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#ざまぁ
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しばらくの間
俺たちは言葉もなく、ただひたすらに抱き合っていた。
余計な物音一つしない、静まり返ったリビング。
聞こえてくるのは、お互いの乱れた呼吸音と、すぐ近くで重なり合う心臓の鼓動だけ。
背中に回された竜牙さんの腕は、相変わらず大きくて、分厚くて、驚くほどあったかい。
でも今はその逞しい腕が、どこか迷子になった子供のように頼りなく感じられた。
(……この人、たった一人で、ずっとずっと抱え込んでたんだ)
俺が彼を「完璧なスパダリ」だと崇めていた間も、彼はその裏側で、自分自身の体に怯えていた。
愛する人に拒絶される恐怖と戦いながら、必死で「理想の恋人」の仮面を貼り付けていたんだ。
「……慧斗」
「ん?」
「……本当に、引かないか?」
俺の肩に顔を埋めたまま、竜牙さんがぽつりと呟いた。
その声があまりにも弱々しくて、不安の色を隠せていなくて。
俺の胸はまた、ぎゅーっと雑に雑巾を絞られるみたいに痛くなった。
俺は少しだけ体を離して、至近距離で竜牙さんの顔を覗き込む。
あの鋭くて大人びた瞳が、今は赤く潤んでいる。
こんなにも、今にも泣き出しそうな、無防備でボロボロな顔をしてる竜牙さん、初めて見た。
「引くわけないじゃん。何回言わせるの」
「…でも、お前は……」
「俺さ、竜牙さんのそういうところ、全部ひっくるめて好きになっちゃったんだよ」
竜牙さんが、驚いたように少しだけ目を見開いた。
「優しいところも、かっこいいところも。不器用で、大事なところで意気地がなくて、変に自分に自信がないところも……全部が竜牙さんでしょ?だったら、俺にとっては全部が愛おしいんだよ」
「……っ」
「だからもう、一人で怖がんないで。俺のこと、信じてよ」
言いながら、俺は竜牙さんの火照った頬を、包み込むように両手で触れた。
指先に伝わる彼の熱が、俺の心まで溶かしていく。
竜牙さんは困ったように眉を下げて、力なく笑った。
「……お前、ほんと、ずりぃな」
「なにが」
「そういう小っ恥ずかしいことを、真っ直ぐ目を見て言うところだよ」
「竜牙さんが言わなすぎなんだってば。これからはもっと……お互いに思ってること言い合おうね」
「……努力します」
「俺も、竜牙さんのこともっと大事にするから」
そう答えると、竜牙さんはようやく、いつもの穏やかな笑顔を少しだけ見せてくれた。
その顔を見た瞬間、俺の全身から余計な力が抜けて、ようやく心から安心することができた。
よかった。ちゃんと戻れた。
いや、違う。
喧嘩する前よりも、ずっとずっと深く、彼の核心に触れられた気がする。
「……ねえ、竜牙さん」
「ん?」
「今日さ……部屋の電気、つけたままにしよ」
その瞬間、竜牙さんの肩がぴくっと分かりやすく揺れた。
相変わらず、わかりやすい人。
「……っ、む、無理だ。それは無理」
「なんで。さっき『全部見せる』って言ったじゃん」
「恥ずい。死ぬほど恥ずい」
「今さら?」
「今さらだ。むしろ、自覚したからこそ、余計にハードルが上がってんだよ」
真顔で、大真面目にトーンを落として言われて、俺は思わず吹き出してしまった。
「わ、笑うなよ」
「だって、可愛いんだもん」
「……三十過ぎた男を捕まえて、可愛いって言うのはお前くらいだぞ」