
「はい、みんな。次の試合のデータだ!しっかり目を通して、今から作戦を言うぞ!」
顧問は声を張り上げ、部員たちを鼓舞するように熱く語り始める。
資料を配り終えた私は、説明の邪魔にならないよう一番後ろの席へ行く。そこには、一つ上の先輩エースの隼人さんが座っていた。
ふと目が合う。
「おつかれさま」
先輩は周囲に聞こえないような小声でそう言うと、にっこり微笑み、自分の隣の席を指さして私に座るように目で合図した。
「おつかれさまです」
頭を軽く下げながら、進められた席に座ると、先輩は自分の椅子をぐっと私のほうに寄せ、私の資料を覗き込んできた。
「ここさ、さっき監督が言ってたけど…」
私の資料にペンで線をひきながら、真面目な顔で説明してくれる。先輩が動くたびに肩や腕が触れ、微かな体温を感じる。
(先輩は、至って真面目に説明してくれているのに、意識しちゃう。ダメダメ!今は大事な試合前なんだ!)
自制心をかけて、気を引き締める。
「…だと思うんだけどさ、お前は練習見ててどう思う?」
ふと、先輩が資料から視線を上げ、至近距離で顔を覗き込んできた。
(!!!……平…常…心…!!!)
「そうですねぇ…確かにフォワードの高見君は…」
私は、ありったけの理性を総動員し、「平常心」と心の中で何度も唱えながら、顎に手を当てて先輩の質問に答える。
一通り自分の意見を熱く語り終え、今度は私が先輩に意見を求めようと顔を上げた。
その瞬間、先輩は驚いたようにガタッと椅子ごとのけぞり、顔を赤くして呟いた。
「お前…わざとだろ…」
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俺はミーティングルームに入ると、迷わず一番後ろの席に座った。マネージャーの結衣が、いつも一番後ろに座るからだ。
自分では誰の目から見てもわかりやすくアピールしているつもりだが、彼女は全く俺の気持ちに気づかない。
試合中は、俺だけ見ていてほしい。タオルもドリンクも、他の奴らより俺に渡すのを優先してほしい。それなのに、彼女は俺を全く特別扱いしない。去年のバレンタインだって他の部員と同じだったし…。
今回も資料を説明しながら、俺は結衣に身体を寄せた。
「ここさ、さっき監督が言ってたけど…」
資料に対戦相手の動きを予想しながら線をひくと、肩や腕が自然と彼女に触れる。
少しは意識してくれるだろうか?
彼女の反応が気になり、俺は至近距離で彼女の顔を覗き込んだ。
「そうですねぇ…確かにフォワードの高見君は…」
(?!真面目か?!…)
この状況で、真顔で他の男の名前を出すとか、ホントに脈ナシ反応で心底落ち込む。
心の中で深いため息をつく俺をよそに、結衣は資料を見つめて熱くゲーム戦略を語る。
せっかく隣にいるのに…資料ばっかり見てないでこっちを見ろよ。
(こっちを見ろ!!)
強く願った瞬間、結衣はパッと顔を上げた。その視線が、俺の目と真っ直ぐに絡み合う。
「!!!!!!!」
俺は、あまりの急展開に思わず椅子ごとのけぞってしまった。自分の心を読まれたようで顔が熱くなる。
「お前…わざとだろ…」
コメント
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iN2X時代に作った掌編小説をつけました。 昨年の11月末ぐらいに作った物を絵もストーリーも手直ししてみました。