【はてな視点】
美紅に待ってて、とだけ伝えられた。
隣のクラス、つまり美紅と同じクラスの女の子と一緒に歩いていくのがちらっと見えたから、多分何か用があったんだと思う。嫌な予感がする。
美紅は対人関係が得意では無い。こんな事言うのもあれだけど、1年の頃は私としか話してなかったし、私とクラスが離れた今、ほかの友達がいるとは思わない。いたとして、多分私にも話してくる。何も聞いていないということは、そういうことだろう。つまり、特に親しくもない同じクラスの女の子に呼ばれて行ったということだ。まさかとは思うけど、一応様子見のために美紅のクラスの方で待つことにした。
はてな「あれ?美紅は?」
女子1「あぁ、美紅ならまだあっち」
美紅を呼び出した女の子が先に帰ってきて、少し不機嫌そうにそう答えた。予感はほぼ的中、って感じかな?言われた方向に向かえば、壁によりかかって眠る美紅がいた。
はてな「みく!みーく!おーい!」
何度呼びかけても瞑った目は開かない。呼吸が少し速くて、額に汗が滲んでいる。
はてな「みく?みく!!!」
何度も体を揺らしながら呼びかけると、やっと美紅が目を開けた。
はてな「あー良かったぁ……。どうしたの?大丈夫?」
みく「うん、大丈夫。」
はてな「何してたのこんなとこで」
みく「ちょっと、ね。」
美紅は強い子じゃないし、底抜けに明るい子でもない。どちらかと言えば弱々しいし暗め。だけど私には悩み事は基本的に話してくれる。今の答えが真実だと言う訳では無い。多分、隠してる。目の奥に不安と不満が揺れているのが見える。
はてな「美紅?本当に大丈夫なんだよね?」
みく「うん、大丈夫、ほんとに大丈夫。」
これは、強がりでも私に対する気遣いでもない。自分に言い聞かせるように、何度も大丈夫と繰り返す美紅は、不安で押し潰れそうで、見ているだけで私まで苦しくなってきた。
帰りはいつものようにわいわい話しながら帰った。
みく『今日から朝一緒に登校できなくなっちゃった』
次の日の朝、美紅からこんなメッセージが届いた。
美紅の家の前には、専業主婦であるはずの美紅のお母さんの車が止まっていなかった。確か、元々お父さんの女遊びが酷かったって聞いてるし、それかな。
そんなことを考えながら入った教室は、地獄のようだった。昨日は1組だけだった噂が2組まで回ってきていた。しかも、どこで話が飛躍したのか、美紅が仮病を使って瀬戸さんを誑かしてる、なんて噂になって回ってきている。
美紅が仮病?そんなわけない。美紅は本当に体調が悪くなりがちで、色々苦労してるんだから。1組の教室を覗いてみれば、美紅は端っこの自分の席で縮こまりながら座っていた。
もし朝はてなが考えていたことが本当だったら、昨日クラスの女子に何か言われ、家に帰ったら両親が喧嘩、そして次の日学校に行ったら仮病だとかいう噂。踏んだり蹴ったりすぎる。何一つ美紅は悪いことをしていないのに。
【みく視点】
最っ悪。昨日私に何か言ってきた女の子だろうか、誰かが昨日の噂に変なしっぽをつけた。昨日の噂の真実を私は知らないけど、今日の空気を見る感じ、瀬戸くんが私のこと好きとかそういう話だろう。別に悪い気はしないんだけど、それでこんなに悪い噂流されんの最悪すぎる。そもそも今家が大変なのに、学校でもこんなんとか救いはないの?
女子「美紅ちゃん今日は体調大丈夫なのかな?w」
女子「いつも大丈夫でしょw」
どう考えてもわざと私に聞こえるように話している。私に対してなんでそんなに言うのか。私なんていてもいなくても変わらないのに。瀬戸くんが私を好きなんて噂も、所詮ただの噂だし。
今、私はこのクラスでのマイナスな雰囲気を苦しんでいる余裕なんてない。直接聞いたわけじゃないけど、十中八九お父さんの女の人関係。たまに喧嘩してたけど、お母さんが家を出るって判断をしたのは初めてだから、今回はとんでもないことをしたんだと思う、浮気とか。
せと「大丈夫?」
みく「えっ?」
せと「難しい顔してるけど、体調悪い?」
みく「いや、大丈夫、ごめんね」
あえて言うなら心が疲れてるくらい。
まぁ、とはいえ今このクラスに私の居場所なんてないわけで……。あれ、今私の居場所ってどこにあるの?家は夫婦喧嘩で別居、クラスではありもしない噂で居心地が最悪。もしかしてない?今私の居場所ってどこにもないの?お母さんに心配をかけさせるわけにはいかない、いつもだったら相談できてたかもしれないけど、今お母さんを頼るのはだめ。お母さんも誰かを頼りたい状況のはずだから。じゃあ私は誰にも頼れないし居場所は無いし、あれ?私って存在してる理由ある?居場所なくて、いなくなって欲しいって思われてて、頼れる人もいない。て事は誰にも必要とされてn……
せと「おい!」
みく「っあ、え?」
せと「まじで大丈夫?顔色めちゃくちゃ悪いけど」
あーだめだめ、ネガティブ思考はダメ。ポジティブにポジティブに……。
女子1「ね〜瀬戸くーん」
私のポジティブ思考は、胃もたれしそうなくらい甘ったるい声にかき消された。