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#異世界転移
花月夜れん
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設楽理沙
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耀聖(ようせい)
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耀聖(ようせい)
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「画院へ戻られるのではなかったのですか?」
麗霞を見送る煜峰に、従者の宜辰が不思議そうにしている。
宜辰の母親は煜峰の乳母で、幼い頃からの付き合いだ。宦官となった後も変わらず煜峰に仕えてくれているのだが、ピッタリと側にいるというよりは陰に隠れてあちこちを詮索していることが多いため、麗霞も宜辰も互いに知らなかったようだ。
「火鼠という店を知っているか?」
「ええ、話には聞いたことがあります。汚い商売をする人間には有名な店ですよ」
「くくっ……汚い、な」
ちょっと拘束して迫ったくらいで卒倒しそうになっている麗霞には、似合わない言葉だ。
思い出し笑いをしている煜峰に、宜辰はますます不思議そうな顔をした。
「すまん」
先程馬車の中で麗霞から聞いた話をざっとしてやると、宜辰は「怪しいですね」と唸っている。
「中書省というと、中書令は胡淑妃の父君でしたか」
中書令は中書省という詔勅の起案を行う官庁のトップ。かなりの重鎮だ。
胡淑妃には息子――つまり煜峰の異母兄である皇子が一人おり、その身分の高さや勢力の強さから、胡一族には以前から警戒をしている。
「そうだ。確かめる必要がある。今からその火鼠に向かってくれ」
「御意」
再び馬車に乗り込むと、当たり前だが、今度は1人だけの空間になった。
つい今しがたまでいた麗霞を思い出しながら、空になったその座席を見る。
「変な女だ」
――至って普通の官女。
それが栗麗霞に対する煜峰の感想。
美人ではあるが抜きん出ているという程でもなく、美女の多い後宮にでも入れば埋もれてしまう程度。
勤務態度は真面目そのもので、与えられた仕事をきっちりとこなすことは当然としても、煜峰に気に入られようといちいち色目を使ってきたり、無駄に絡んでくることもなく非常に使いやすい官女だった。
鉱石を使った高価な顔料をくすねる官女や下女もいる中、そんなことは勿論一度もなく、ただただ仕事にしか興味のない女性だと思っていた。
――ほんの少し前までは。
皇太子・暁明の立場を安定させるべく、日頃から色々と探りを入れていた煜峰は、そんな麗霞の怪しい動きを察知した。
真面目そうに見える者ほど裏があるもの。
こっそりと官女に手紙のような紙切れを渡しては、金品を受け取っている。
誰かの連絡係でもしているのか。
跡をつけても、特に誰か依頼人と呼べそうな人物と接触している様子はない。
それなら紙切れを受け取っていた官女から、秘密裏に中身を確認してしまうか。
そう考えていたところに、発注書の渡し間違え事件。
あまりにも予想外の内容に、煜峰ですら目を疑った。
まさかあの紙切れが春画だとは、誰が想像出来ただろう。
煜峰も男だ。
春画の一つや二つ、見た事くらいはある。
そのどの絵とも、筆使いが違う気がする。流れるような線と、人物の細かい表情。見たこともない、繊細な男女の交わり。
もしかして、この春画を描いたのは女性――麗霞本人なのではないか。
ふとそんな考えが過ぎり鎌をかけてみれば、予想は当たった。
『何でもしますから』
懇願する麗霞に、煜峰は使えると思った。
色仕掛けは古代から使われる常套手段。ターゲットに上手く取り入れられれば、かなり深い情報を引き出せる。
容姿は良い方だし、あんな絵を描くくらいだから経験は豊富だろう。
絶対に裏切らない女性を見つけ出すのは難しく、なかなか使えない手ではあったが、調度良い人材が見つかった。
命や家族といった人質を取って脅す卑劣なやり方を、暁明兄上は嫌う。
そんな事までして皇帝にはなりたくない。そういう人だ。
だがそれが、春画ならば問題ない。
聞く人によってはそんな物で脅したところで、全く信頼できないと言うだろう。
その意見に煜峰は自信を持って「否」と言える。
煜峰が宦官になってから5年あまり。画院で日々見てきた変人、もとい画人達に麗霞は似ている。
自分の描く春画は他とは違うと力説する彼女を見て、それは確信に変わった。
自分の作品の為ならば、命すらも惜しまない。
案の定、麗霞は大人しく従っている。上手くいっているかどうかは別として。
様子を見に覗くと、いつも男性を前にアタフタしている麗霞に何かがおかしいと、煜峰の中に違和感が芽生えた。
男慣れした女が、塀の隙間から覗き見などするだろうか? 見たければ床の上で男にねだれば、幾らでも喜んで見せて貰えるはずだ。
それを女湯でも覗き見するスケベ親父の如く塀にかじりついて見ていた挙句に、紙に描き起こすなど、変態以外の何者でもない。
そしてちょっとしたイタズラ心から麗霞に迫ってみれば……。
「悪いことをしてしまったな」
勝手に経験豊富だと思い込み、男を籠絡してこいと命令してしまったが、彼女にとっては無理難題だったに違いない。
このまま慣れないことをさせてへまをされても困るし、別の使い道を考えるか。宮女達の間では顔も広いようだし、今回のように色々と情報は拾えるかもしれない。
今この時世において情報は、武器にも盾にもなる何よりも重要なもの。
皇帝の老いと比例するように、誰がその後を継ぐかで後継者争いは激しさを増している。
その証拠に、ここ10年で5人もの皇子が亡くなってしまった。理由はどれも病や不慮の事故によるものとされたが、実際のところは分からない。
煜峰も宦官になる前、皇太子の座に近いとされていた頃は、幾度も毒を盛られそうになったり、乗っていた馬が急に暴れだしたりと、危険な目に会ってきた。
宦官になった後は命を狙われることはパタリとなくなり、あの頃よりは随分と自由の利く身になれたのだから、自分を貶めた皇帝にはむしろ感謝するべきかもしれない。
「煜峰様、ここからは徒歩でお願い致します」
「分かった」
もともと胡麻団子を買いに行くために、服は官服から着替えてきている。路地裏に入った所で宜辰に渡された覆面を付け、『火鼠』の看板がかかるドアの前に立った。
「ここからは僕一人で行って参ります」
「いや、私も行く」
普通なら一緒に来ないよう説得するものだが、宜辰《イーチェン》とは付き合いが長い。
面倒な押し問答を繰り返すこともなく、諦めの表情だけが返ってきた。
「身の危険をお感じになったら、すぐに退避すると約束して下さい」
「分かった。約束しよう」
剣はもちろんは帯びてきている。
宜辰が先に火鼠のドアを開けて中へ入った。
コメント
1件
第12話、読み終えました…! ユーフォン視点で彼の内面が描かれた回、すごく好きです。最初は麗霞を「変な女」とクールに見ていたのに、春画の筆使いであれだけ鋭く彼女の才能を見抜く瞬間の流れが、もう…痺れました。「自分の作品の為なら命すら惜しまない」という画人気質への理解が、宦官という立場を超えて彼と麗霞を繋げていく感じがいいですね。 でも、彼が「経験豊富だろう」と勝手に決めつけてたのが、女湯を覗くような初心な麗霞を見て覆されるギャップにニヤッとしました(笑)。「悪いことをしたな」って顛末を思うユーフォン、ちょっと可愛い。 火鼠に向かう彼ら、次は何を掴むのか…楽しみです🌙