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らん視点
「ここか…」
俺は扉の前に立っていた。
そこは小さなアパートで、大家さんに事情を話すといるまの部屋の番号を聞くことができた。
番号を確認して、インターホンを鳴らす。
軽快な音が響くも、返事がない。
何度か鳴らすとわずかに扉が開いた。
「…」
「来ちゃった☆」
「…帰れ」
そう言って扉を閉めようとするいるま。
いつも以上に不機嫌なようである。
俺は慌てて扉に足をかけ、それを阻止する。
「ちょっと待って?せっかく来たんだからもてなそうとかそういう気は…」
「ない」
「…ですよねえ」
「だいたいなんで来た。なんも頼んでねえだろ」
「メンバーの家にリーダーが来たらダメなんですか?」
「…ダメじゃないけど、それなら連絡し…」
「したけど返信してこなかったのは誰?」
「…」
よしもう一息。
「杏仁豆腐持ってきたけど?」
「…入れよ」
このまま押し問答していてもキリがないとわかったんだろう。
扉を開けてくれた。
「お邪魔しまーす…」
部屋の中は意外にすっきりとしていた。
「へえ…」
「なんの『へえ』だよそれは。麦茶しかねえけど飲む?」
いるまが声をかけてくる。
手には麦茶の入ったコップ。
「…」
「おーい、らん?」
いるまが首を傾げる。
「あ、ごめん。お茶ありがとう。ちょっとそこ置いといて」
「ん、…らん!?」
俺は振り返ったいるまの額に手を当てた。
「熱ある…もしかして、昨日から?」
いるまが図星だと言わんばかりに目を逸らす。
「さっきの会議も無理してたんだろ。とにかくベッドで寝て。 いい?」
俺は有無を言わさぬよう一息で言い切る。
いるまは驚いたように俺を見て、案外大人しく頷いた。
「体温計どこ?」
「わかんねえ。あんま使わんし」
いるまが咳をしながら言う。
「はあ…もう、また持ってくる…って俺もないわ。みことに届けてもらうか」
「あ、いや、そこまでしてもらわんくても」
「こういう時は甘えとけって。なんか欲しいものある?」
「…ない」
「じゃあ後で適当に買ってくるわ、台所使ってもいい?」
「あ、…うん、あり、がとう」
いるまは戸惑ったふうにこちらを見る。
「もう寝てな、今日は仕事しなくていいよ」
「ん…いや…」
頷きながらも寝ようとはしないいるま。
寝るよう何度か声をかけるも、ベッドに座り、じっとこちらを見てくる。
これは寝ないなあと思い俺は隣に座った。
「…どした?いるまが体調崩すなんて珍しいね」
「…普通に風邪は引くけど。ていうか今回は…」
そこで言葉を止め、いるまがこちらを見てくる。
いるまの耳が赤い。
そんなに赤かったっけ…て
「あ…」
俺は思わず声を漏らした。
あの時俺に薬飲ましたからだと気づいたから。
いるまの唇が触れた感覚を思い出し、今更ながら恥ずかしさに顔が染まる。
いるまはふいっと顔を背けた。
「申し訳ございません…本当にお世話になりました…」
「…」
深々と頭を下げるも、いるまは顔を背けたまま。
「ごめんて…杏仁豆腐でお許しを… 」
俺が杏仁豆腐を捧げると、いるまは片手でそれを受け取った。
そして俺の方を向く。
「…あのことは?」
「え?」
「らんが、この前話すって…」
「…あー」
俺が顔をあげると、いるまと目が合う。
「今はさすがに話さない。いるまがこんな状態だし…聞いてて気持ちいいもんじゃないだろうし」
「…そう」
「ごめん、やっぱりそれで悩ませてたよね…」
「別に」
いるまは杏仁豆腐を手で転がしながらなんでもない風に言う。
しかし、そのいるまの顔には隈が目立つ。
「…ごめん。馬鹿なことして」
「馬鹿なことじゃねえよ、俺が勝手に考えてるだけやし」
いるまは少し語気を強めるも、そこからは優しさが垣間見える。
「いるまは優しいね?」
「は?そんなんじゃねえよ」
いるまは意味がわからないとでも言うような顔。
俺は思わず吹き出す。
「ふはっ…いるま、寝といて。明日は会議いれないし、活動の仕事も急なのはないから」
「いや、たぶん今夜は熱上がるだろうから今のうちに…」
「いるま、パソコン触る」
「らん!?」
いるまが慌てた声を出すのを聞きながら、俺はテーブルに開けてあったいるまのノートパソコンを見る。
すると、そこには大量のタスクリストがあった。
俺に回ってこないなとは思っていたけど、やっぱりここにあったのか。
「…いるま?」
いるまがビクリと肩を振るわせる。
「何このタスク。全然会議で上がってきてないけど。個人のはこっちで把握できないから申告してっていつも言ってるよな?いるまは、いるまにしか分かんない仕事も多いんだから、尚更。仕事量明らかに俺より多いし、このへんは俺とかにも割り振れる。いるま。まさかとは思うけど、こんだけの仕事、自分1人でこの期日までにしようとか、馬鹿なこと考えてない ?ざっとみても三徹とかしないと無理な量を、1人で?」
「すみません…、あ、いやえっと」
いるまが口を挟むも、俺の言葉は止まらない。
「みことも俺も最近体調不良だったから言いづらかったのはあると思うけど。それにしても溜め込みすぎ。俺も回復したんだからこっちにタスク回して。とりあえず今回せる分は俺に回すから。いるまの今日明日のタスクはなくすよ。これで大人しく寝てくれる?」
「…はい…」
俺は立て続けに言う。
「あ、あともし今日明日シフト入ってるなら、バイト先にも連絡して、休ませてもらうようにして」
「!おま、なんで俺がバイト…」
「見てたらいるまがバイトしてることぐらいすぐ分かるよ。いい?もし無理だったら俺が電話かけるか、代わりに行くから」
こう言えばいるまは必ず休む。
「あー、分かった分かった、連絡すっから」
根負けしたいるまはスマホを取り出す。
「じゃ、俺はなんか必要なもの買ってくるから」
いるまが電話をかけている間、俺は外に出て、必要なものを買いにコンビニへと向かった。
コメント
1件
きゃあああああらんくんかっこよすぎる!!😭💕💕 杏仁豆腐で「入れよ」にさせるのずるすぎるし、熱あるいるまくんを無理やり寝かせに行く流れが完全に「そういうこと」じゃん…! タスク見抜いて一気に全部片づけるとこ、リーダーの鑑だよ…! 「代わりにバイト行くから」もめっちゃ優しいし、この二人の距離、確実に縮まってるの感じたよ…次の展開待ってる!!
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