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190
#異世界
金山ジョージ
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もな
72
羽海汐遠
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「ご馳走様でした……!」
イリアは空になった食器を揃え、満足そうに微笑んだ。
「全部美味しかったですよ。」
その言葉に、プリムローズはほっと息をつき、照れくさそうにはにかむ。
「えへへ……良かったです。」
胸に手を当て、小さく笑う。
「料理はずっとイリア先輩に任せっきりだったので……少しでも力になれたなら嬉しいです。」
そう言いかけた、その時だった。
「……あっ。」
プリムローズの表情がぴたりと固まる。
「……? どうかしました?」
「……わ、わたくし……。」
みるみるうちに顔色が青ざめていく。
「ヴェルクさんにご飯を持っていくの、忘れていましたわ〜……!」
「……あー。」
イリアは一瞬だけ考え、小さく笑う。
「まぁ、多分大丈夫ですよ!」
「わ、わたくしが今から……!」
「いえいえ。」
イリアは優しく首を横に振る。
「私が持っていきますから、プリムさんは食器の片付けをお願いします。」
「も、申し訳ないです……お願いします、先輩……。」
深々と頭を下げるプリムローズに「気にしないでください」と笑い返し、イリアは朝食の乗ったトレーを持って食堂を後にした。
◇
西棟の廊下は静かだった。
食堂の賑わいとは違い、この時間になると、それぞれの半神たちは思い思いの場所で一日を過ごしている。
部屋で本を読む者。
庭を散歩する者。
何かの鍛錬に励む者。
そして、一日中自室という名の研究室にこもる者。
イリアは廊下の突き当たりにある扉の前で足を止めた。
コンコン、と二度ノックをする。
「ヴェルクさーん、おはようございます。」
「……イリアさんか。」
部屋の奥から落ち着いた声が返ってくる。
「朝食?」
「はい。遅くなってしまってすみません……。」
ヴェルクは軽く首を振る。
「別にいい。ありがと。」
トレーを受け取ると、そのまま何かを思い出したように口を開いた。
「……あと、聞きたいことがあるんだけど。」
「はい?」
「あいつ……ミシェルがどこに行ったか知ってる?」
「ミシェルさんですか?」
少し困ったように笑う。
「すみません……今日、ちょっと寝坊しちゃって……。まだ誰がどこにいるのか分からないんです。」
「なら大丈夫。」
ヴェルクはため息をひとつつく。
「見かけたら、僕の作業メモ取り返してきて。」
「あぁ……なるほど。」
思わず苦笑いが漏れる。
「分かりました。任せてください!」
「助かる。」
部屋を出ようとして、ふと振り返る。
研究机には書類や本が山積みになり、インクの匂いが部屋いっぱいに漂っていた。
ヴェルクが昨夜も遅くまで研究を続けていたことは、その光景だけで十分伝わってくる。
「それじゃあ……。」
少しだけ心配そうに笑い。
「研究もほどほどにしてくださいね?」
ヴェルクは書類から目を離さないまま、小さく頷いた。
「……ん。わかった。」
返事はしたものの、本当に休む気があるのかは怪しい。
イリアは思わず苦笑しながら、静かに部屋の扉を閉めた。
◇
食堂へ戻りながら、小さく指を折る。
イリア「皿洗いはプリムさんに任せて……。」
朝の仕事を頭の中で順番に並べていく。
「あとやることは……。」
廊下を歩き出した、その時だった。
「きゃっ…」
「っわ!?」
軽く肩がぶつかり、イリアは慌てて一歩後ろへ下がる。
視線を上げると、そこには長い黒髪を揺らした女性が立っていた。
「あら……。」
穏やかな笑みを浮かべるその人を見て、イリアは慌てて頭を下げる。
「す、すみません、ローラさん……! お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫よ。」
ローラはくすりと笑い、イリアの顔を覗き込む。
「寝坊助ちゃん?」
「うっ……すみません……。」
肩を縮こませるイリアを見て、ローラは楽しそうに目を細めた。
「ふふ、謝らないで。」
優しく微笑みながら続ける。
「もう……本当に働き屋さんね。」
その時。
パサッ、と小さな音が廊下に響く。
「あら。」
イリアのポケットから、小さなメモ帳が床へ落ちていた。
ローラはしゃがみ込み、それを拾い上げる。
表紙は少し擦り切れていて、何度も開かれた跡がある。
住人たちの好き嫌いや体調、買い足す日用品、その日の予定。
イリアが毎日欠かさず書き留めている、大切な仕事の相棒だった。
「はい。」
「……あ。」
イリアは両手で受け取り、小さく頭を下げる。
「ありがとうございます……!」
ローラはメモ帳を見つめながら、少しだけ表情を曇らせる。
「……ねぇ。」
「はい?」
「少し休んだらどう?」
その声音は、いつもの冗談混じりではなく、どこか本気だった。
「まだ二十歳なのに、働きすぎよ。」
イリアは困ったように笑う。
「あはは……でも、私が休んだらプリムさんにも皆さんにも負担をかけちゃうので……。」
その返事を聞いたローラは、小さくため息をつく。
「……もう。」
呆れたように肩をすくめながらも、その瞳はどこまでも優しい。
「そういうところよ……。」
「え?」
「あなたらしいとも言えるけれど。」
ローラはイリアの額を、人差し指で軽くつついた。
「たまには私たちも頼ってちょうだい?」
イリアは少し照れくさそうに笑う。
「は、はい……わかりました……。」
「……。」
数秒の沈黙。
ローラはふっと吹き出した。
「……このやり取り、前もした気がするわね。」
イリアも思わず笑ってしまう。
「………た、確かに……。」
「しかも、その時も『分かりました』って言ってたわよ?」
「えっ。」
「そして次の日には、また働きすぎて危うく医務室行きになりそうになって…」
「う……。」
図星だった。
イリアは目を逸らし、気まずそうに頬をかく。
「今回は……その、気を付けます……。」
「ふふ。」
ローラは優しく笑う。
「その言葉も、何回聞いたかしら。」
廊下には二人の笑い声が小さく響いた。
穏やかで、何気ない朝。
そんな時間が、この屋敷では何よりも大切だった。
コメント
2件
作者コメント┊︎ わたし、ローラさん、好き。
おお、2話もいい感じだわ〜!イリアの働き者っぷりが伝わってくるし、ローラさんとのやり取りが温かくて「家族みたいな関係」って感じがするね。特に「少し休んだら?」って言葉の裏にある優しさが刺さるわ。彼女が自分のことを後回しにしちゃう性格なのが分かってて、でも頼ってほしいって言える関係って素敵だなって思った。メモ帳のエピソードも細かい仕事の積み重ねが感じられて、イリアの真面目さにじんわりしたよ。次も楽しみにしてる!