テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
死にたい。理想だって思っていた美形な知り合いに、数年ぶりに再会した今。
私は酎ハイと生ハムきゅうりを握り、両手を塞いでいる。
そして冷蔵庫を足で締める、お行儀が悪い行動。
さらにさらに、ゲームのイベントについて熱く語ってしまった。
喬一さんが帰ったら、このタワーマンションから飛び降りよう。
「あの、ご飯は兄が帰ってきてからって思って」
「そうだよね。俺も今日、一矢から話があるって呼び出されてたんだけど、ごめんね。夜勤明けでそのまま来たからさ」
「そ、そうだったんですね。眠っててください」
そして全部夢だったと忘れてください。
ああ。喬一さんみたいに素敵な人に、なんて行動を見せてしまったんだ。
ゲームなら好感度下げるどころか、攻略対象から外れてしまうに違いない。
「お腹空いてるなら、何かおつまみ作ろうか?」
「いいいいえ! そんなお客様にとんでもないです! 喬一さんこそ、何か召し上がりますか? 冷蔵庫の中身が全くないけど、フロントに電話したら夜食を用意してもらえますよ」
「はは。俺に気を使わなくていいよ。紗矢は、いつも気が利くよね」
「……っ」
片手にきゅうり持ってますけどね。
鼓動が早くなるので「へへっ」と笑ってごまかしていたら、落ちていた携帯を拾ってくれた。私の携帯画面は、ゲーム攻略対象の東大寺くんが映ったままだ。
「ゲームが好きなの?」
「う……まあ、その、出会いもありませんし」
「そうそう。君のご両親も一矢も心配していたな。厳しくしすぎたから全く浮いた話が出ないって。こんなに可愛いのに」
きゅうり持ってるのに?
恥ずかしくって携帯を受け取ろうにも両手が塞がっていたのでお皿を出しに行った。
きゅうりについては何も言わないようだけど、せめて引いてるなら嫌な顔したり、フォローしたりしてほしい。恥ずか死ぬから。
「喬一さんの意地悪」
「え? どこが? なんで」
眠たそうだった目が大きく見開かれ、私を驚いた様子で見ている。
「こんな、ゲームばっかやってて、派手な見た目に反してオタクでお行儀が悪くて中身が可愛くないの、知ってるくせに」
生ハムきゅうりを切りながら、半ば八つ当たりに近い私の言い分に喬一さんは笑う。
包丁で思い切り切ると、生ハムきゅうりはあちこちに飛んでいく。
今の、落ち着かない私の気持ちを表してる。
「俺は見た目が可愛いって言ったわけじゃないけど」
ふっと笑われて、6歳も上の余裕を感じられ腹立たしい。
「可愛いって言うならこのまま30歳まで結婚できなかったら、結婚してください」
こんな姿を見られて、私はこのままベランダから飛び降りて死んでしまった方が人生楽かもしれないと、つばを飲み込んだ。
唖然とした顔でも、やはり古舘さんは顔が素敵だなってパニックで逆に冷静に相手の顔を見てしまった。
「……なんて、ね。酔ってるのかな、私」
まだ開けてもない酎ハイがカウンターに置かれているのに、苦しい言い訳だ。
でもなぜか、彼は表情からは気持ちが読み取れないまま、静かに言った。
「30歳とか面倒だ。今すぐ結婚すればいいだろ」
「はいは……え?」
説教が始まるかと思って流して聞いていたのに、耳を疑った。
「今、一番綺麗な時期にそんな寂しいことを言わない方がいい。よって、今すぐだ」
「え……ええ?」
「6歳も年上の、俺なんかで良ければ、だけどな」
少しはにかんで笑う。その姿に息が詰まりそうなほどときめいてしまった。
ベランダから飛びおりようとしていた私の決意ごと、古舘さんはさらってくれた。
本当にその一か月後には籍を入れてしまうんだから、本当に彼はチャレンジャーなのだと思う。