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夜。
風は静かで、遠くで湯が流れる音だけが聞こえていた。
木々の隙間から覗く星空が、湯けむりの向こうに瞬いている。
すちとみことは、肩を並べて露天風呂に浸かっていた。
旅館の部屋に付いている、誰にも邪魔されない貸切の湯船。
ふたりだけの秘密の場所。
「……なんか、夢みたいだね」
「夢でもいい。みこちゃんと一緒にいられるなら」
すちは隣のみことの濡れた髪を撫でながら、優しく言った。
みことはほんの少し首をかしげて、すちの肩に額を寄せる。
「……ほんとはね、ちょっと怖かった。こんなに幸せでいいのかなって……」
「いいに決まってる。ふたりで決めたことだよ。誰になんと言われたって、俺は……みこちゃんのそばにいたい」
みことは静かに目を閉じた。
湯の温度と、すちの体温と、胸に沁み込んでくる言葉のあたたかさ。
「すちくんが隣にいるだけで、全部どうでもよくなっちゃう……」
「そっか。じゃあ、この先も、隣を守らないとだね」
そっと、みことの手を握る。
濡れていても、震えていても、ちゃんと繋がっている。
ふたりはゆっくり湯からあがり、浴衣を羽織って、湯上がりの冷たい空気の中で縁側に並んだ。
身体の芯がまだぽかぽかしていて、でも心はもっとあたたかくて。
「……夜って、なんでこんなに寂しくて、愛しくなるんだろう」
「みこちゃんがそばにいるから、そう思えるんだよ」
みことは黙ってうなずき、すちの肩にもたれる。
星空の下、夜の温泉は、ふたりの時間をゆっくりと優しく包み込んでいた。
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「……ねえ、すっちー」
「ん?」
「こうやって……何も考えずにそばにいられる時間、好き」
「……俺も。みこちゃんが静かにしてる時間、珍しいし」
「ちょっ……失礼だな……!」
小さく笑い合うふたり。
でも、ふいに、笑顔のまま目が合った。
そのまま、どちらも言葉を飲み込む。
さっきまで冗談を交わしていた空気が、急に変わった。
視線が絡んで、外せない。
「……すっちー」
「……なに?」
「……なんか、顔、見てたら……苦しくなる」
「それ、俺も……」
すちがゆっくりと手を伸ばして、みことの頬に触れる。
湯上がりでほんのりあたたかい肌に、指先がそっと沈む。
「……ねぇ、みこちゃん」
「うん……?」
「見てるだけで、だめになりそう。……触れないと、落ち着かない」
その瞬間、ふたりはもう、距離を詰めていた。
浴衣の隙間から伝わる体温。
唇が触れ合う一歩手前で、お互いの息が重なる。
「……キスしていい?」
「言わなくても、わかってるくせに……」
みことがそう囁いた瞬間、すちはそっと唇を重ねた。
一度目は優しく、確かめるように。
二度目は長く、焦がれるように。
そして三度目には、みことの指がすちの浴衣の袖を掴んでいた。
「もう……我慢できない、すちくん……」
「俺も。……今夜は、眠らせてあげないよ」
夜は、まだ長い。
ふたりの熱は、もう止まらなかった。
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