テラーノベル
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さっきの言葉の意味は?
信じられないまま、話だけは猛スピードで加速していく。
瞬きしていたら、置いて行かれてしまう。
「いやあ、君を今日呼んだのは、うちの奥手の娘をもらってくれないかって見合いの打診だったんだがな」
お父さんが浮かれて、二本目のワインを開けて喬一さんに薦めていたが、私はもう物言わぬ貝になりたくて、ずっと彼の横で固まっていた。
『今でいいだろ』という言葉通り、お兄ちゃんとお父さんが一緒に帰宅した玄関で、真っ先に『娘さんを頂きたいのですが、お話聞いていただけますか』とうちの親に担架を切ったのだから本当に、すごい。
うちの父は、筋肉馬鹿でどんなに忙しくても無理してでもジムに行くほどの若造りで、見た目もいかつい。最近は、格好いい髭を生やしたいと顎鬚を生やしだしてやくざみたいな顔になっている。
こんな親のせいで財産目当ての人しか近づいて来れなかったのに、家庭教師で毎日うちの実家に来ていた喬一さんは全く動じない。
後ろで、兄が苦笑していたのだけはちょっと気になっていたけど。
お父さんはそのまま上機嫌でフロントに電話させて、イタリア料理のコースを勝手に頼んで兄のワインセラーから高級なワインを選んで、尚且つ家にいる母までこっちに呼び寄せた。
「いやあな、うちの娘が最近、悪い男に引っかかってるらしく詳しく一矢に問いただす予定だったんだが、手間が省けたよ」
「ぶっ。なんで悪い男なの!? 誰のせいで男に縁がなかったと思ってるの!」
「最近、給料日前に兄の家にご飯を食べにくる妹が、男のためにお金を使っていると聞いていたから、だ」
ひいい。課金額は兄に怒られたからちゃんと毎月決めていた。
でも趣味に自分が働いたお金を使って何が悪い。ちゃんと貯金はしてる。
ちょっとだけ毎月決めている課金額をオーバーしても、うちは祖母が野菜を送ってくれるから野菜でしのげると思っていたのに。
兄を睨みつけると、楽しそうに笑っている。
妹には激甘だけど、見た目は近寄りがたくって、『なんでこんなこともできないの』って蔑んだ眼をしてきそうなクールぶっている兄だが、中身はお笑い好きのお調子者だ。
あの目元の泣き袋がセクシーって言われてるくせに、黙っていたら王子さまって言われてるのに、可愛いはずの妹を親に売るとは。
「大丈夫です。その件は私と結婚したら解決しますので」
うう。確かに解決するかもしれない。でも隣にこんな素敵な人がいて、私の心臓大丈夫なのかな。
「君なら安心して任せられる。なんなら今から君のご両親呼んじゃう?」
「いいですね」
「や、やめて! ここ、兄のマンションだし。呼ぶならちゃんとした場所であいさつしたい!」
「お、お前も乗り気じゃないか」
もう本当にこの親は嫌だ。
母と喬一さんの母が、幼馴染で仲良しっては聞いていたけど、喬一さんのご実家は歴史ある呉服屋さんだ。長子であるお姉さんが家を継いでいるとは聞いているし、いくら家族ぐるみで仲が良くてもこんな時間にする話ではない。
喬一さんを見るが、上機嫌で微笑んでいるだけだ。
いや、彼の方も父の話に乗ってきている。
「じゃあ、スケジュールを決めましょう。顔合わせはいつにしましょうか」
「そうだなあ。一矢、お前いつ休めそうか」
「えーっと、俺より、先生の方が時間作るの大変でしょ」
私の意見は全く聞かないで進んでいくのは、もはやホラーでしかない。
グラスにワインを注いで、踊る姿を眺めながら、踊らされているのは私ではないかと冷静に考えて、少し背中に悪寒が走る。
「ごめん、不安にさせた?」
ワインをくるくるしていた私を覗き込んできた喬一さんに、私はどんな顔をしていいのか分からず固まる。
文句なんてないし、素敵な人だし、手掴みできゅうりを食べても引かない人だし、憧れに近い人だけど、でもこんな結婚しましょ、いいですよーって簡単に決まっていいのかな。
私が最近やり込んでいるゲームよりも簡単に進んでいるように思う。
現実は小説より奇なりと言ったものだけど、私は今すぐ両頬を抓りたい。
それかセーブポイントがあるなら、保険でセーブさせてほしい。
私のぐるぐるした思考回路を覗き込むように、彼の瞳の中に哀れな私が浮かんでいる。
「早く捕まえたくて焦ったけど、まずは一年ぐらいお付き合いしてみる?」
「えーっと」
「じゃあ、半年!」
なんで短くなってるの。
困っていたら、お兄ちゃんが不思議そうに喬一さんに言ってはいけない質問をする。
「でも久しぶりに会ったのに、早急ですよね。うちの妹のどこが良かったの?」
「お兄ちゃん!」
「え。君の勉強を見ている時から、この子、綺麗になるなあとは思ってたよ。でもそうだね、生ハムきゅうりかな」
クスッと笑って私に意味ありげな視線を向ける。
終わった。今、この場で、暴露するんだ。脅す気だ。
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