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時は過ぎ、東京での静かな日々が続いていた。萌香、みりん、いさな、ゆうなは、再び元の生活に戻ったように思えた。しかし、どこかしら心の中で、あの冒険の余韻が消えることはなかった。彼らはそれぞれ、島での経験を胸に、前を向いて歩いていた。
そして、ついにその時が訪れた。
「そろそろ…帰る時だな。」
つきが、静かに言った。その言葉に、皆は驚き、寂しさを覚えた。つきは神様の右腕として、長い間彼らを助けてくれた存在だ。その冷静で塩対応な一面に隠された優しさ、そして彼女が本当はどれだけ心を砕いていたかを、皆は少しずつ理解していた。
「つき…」
萌香が静かに名前を呼ぶ。みりんも、いさなも、ゆうなも、言葉が出ない。何かを言いたいけれど、言葉がうまく出てこない。
つきは、いつものように冷静だった。彼女の白髪ボブの髪が風に揺れ、ベレー帽の下から見えるその目は、普段と変わらず静かなものであり、表情も普段通りだ。しかし、誰もが気づいていた。つきの目に、涙が浮かんでいることに。
「つき、泣いてるの?」
いさなが驚いた声をあげる。普段は絶対に感情を見せないつきが、まさか涙を流すなんて。
つきは少しだけ目をそらし、恥ずかしそうに頭をかく。
「私は、ただ…」
その言葉の途中で、つきは静かに涙をこぼし、顔を背けた。その姿に、萌香たちは驚きと共に胸が締め付けられる思いだった。
「つき…」
みりんが優しく声をかける。「ありがとう。いつも冷たくて強いと思ってたけど、実は…」
「…うるさい。」
つきが涙をぬぐいながら笑った。その笑顔は、普段の冷徹な表情とは違い、不器用で、そしてとても温かいものだった。
「私が感謝してるのは分かってるでしょ。だから、泣いたりしないで。」
つきは顔を背け、無理に笑ってみせようとしたが、その声は震えていた。
その時、突然、空が少し明るくなり、神様が現れた。
「つき、よくやった。」
神様はその言葉をかけながら、つきに近づき、優しく手を置いた。その手のひらには、あたたかな力が込められていた。
「これで、君の役目も終わりだ。だが、心配することはない。君がいてくれたおかげで、あの子たちは無事に帰ってきた。」
「神様…」
つきは小さく頷き、最後にもう一度、皆の顔を見た。
「じゃあ、私はもう帰る。あんたたちも、幸せになりなさいよ。」
その言葉を残して、つきは静かにその場を去った。
つきが去った後、萌香たちは黙ってその場所に立ち尽くした。ゆうなが言う。
「つき、強いけど、やっぱり優しいんだね。」
「うん。普段は冷たいけど…あんなふうに涙を流すんだ。」
みりんも頷きながら、目を潤ませている。
「でも、あの涙は本当に、つきの本心だよね。」
いさなが静かに言うと、萌香は深く息を吐いてから言った。
「私たちも、あの世界から戻ったからには、前を向いて歩こうね。」
「うん。ありがとう、みんな。」
ゆうなが、皆の顔を見ながら、そう言った。
そして、彼らは改めて未来を見据えて、歩き始めるのだった。
次回最終話