テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#料理男子
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
すっかり冬に染まり、クリスマスソングが通勤時に聴こえてくる。
電車の中のポスターも、デートスポットの紹介とか、窓の外を流れる夜景は輝いてる。
ショーウィンドウにもツリーやクリスマスカラーの商品、そして恋人たちを刺激するような高額なブランド品も並び、デートスポットはライトアップされ始めた。
そんな11月の終わりの吉日。
クラッシクホテル『シャングリラ』の屋上の日本庭園で結納をした。
結納もただの仲良し家族の食事会のように終わり、挙式は仕事場の人たちが来てくれたけど披露宴は身内だけで細やかに行うことになった。
喬一さんが、跡取り問題で親戚に良い印象がない上に、私の父や兄の地位や権力に媚びへつらう輩だからと、対面させたくなかったらしい。
私は、喬一さんのお姉さんが選んでくださった着物も着れて、大満足だ。
本当に都会のホテルの屋上なのか、一瞬、ここかどこだか忘れてしまうような、美しい庭園だった。竹が生えた月小路と呼ばれる遊歩道を散策し、四季を感じさせる木々や花を二人で見て回った。
鯉が泳ぐ池を渡り、森の香りが漂う純日本風の数奇屋造りのお部屋で両家族と式を挙げた。
式当日、早朝5時まで喬一さんは急患の手術をしていたんだから、驚いた。
喬一さんはお婆ちゃんとの初対面に大喜びだった。いつもお野菜が美味しい、私が作った料理で癒されてると、多大な感謝を述べ、おばあちゃんを笑顔にしてくれた。
おばあちゃんとお爺ちゃんは、シャングリラのオーナーとあいさつを交わし談笑している。いつも畑仕事の土だらけの仕事着を脱ぎ、着物に着替えたおばあちゃんは、上品でとても若々しい。
私の身内に挨拶を交わして、私の元へ駆け寄ると顔を綻ばせる。
疲れを見せない彼が、私のドレス姿に『一瞬で元気になったよ』と笑った。
もう少し、不満とか愚痴とか、隙を見せてくれてもいいのに私の目の前にいる彼はいつも完璧で、私はやはり敵わないと思ってしまったのだ。
「ウエディングドレスも可愛かったけど、その色の着物も可愛いね」
両家族と仲人さんたちは、まだ中で宴会中だが私たちは庭を散策して東屋で座ってお互いの姿をようやくゆっくり見れた。
喬一さんの紋付き袴姿も、引き締まった体のラインが見えて格好いい。
「私も、選んでいただいた着物がすっごく素敵で気に入ってるの!」
喬一さんのお姉さんは、竹を割ったような性格の方で、裏表がないはっきりされたとても綺麗な人だった。
旦那さんはうちの父が早々にお酒をすすめ断り切れずに一杯の日本酒を飲み真っ赤になり席を外してしまっていた。優しそうな人。お姉さんがピンと張ったピアノ線のようだとしたら、柔軟なゴムのような柔らかい笑顔の朗らかな人だった。
お姉さんは、私ははっきりした顔だから柔らかい色が似合うと着物を選んでくれた。
結婚式の着物と言えば、赤かなあってぼんやり思っていたんだけど、選んでいただいたのはピンクベージュに大輪の花が咲き乱れたレトロでモダンなお洒落な柄だった。
柔らかくて優しい色は、私の顔立ちを引き立ててくれて雰囲気も優しくなって、飛び跳ねたくなるほど嬉しい。自分に似合う色を発見してもらえて、勉強にもなった。
「それは良かった。きつい性格だから無理に付き合わなくてもいいって思ったんだけど」
「全然。強くて逞しい女性は憧れます。私は好きですよ」
喬一さんの袴をツンツンしながら、だらしなく笑ってしまったら彼も笑う。
いや、だって袴姿、格好いいし、幸せで顔がにやけてしまうんだもん。
「俺も、可愛い紗矢が好きだよ」
「きゃー」
「俺にもいっぱい言って」
「……ひい」
眩しい笑顔で両手を広げられて、蕩けてしまいそう。
「俺は毎日こんなに言ってるのに、紗矢は恥ずかしがってすぐ逃げるから、今日ぐらいは沢山聞きたいな」
そう言いつつも、顔は意地悪ににやにや笑ってる。
絶対、私の困った顔が楽しくて言っているだけに違いない。
「沢山言ってくれたら、優しく脱がすけど?」
「意地悪……っ」
「残念。君は悪い男に引っかかったよ」
頬を撫で、指先が唇まで降りてくる。
「最初に君を家に上げた時に、抱こうと思ったんだ。君みたいに真面目な子はさっさと既成事実を作って逃がさないぞ、と」
「わ、悪い男です」
確かに悪い男だ。納得していたら、クスクス笑われてしまった。
「そうしたら、出勤要請だろ?」
「悪いことを考えるからですよ。それから私を押し倒そうとすると、必ず救急車のサイレンです」
つまり私と喬一さんはいまだに清い関係だ。
昨日、婚姻届けを提出して『古舘 紗矢』になってしまっているのに。
緊急オペでそのまま彼は出勤して、帰ってこないまま挙式に駆け付けたんだから。
「昨日と今日は、良い子だったろ、俺」
「まあお仕事は頑張っていました。疲れ様です」
おずおずと手を伸ばして、頭を撫でると彼は目を細めて私の腕を掴んだ。
「じゃあご褒美をもらおうか」
「ご褒美」
「苗字ももらったし、君の初恋ももらっちゃったみたいだけど、残念だね。悪い男は全部が欲しいらしいよ」