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#料理男子
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全部。
その囁くような声の甘みに体がじわっと痺れていく。
喬一さんは手に口づけすると、恭しい私の目を見る。
「一枚一枚、その服を優しく脱がして、色んな表情の君をもらうよ」
「……ふ、夫婦になるんだし、受けて立ちますっ」
「最後の一枚を脱がしたとき、君の桃色に染まった肌を今度は俺が覆い隠す。最高だ」
「え、あの、きゃっ」
言い終わらないうちに抱きかかえられ、東屋を後にする。
高いビルの上、星に届きそうなホテルの屋上で、まるで虫の声が聞こえてきそうな庭園を彼に抱えられて私は移動する。
まだ両家の親たちの騒ぐ声が聞こえてくるのに、彼は私を抱きかかえたままホテルを降りていく。
「どこに行くんですか」
「隣のデザイナーズホテル『オーベルジュ』。ここのクラシックホテルの社長の息子が若い子向けに建てた大人の隠れ家ホテル」
「ええ、でもあそこ、人気でなかなか泊まれないんですよ」
このクラシックホテルは和風な挙式、隣のデザイナーズホテルは、洋風な挙式ができる。が、向こうは挙式の予約が二年先までいっぱいなので、私たちはこっちの庭園にしたのに。
一部屋、一部屋、有名なデザイナーがデザインしているらしいので、部屋の真ん中に水槽があったり、ペンキがひっくり返されたような眼がチカチカするような鮮やかな部屋、黒くシックな部屋の中に白い線を滲ませて、スタイリッシュな部屋とか。テレビの特集で見たことがある。デザイナーが自分の好きなコンセプト、インスピレーションで作ってるので全く全室雰囲気が違う、と。
「そこのオーナーとは同期だからね。結婚祝いに一部屋借りれたんだ。親が一緒のホテルにいて、イチャイチャできるか? したくないだろ」
「確かに」
あと数階で一階に降りるので、抱きかかえていたのを下ろしてもらった。
エレベーターのドアが開いて、外に出るとロビーのステンドグラスを見ていた利用客が私たちに振り返り、視線が集中される。
外国のお客様も多いので、色打掛は珍しいんだと思う。
恥ずかしかったけど、堂々とエスコートしてくれる彼の横顔が格好良くて、私もおどおどしているのがバレないように、伏し目がちに微笑んでホテルをあとにした。
大きな満月が、すぐにでも落ちてきそうな夜だった。
用意された部屋は、気障な彼にぴったりな甘い香りが漂う部屋。
部屋に飾られた絵画は全て薔薇。ピンク色のベットシーツ。甘い香りは、ローズのアロマオイル。
SubRose(薔薇の下で)というコンセプトの部屋らしい。
結婚式に薔薇が用いられるのは、愛と喜びと美と純潔の象徴でもある女神の象徴が薔薇だから、らしい。
そこまで調べて、私の初めてをロマンチックに演出してくれようとした。
そんな素敵な人、きっとこの先、一生出会えない。喬一さんぐらいだろう。
甘い香りの中、一枚一枚脱がされて、肌を滑っていく絹すれの音にお互いの心音が早鳴っていくのが分かる。
全部シーツの上に落ちた後、私の肌は桃色どころか真っ赤だったけど。
それでも彼は優しく、触れてくれた。
まるで何かの儀式のように、甘く優しい一夜。
痛みは伴ったけれど、それよりも幸せすぎて私は初めて彼の腕の中で朝を迎えたのだった。
*
それから数日が立ち、クリスマスまでもう指で数えたらすぐになった。
引っ越し準備は、業者をいれてついでに彼に荷解きもして、新居に移って数日はばたばたした。
それと結婚報告と年賀状が同時になり、仕事が多忙な彼のため、全て私が引き受けることになった。
クリスマスは絶対に家にいるとは言ったけれど、最近全く顔を合わせていない。
「しまった!」
気づいて起き上がったときには、すでに同じベットで眠っている彼のスペースは冷たくなっている。
慌てて下に降りると、ラップを巻いたご飯のおかずと、電子レンジにはお味噌汁。ほかほかのご飯も炊飯器の中にある。
「……喬一さん」
あの人、いつ寝ていつ起きてるの?ってぐらい多忙。
学会前だからと、論文を作ってそのままソファで眠ってしまうって言うズボラさが少し可愛いなって思っていたけど、違う。
ズボラじゃなくて、忙しすぎて寝てる暇がないから、あんな睡眠のとり方をしているんだ。
外科医は手術が多い分、患者さんやご家族の説明はもちろん、書類も多いし学会とか学業的な仕事も多い。
そんな多忙な中、私のご飯なんて作らなくていい。もっと寝てほしい。
一緒のベットに寝たい。