5.2 スノウフェルの贈り物 第二章第一節──ススキノの街と、大規模戦闘訓練一幕1 それは、アキバの街において「雪祭り」と呼ばれる祭りであった。雪像作成や雪合戦を楽しむ〈大地人〉、あるいはその準備を手伝う〈冒険者〉たちの姿は、〈自由都市同盟イースタル〉の伝統的な風物詩といえるだろう。
「え!? これ、どうやってるんですか?」
そんなススキノの街を見下ろす高台で、ココネは驚愕の声を上げていた。
「うん? ああ……そうか」
「私、〈召喚術師〉でまだ雪だるまとか作ったことないんですよ! なのにこんなに上手だなんて、流石はシロエさんですね」
「いや……〈召喚術師〉でも出来ると思うけど……」
ススキノ周辺のフィールドでは、雪だるまは珍しくない。アイテムとして作られることはまずないが、生産系ギルドが練習のためにつくることはある。あるいは、好奇心の強い子供たちが作ることもあるだろう。
しかしそれを自分で作ったことはないココネにとっては初めて出会う芸術品のような存在で、感動と尊敬のまなざしをシロエに向けていた。シロエとしても悪い気はしないのでしばらく放っておくが、このままでは今日中に目的地であるススキノにたどり着けない。
「そろそろ出発しようか」
「そうですねっ! あ、あのっ! お馬さんですか? 雪だるまですか!?」
「……落ち着いてほしいんだけど」
結局、シロエはココネを雪だるまの後ろ側に乗せることにした。別にシロエがココネの後ろに乗ってもいいのだが……どうも気恥ずかしい。そもそも戦闘スタイルがまるで違うのだから仕方が無いだろう。シロエはココネの後ろに乗り、手綱を握る。ココネは自分の装備を調えると、さっそく雪だるまに跨った。
「あ、〈エルダー・テイル〉と同じで乗る順番や場所が違うんですねっ!」
「そうらしいね」
シロエは馬に乗るのは初めてだが、〈エルダー・テイル〉では馬も乗れたし騎乗戦闘も可能だったはずだ。恐らくこの世界の騎乗システムも〈エルダー・テイル〉のそれと似通ったものだろう。シロエはそう考えていた。
だが、それは全くの見当違いだった。
「行くぞ、雪だるま!」
ココネが跨ると、雪だるまが暴れ始めた。それはまさに召喚された時の「暴れる」というコマンドを実行しているようで──恐らくは正しいのだろう──身体を鞭のようにしならせながら激しく暴れはじめる。元々が巨大な雪塊で出来たモンスターであるだけにその動きには凄まじいものがある。そして、〈エルダー・テイル〉ではありえない挙動であるとシロエが考えるのには理由がある。
〈エルダー・テイル〉で騎乗中のキャラクターは、戦闘行動を一切取ることが出来ないのだ。それはゲームシステム上の制限である。だがこの世界では、馬に乗って戦闘行動を取ることが出来るようになっているらしい。
(ということは、〈エルダー・テイル〉に実装される予定にはあったってことか?)
この世界において、〈エルダー・テイル〉に実装されたはずの何らかのシステムが何らかの理由で失われたのだろう。