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紫陽花
厚い上質なシャツ越しにも伝わる
彼の逞しい胸板の鼓動と体温が、この上なく愛おしい。
「お願い……もっと、キスしてほしいの……っ」
「アデレード……?」
「接近禁止も、もう終わったでしょう……? だから…っ、イグニスに、今すぐ抱かれたいの。全部、全部忘れるくらい……激しくしてほしいの」
涙が彼の肩を濡らした。
恥ずかしいなんて、もう言っていられない。
彼を感じていないと、壊れてしまいそうだった。
「んんっ…!」
言葉を言い終えた瞬間、暴力的なまでの力強さで、唇が塞がれた。
彼の舌が、待っていたと言わんばかりに歯列を割り入り、私の口内を深く蹂躙する。
絡み合う舌、ねっとりとした唾液の音。
イグニス様の目が、狩りを楽しむ獣のように怪しく光った。
「君は本当に……」
彼の囁きが、甘い痺れを伴って脳を揺らす。
「可愛すぎる……。俺の理性が、一週間も待って、どれほど限界か分かって言っているのか…」
そのまま軽々と抱き上げられ、寝室へ向かう。
扉が開くと、銀色の月明かりが差し込む寝台に私はゆっくりと横たえられた。
「…なるべく優しく抱くから…な」
耳朶に触れる低い声。
「今はすべて、俺だけのアデレードだ」
覆いかぶさる彼の影に、期待と情熱で心臓が跳ねる。
「……ううん、ずっと、私はイグニスだけの妻だよ」
見上げれば、紫水晶の瞳が執着の色を濃くして揺れている。
「…そう、だな。…もし痛かったら言ってくれ」
その優しさに泣き出しそうになりながら頷いた。
すると彼の唇が額に触れ
「愛してる」
ドレスの紐が解かれ、夜の冷気を感じる間もなく
彼の熱い唇が私の肌に落とされた。
鎖骨から胸元へ、噛み付くような跡を刻みながら。
「君が傷つかないように。……でも……」
言葉を途中で飲み込むように指先が滑る。
「アデレードが望むなら…とことん抱き潰すが…いいんだな…?」
苦笑いの後には深い吐息。
「…っ、イグニスを感じたいの…っ!お願い…」
「……わかった。…愛してるよ、アデレード」
「んっ、う…」
唇を合わせ、舌を絡ませ
互いの肌を貪り合うたび、心も体も蕩けていく。
不快な記憶はこの激しい温もりに呑まれ、上書きされ、消えていった。
激しさと優しさが交互に訪れる波の中で、私は何度目かの絶頂を迎える。
「アデレード……」
達する寸前のイグニスの低い唸り声。
「アデレード……っ、もう二度と、一分一秒たりとも、離さないからな……っ」
「……うん……私も…離れたくない…っ」
最奥に注ぎ込まれる、逃げ場のない熱を体全体で受け止めながら
私は恍惚の中で、ようやく本当の平穏を見つけた。
月明かりの下、重なり合う二人の荒い息遣いだけが部屋を満たしていく。
イグニスの腕の中で、私は深い安らぎと
熱狂に包まれながら、眠りに落ちていった。