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帰りの電車。窓の外に夕日が流れるのを眺めながら、私はウトウトと舟をこぎはじめていた。
隣には誠也くんの肩。
温かくて、安心する重さ。
その時……
夢を見た。
波の音、雨の気配、冷たい風。
濡れた服のまま立ち尽くす自分の前に、誰かがいる。
その人は、私の頬に手を添えて、切なげに笑った。
“光……ごめんな……”
えっ?
その名前、誰?
夢の中でなのに、呼ばれた瞬間、胸の奥が苦しくなる。
「やめて……行かないで……!」
声を張り上げたところで、目が覚めた。
「……っ!」
息が詰まり、反射的に誠也くんの袖を握っていた。
『大丈夫か?』
「ごめん……夢、見てた。変な夢」
『また“誰か”出てきたんか?』
「うん……”光”って呼ばれた。私、自分の名前じゃないのに、その名前にすごく反応してしまって……」
誠也が黙った。
やがて、ぽつりと呟く。
『……それ、俺も知ってる名前や』
「えっ……?」
『夢でずっと呼んでた。“光”って。誰か分からへんかったけど、めっちゃ大事な人の名前やって分かってた。』
心臓がドクンと跳ねた。
名前を知らないはずの二人が、同じ名前を夢に見る。
偶然?
それとも……
『なあ、俺ら……前に、どっかで会ってたんかな』
誠也の目が、夕日に照らされて少し寂しそうだった。