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またハヤテが居なくなった。もう考えなければいけないことで頭がいっぱいいっぱいだ。とにかく探さなければ。
……まず冷静に、ハヤテがどこへ行ったのか考えよう。そうだ、一つ一つ整理だ。
……………駄目だ分からない!
外なのは確か。だがどこだ?
森、丘、いや壁?
「どこだ?ハヤテー!どこだーー!」
私はこの世界の隅々まで届くよう叫んだ。しかし何も起こらない。
一体どこだ?
「お父さん?」
その時後ろから声が聞こえた。ハヤテだ。
「ハヤテ!どこへ行っていたんだ?勝手に出かけちゃ駄目だろ!」
「ごめんなさい」
「どこで何をしていたんだ?」
「………あのね………」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「お、なんだいなんだい?言ってみな!」
「ぼく、お父さんがいるんだけど…」
「ああ、知ってるよ?」
「…あのほんとはぼく、あの時ぜんぶ思いだしたんだ… ここに来るまえのこと…」
「……えっ?…とー……じゃあそれは、お父さんに言った方が良いんじゃないのかい?お父さん、頑張ってるみたいだし」
「いや……その…えっと………」
「……何があったの?」
ぼくはしょうがっこうで、みんなからきらわれていた。
だれも話しかけてくれなくて、カバンかくされたり、悪口をいわれたりした。
でもぼくがせんせいに言ったら、もっときらわれるかもしれない。
ぼくはだれにもこの事が話せずにいた。
ある日、みんなでえんそくに行った。
動物園でたくさん動物をみた。ぼくはライオンとかゾウとかキリンとかが好きで、いろんな場所を回ったけど、いっしょに話せる人はだれもいなかった。
そしてお弁当を食べるときも、だれもいっしょに食べてくれる人はいなくて、先生と食べた。
先生に、「ハヤテくんってさ、来週誕生日じゃない?」といわれた。
「ああっ、はい。そうです」
「じゃあちょっとハヤテくんにお知らせ! ハヤテくん、夏休みに読書感想文書いたじゃん?それが何と全国で最優秀賞をとったの!」
「え…?さ…さいゆうしゅうしょう?」
「簡単に言えば、日本一ってこと!」
「にほん…いち!?」
とてもうれしかった。ぼくは昔からおとうさんのしごとにあこがれていて、おはなしを書いたり文を書くのがすきだった。
ほんとうにすごくうれしかったけど、同時に気になることがあった。―みんなの「め」だ。
その日学校についてからの家への帰り道のとちゅう、みんなにランドセルを川になげられた。
みんながいうには「おまえだけほめられてるのがキモい」らしい。
何とか家についたぼくは、がまんできずにおかあさんにはなした。おかあさんはだきしめてくれた。
おかあさんとおとうさんは学校にでんわをして、先生におこった。
それから、おとうさんは毎日学校にいくようになった。「かいぎ」といっていた。
一週間後、たんじょうびがきても、ふたりはいそがしそうだった。
それからさらにいっしゅうかんご、やっと落ち着いたらしく、おとうさんとケーキをかいにった。
やっとたのしい思いができるとおもったら……
✳︎ ✳︎ ✳︎
「そう…だったんだ」
―私は父親失格だ。我が子にこんなに辛い思いをさせて、話させてしまった。
やはりハヤテはいじめに巻き込まれていたんだ。今、全てのパズルのピースがつながった気がした。
私は現世でハヤテのいじめを知り、学校側に激怒した。
何故気づかなかったのか、何故防ぐことができなかったのか、その全てを問いただそうとしていた。息子の誕生日もほったらかすほどに……
―つまりハヤテを現世の辛い世界に帰らせたくなかったのである。帰ったって何もいいことはない。ならいっそ、この平和な草原の上でずっと……
現世の私は、そう考えているのだ。
……本当に私は馬鹿なのだな。
人間、どんな時も逃げるのは簡単だ。でも、このまま天国に二人で行ったとして、それは果たして本当の「正解」なのか?
ハヤテの人生を終わらせてまで、私は引き止めようとはしない。
「ハヤテ、帰ろう」
「………いやだ。もどったってなにもいいことない!おとうさんとは会えないし、ともだちもいない。ケーキだって……もうない。いみないよ!」
きっとあの時も知っていたんだろう。私が壁の直前でハヤテの手を掴んだ時、明らかに表情が変わっていた。
「いや、意味はある。それは、ハヤテが『生きてる』ってことだ」
「………」
「ハヤテが生きていれば、お父さんだって永遠に生きてられる。お母さんもだ。それに……やりたい事リストにもあっただろ…?『みんなとともだちになりたい』って」
「……グスン……」
「いいかハヤテ。人を知ることは、自分を知ることだ。ハヤテは皆より静かでおとなしい性格の持ち主で、いつも本音を我慢して、疲れてるんだよ。だからみんなも話しずらいと思うんだ。大丈夫。ハヤテは賢い子だから、きっとこれからたくさんいい事がある。でも今ここに残ったら、それも全部なくなっちゃうし、それこそ、意味のない事なんだ。」
「…………うん……っ」
ハヤテは目に涙を浮かべて、頷いた。
「………だから、帰ろうハヤテ」
『狭間』に来た。キツネに全部を話し、ハヤテに現世への戻り方を説明してもらった。
ハヤテがこの霧の向こうへ行けば、もう本当にハヤテとは会えなくなる。
これでいい。これしかない。そうだろ?現世の私。
この先、ハヤテが歩むのは決して平坦な道ではない。辛いことだってあるだろうし、そこに自分が言葉をかけてあげられないというのは悔しい。
でも、死人として、親として、一人の大人としてハヤテに伝えなければいけないことがある。
「おい!もう息子が出発するぞ?なんか声かけなくていいのか」
「ああ……」
ハヤテがこれから前を向いて進めるように。
「ハヤテ、今までごめんな。でも、お父さん、いつもここで見守ってるから!」
「……うん!」
「行ってらっしゃい、気をつけろよ!」
「ばいばい!」
OVER 第八章 「Life over」 完