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よう、ベルモンドだ。古巣のエルダス・ファミリーから仕事を請け負い始めて三ヶ月が経った。夏も終わるかって時期だな。幸い、仕事そのものは簡単なものばっかりだった。主に殺しだが、相手も屑だからな。迷いはなかったし、報酬も満足できる額だった。
……妙だな、嫌な感じがする。エルダス・ファミリー、ましてやバルモスの奴が律儀にやってるのが信用ならねぇ。今のところ『暁』やお嬢に迷惑が掛かるような仕事は無いが……胸騒ぎが収まらねぇ。これで終わるはずが無ぇんだ。
「ひひひっ、ようベルモンドの旦那ぁ」
相変わらず下品な笑い方だな、こいつ。
「なんだバルモス、また仕事か?次の休暇まで待てって言っただろうが」
仕事は主に休暇の日に受けてる。怪しまれたくないし、なによりお嬢の外出予定が無いことが大前提だ。ルイの奴も強くなってきてるが、まだ安心は出来ねぇし。なにより、ルイに任せちゃ護衛の意味がないからな。
「そう言うなよ、旦那。こいつはちょっとばかし急ぎの案件なんだよ。クリューゲの兄貴直々の依頼なんだ」
「なんだと?」
クリューゲ、エルダス・ファミリー幹部の一人だ。頭は切れるが、やることは屑以下の下衆やろうだ。
「今日の夕方、港湾の八番倉庫に来てくれ。そこでブツの受け渡しをやる。旦那にはその護衛を任せたいんだよ」
「待て、受けるなんざ言って無ぇぞ」
なにより今日の夕方お嬢は『海狼の牙』と会談がある。護衛として側を離れるわけにはいかねぇ。
「こいつぁクリューゲの兄貴直々の依頼だぜ?もちろん報酬は弾むだろうさ。それに、兄貴の顔を潰すつもりかぁ?兄貴がどんな人か知らねぇ訳じゃねぇよな?」
「おい、俺にも都合があるんだ。そっちの都合なんざ知らねぇよ」
「そうかい、そりゃ仕方ねぇなぁ。クリューゲの兄貴には、旦那が断ったって伝えとくぜ。ひひひっ、なにが起きるかなぁ?兄貴が切れたら怖いぜぇ?」
「てめえ…」
やっぱりこうなるのかよ!
「安心しなって、簡単な仕事だからさ。なっ?今回だけだから、頼むよ旦那ぁ」
「…ちっ、今回だけだからな」
今はまだ不味い。お嬢を巻き込むわけにはいかねぇ。話をしねぇと。
全く、嫌になるな。こうなるって分かってたのに、畜生が。
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。この一ヶ月、開発した石鹸と建設した大浴場を『暁』の皆に広めた結果大好評を得ることが出来ました。石鹸については製作も簡単で大量生産の用意をしています。新しい商材になればと期待しています。今度『ターラン商会』に持ち込んでみましょう。
さて、本日は夕方から『海狼の牙』との定期会談です。まあ、サリアさんと雑談する程度ですが、お互いの協力関係を確認するためにも大事なこと。私は会談に備えて身を清めるべく個人的に作ったお風呂で身体を休めています。当たり前のようにルイが居ますが。いつものように後ろから私を抱きしめるように浸かっています。安心できるんですよね、これ。
ただルイはお猿さんなので、いつもそのまま致してしまうのです。私も嫌ではないので構わないのですが、今日はダメです。
「はーー…風呂は良いなぁ。もう水浴びには戻れねぇよ」
「同意します。この温かさを知ってしまったら後戻り出来ませんね」
セレスティン曰く、東方には温泉なる地下から湧き出すお湯を利用したお風呂があるのだとか。大変興味深いので、そちらもそれとなく研究しています。見付けたらもっと気持ちいいんでしょうね。期待が膨らみます。
「お前が作った石鹸って奴も好評だよ。汚れが簡単に落ちるし、何だか身体の艶が増したような気がするんだよな」
「艶と来ましたか。無頓着のルイらしくない」
「いや、俺じゃなくてシャーリィがな?」
「私でしたか…艶…ふむ、そう言えばシスターや女性構成員の皆さんからは特に好評でしたね。となると、女性に売れる。なら香料を足してみたらより売れそうな気がしますね」
「まだ改良するのかよ」
「当たり前です。収入源は多いに越したことはありません」
「そりゃそうだがよ…ん、シャーリィ」
ルイが私を強く抱きしめます。誰か来た!?
「お嬢、風呂に入ってる最中に悪い。ベルモンドだ」
「ベル?」
ドアの向こうからベルの声が聞こえます。
「何だベルさん、シャーリィの裸でも覗きに来たのか?」
「バーカ、どうせ覗くならシスターかエレノアを覗くわ。殺されるだろうからやらねぇけど」
「まあ、そうだよなぁ」
なんか遠回しに貧相だと言われたような気がします。失礼な、人並みには身体も成長しました!シスターやエレノアさんと比べられたらどうにもなりませんが。
「バカな話は後にするか。お嬢、今日の夕方なんだが」
「はい、サリアさんと会う予定ですよ」
あがらなくて良いかな?裸だし。
「延期とか出来ねぇよな?」
「無理です、申し込んだのはこちらですし…サリアさんは気にしないとは思いますが良い印象は受けないでしょう。何故ですか?」
「いや、どうしても外せない用事が出来てな。護衛に付けないんだ」
ベルが?珍しいこともあります。
「別に良いだろ、敵じゃないんだし。俺が付いていくから、護衛は心配すんなよベルさん」
「悪いな、ルイ。頼めるか?お嬢、二度とこんなことが無いように気を付ける」
「分かりました、ベルにしては珍しいですが用事を優先してください。ただ世間話を少しするだけですから」
「悪い、それじゃまた明日な」
「はい、また明日」
足音が遠ざかります。
「ルイならまだしも、ベルが急用ですか」
「ベルさんにも色々あるんだろ。最近忙しそうにしてたしな」
「それもそうですね」
シスターには怪しいと言われましたが…今回は違いますよね。危険はないし、ルイも居ますから。
「取り敢えずあがりますか。また湯冷めしては困りますから」
「だな、流石に『海狼の牙』を怒らせたくはないな」
「その通りです。ルイ、間違っても無作法だけはやめてくださいよ。最低限の礼儀は必要なのですから」
「分かってるよ、俺だってそこまでバカじゃねぇさ。シャーリィに恥をかかせちまうからな」
「分かっているならよろしい」
私達は雑談しつつお風呂からあがり身体を清めて会談へと望むのでした。