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◇◇◇◇◇
少女の名前は、レイラ・メヒカール。
メヒカール帝国の第七王女である。
現帝王と平民であった母の間に生まれた。
レイラの母は、たまたま、通りかかった街のはずれで、若かりし現帝王の目に留まり、愛人として王城に囲われ、望まない生活を王城で過ごしていた。
当然、王族とは認められず、部屋に閉じ込められ、自由のない状態にされ、帝王が来た時に相手をするだけの奴隷のような扱いであった。
彼女は一瞬で目に留まるだけあって、誰もが納得する薄い褐色の超美人であった。
目鼻立ちがはっきりしていて、堀が深く、眼は碧く光っていて、言い換えれば、エキゾチックジャパン系美女である。帝王の目に留まらなければ、幸せな一生を過ごしていたであろう。
なお、メヒカール帝国は、ほとんどの人の肌は薄い褐色で、むしろ、白い肌である方が、マイノリティで差別の対象となる傾向にある。国が変われば、文化が変わるようだ。
それから数年後にレイラが誕生。
相変わらずの閉鎖的な生活であったが、レイラと話し、いろいろ教えることで、閉じ込められながらも、生きる希望を取り戻した。この子のために生きようと。
レイラも母と過ごす生活は、楽しかったが、たまに来る帝王が怖かった。会話もあまりないのだが、母への態度や威圧感に逆らってはいけないと本能的に感じていた。
母はたまに部屋から出て行くことがあったが、レイラにとってはこの部屋が世界のすべてであり、会う人間も帝王と食事を運ぶ侍女のみであった。
それでも、その頃のレイラはそれが当たり前であり、何の不自由も感じたことはなかった。
ところが、レイラが10歳の誕生日の時、その生活に変化が訪れる。
今まで部屋の外に出たことがなかったレイラが大きな部屋に呼ばれ、周りに王族や関係者と思われる人たちに囲まれている。
成人の儀式である。
周りの大勢は、レイラにどんなジョブが与えられるのかを興味本位で見に来ていた。王族は、通常より高等なジョブが与えられる確率が高いことを経験から知っているからである。
このとき、普通に天啓を受け、なんらかのジョブを授かっていたなら、レイラの人生も変わっていたかもしれない。
ところが、レイラに与えられたジョブは『世界民』であった。
そう、これが悲劇の始まり。あってはならないことが起こってしまった。
まさか王族から世界民が出るとは夢にも思っていなかった帝王が激怒し、レイラの母を罵倒とともに罰を与えるのであった。
実はレイラの母も世界民であったため、それが原因であると断定された。
王族や関係者からは2人に対して罵詈雑言を浴びせられ、あるいは、嘲笑の声が漏れ聞こえてくる。その光景は、レイラの脳裏に深く、重く刻みつけられた。まるで汚物を見るような眼で。
帝王は2人とは一切の交流を絶ち、会おうとはしなかったが、この事実が漏れるのを恥ずかしいと思い、今まで同様に部屋に隔離することを決めた。
それからは、母が部屋を出て行き、帰ってくるたびにやつれていった。
それでも、レイラに対しては優しかった。これまで通り、たくさんのことを話し、たくさんのことを教えるために。ただ、心とは裏腹に体は蝕まれていった。
母もレイラのために生きたかった。が、しかし、精神的に肉体的に体が保たなかった。
ある年の冬、レイラを残し、他界した。
レイラにふたつの遺言を残して……。
こうして、母との思い出と遺言だけを残して、レイラは心を閉ざしていった。
ただ、レイラは死のうとは思わなかった。母の遺言を守って。
母の遺言、絶対に生き続けること、そして、奇跡が起こること。
◇◇◇◇◇