テラーノベル
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3話
意識が、ゆっくり浮かび上がる。
「……ん……」
重たいまぶたを開けると、見慣れた天井がぼやけていた。
「……あれ」
ベッドの上。
自分の部屋。
体を起こすと、少し頭がくらっとする。
「……なんで」
記憶を辿る。
楽屋で喧嘩して、そのあと__
「……っ」
そこで途切れる。
「やば……リハ」
慌ててベッドから降りる。
足がふらついて、思わず壁に手をつく。
「……なにこれ」
そのままゆっくりリビングへ向かう。
ドアを開けた瞬間。
「……え」
ソファに人影。
目を凝らす。
「……勇斗?」
佐野勇斗が、ソファに座ったまま寝ていた。
腕を組んで、少し俯いたまま。
部屋の電気もつけっぱなしで、そのまま寝落ちたみたいだった。
「……なんでいるの」
小さく呟く。
状況がうまく理解できない。
昨日のことを思い出そうとして、視線が床に落ちる。
整えられたノート。
「……あ」
胸がざわつく。
見られた。
その事実が一気に押し寄せる。
「……最悪」
思わず顔を覆う。
その時。
「……ん」
小さな物音。
勇斗がわずかに動いた。
仁人は固まる。
「……仁人?」
低くて、まだ眠そうな声。
ゆっくり顔を上げて、目が合う。
一瞬、沈黙。
「……起きたのか」
「……うん」
ぎこちない返事。
勇斗が体を起こして、軽く首を回す。
「体、大丈夫?」
「……多分」
少しだけ間が空く。
「……びびったわ」
「え」
「倒れてるし、連絡つかねえし」
「……ごめん」
思わず出た言葉。
でもすぐに首を振られる。
「違う」
「え」
「謝るの、俺の方」
仁人が顔を上げる。
勇斗は少しだけ視線を逸らしながら言う。
「……ノート、見た」
「……っ」
やっぱり。
言葉が出てこない。
「勝手に見て悪かった」
「……それは、別に」
「いや、悪い」
はっきり言い切る。
「でもさ」
少しだけ息を吐く。
「見てよかった」
仁人は何も言えない。
「……めちゃくちゃ考えてんじゃん」
「……」
「俺、完全に勘違いしてた」
静かな声だった。
でも、まっすぐだった。
「考えてないとか思ってたわけじゃないけど」
「……思ってたでしょ」
小さく返す。
勇斗が苦く笑う。
「まあな」
否定しない。
「でも、あそこまでとは思ってなかった」
仁人は視線を落とす。
「……言えなかっただけ」
「うん」
「ちゃんとまとめてから話そうと思ってたら、時間なくなって」
「うん」
「そしたら昨日みたいになって」
言葉が途切れる。
「……ごめん」
また口にしかけた瞬間。
「だから違うって」
すぐに止められる。
「謝るのは俺」
「……え」
「勝手に決めたのもそうだし」
一拍置いて。
「お前のこと、ちゃんと見てなかった」
仁人の目が揺れる。
「……そんなこと」
「ある」
即答だった。
「ちゃんと聞くべきだったし、待つべきだった」
ゆっくりと言葉を選びながら続ける。
「急ぎすぎた」
少しだけ笑う。
「で、お前は抱えすぎ」
「……否定できない」
「だろ」
空気が少し緩む。
「……じゃあさ」
仁人が小さく言う。
「次から、途中でも話す」
「うん」
「完成してなくても」
「その方が助かる」
「……勇斗も」
「ん?」
「一人で決めないで」
「決めない」
「ちゃんと聞いて」
「聞く」
「ちゃんと待って」
「待つ」
間髪入れずに返ってくる。
思わず、仁人は少し笑う。
「……即答」
「今度はちゃんとやる」
その言い方が少しだけ照れていて、空気が柔らかくなる。
「……ありがと」
「こっちこそ」
少しだけ沈黙。
さっきまでの重さは、もうない。
「……てかさ」
勇斗がふと思い出したように言う。
「リハ、もう終わってる」
「……え」
「とっくに」
「うわ、最悪」
思わず頭を抱える。
「まあ仕方ないだろ、その状態じゃ」
「でも……」
「あとで説明すりゃいいって」
軽く言う。
仁人は少し考えてから、息を吐く。
「……そっか」
「それより」
勇斗がドアの方を見る。
「腹減ってない?」
「あ……」
そう言われた瞬間、急に実感する。
「……減ってる」
「だろ」
少し笑う。
「コンビニ行くか」
「……行く」
靴を履きながら、少しだけふらつく。
「おい、大丈夫か」
「大丈夫」
「無理すんなよ」
「してない」
そんなやり取りをしながら、ドアを開ける。
外の空気が、少し冷たい。
でも心地いい。
並んで歩き出す。
今度は、同じペースで。
「……何買う?」
「とりあえず甘いの」
「回復目的かよ」
「必要でしょ」
「まあな」
小さく笑い合う。
さっきまでの距離が、嘘みたいに埋まっていた。
夜の道を、二人で歩く。
コンビニの明かりが、少し先で光っていた。
𝑒𝑛𝑑
コメント
1件
うわぁぁぁぁぁぁぁぁすき