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いりす
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放課後の空き教室。窓の外は夕焼けで、吹奏楽部の音が遠くから聞こえてくる。
らいとは机に突っ伏したまま、ぐでーっと伸びていた。
「……もう無理や、今日の補習長すぎん?」
「はいはい、お疲れさま」
ロゼが笑いながら、購買で買ったいちごミルクを机に置く。
「うわ、神。ロゼってほんま優しか〜……」
「知ってる」
「自分で言うなや!」
らいとが顔を上げて笑う。
その笑い声が赤ちゃんみたいにころころしていて、ロゼはつられて目を細めた。
「でも、今日ずっと眠そうだったな。昨日また遅くまで練習してた?」
「……まぁ、ちょっとだけ」
「“ちょっとだけ”の顔じゃないんだよなあ」
ロゼはらいとの前髪を指で軽くよける。
すると、らいとの耳が一気に赤くなった。
「っ、触んなや急に……!」
「熱ある?」
「ないっ!」
「赤くなってる」
「……それは、あれや。夕焼けのせい」
「教室の反対側向いても赤いけど?」
「うっさい!」
ロゼが吹き出す。
「ほんと分かりやすいよな、らい」
「その呼び方ずるいって……」
二人きりの時だけの呼び方。
それを聞くだけで、らいとは心臓が忙しくなる。
ロゼは椅子を引いて、らいとの隣に座った。
「頑張りすぎるとこ、ちょっと心配」
「俺そんな感情出さんし? 省エネモードで生きとる男やけん」
「昨日、歌詞うまく書けなくて泣いてたの誰?」
「……。」
「あと朝、“起きれん〜……”って電話越しに甘えてたの誰?」
「…………。」
「しかも俺がモーニングコール切ろうとしたら、“もうちょい……”って」
「言うなぁぁ!!」
らいとが机に突っ伏して暴れる。
ロゼは腹を抱えて笑った。
「やば、顔真っ赤」
「ロゼが悪いやろ!」
「ごめんごめん。でも、そういうとこ好き」
ぴたり、と空気が止まる。
らいとは固まったまま、ゆっくり顔を上げた。
「……は?」
「頑張ってるの隠すとことか、笑い方とか、すぐ照れるとことか」
ロゼはいつも通り優しい声なのに、妙に近い。
「放っとけないんだよな、らいのこと」
「……っ、」
らいとの喉がきゅっと鳴る。
「お、俺、チャラいやつやけん……」
「知ってる」
「悪いやつやし……」
「うんうん」
「……なのに、なんでそんな優しかと?」
ロゼは少しだけ目を丸くして、それから困ったみたいに笑った。
「好きな人には優しくしたいじゃん」
その瞬間、らいとの思考が完全に止まった。
「…………え?」
「え、今さら?」
「え、いや、ちょ、待っ……え???」
「らい、顔やばい」
「無理無理無理!!」
らいとは両手で顔を覆ってしゃがみ込む。
耳まで真っ赤だ。
ロゼはそんな姿を見ながら、楽しそうに笑った。
「かわいいなあ」
「かわいい言うなぁ……」
「じゃあ、かっこいい?」
「……それは、まぁ、ええけど」
「素直」
「ロゼがずるいだけや……」
するとロゼがぽん、とらいとの頭に手を置いた。
「今日うち来る? カニ鍋する」
「行く!!!!」
即答だった。
「現金」
「だってカニやぞ!?」
「そこ?」
「……あと、ロゼん家落ち着くし」
「俺はらいの家のソファのほうが好きだけどな」
「また寝落ちする気やろ」
「バレた?」
「毎回やん……」
二人で顔を見合わせて笑う。
夕焼けの教室の中、
ロゼはそっと小さな声で言った。
「……好きだよ、らい」
らいとはまた顔を真っ赤にして、
「っ、今それ反則やけん……」
と、消えそうな声で返した。