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──あの一週間のことは、誰にも話していない。
蓮司にも。誰にも。
言葉にした瞬間、何かが終わってしまう気がしていた。 救われたわけでも、傷が癒えたわけでもない。むしろ逆だった。 あれは、ただ──静かすぎた地獄だった。
「何もされなかった」って、言えば笑われるかもしれない。
けど、本当に怖かったのはそこだった。 “何もしない”という優しさが、遥には理解できなかった。 ずっと、何かされてきた。壊されてきた。奪われてきた。 だから、「何もされない」ことは、“無価値”と同義だった。
それでも、壊されるよりは──と信じようとして、 でもやっぱり、違った。
(あいつ……見たんだよな、俺の全部)
暴力で壊される方が、まだマシだった。 日下部は、手も出さず、言葉もなく──
ただ、見ていた。
そして遥は、その視線に、
自分の壊れた形が映っていることに、気づいていた。
あれから、もう随分経つ。
けれど今でも、あの沈黙が耳にこびりついて離れない。 やさしい声じゃなくていい。傷つけてくれた方が、ずっと楽だった。 そうしたら、いつも通りに怒って、泣いて、憎めたのに。
でも、日下部は──
何もしなかった。
それが今でも、どうしようもなく怖い。
だから遥は、日下部を避けているわけじゃない。
ただ、自分の惨めな姿を、あいつの目が覚えていることが怖いだけだ。