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「ユウト様、ご準備よろしいでしょうか?」
「あ、はい!今行きます!!」
ついにパーティの時間になってしまった。
俺は用意してもらったタキシードに身を包んで客室を後にする。
着なれない服を着ているので何だかそわそわして落ち着きがない感じになっているが、パーティ会場に行けばもっと落ち着かないだろうからもうこの違和感は我慢するしかないだろう。厳しい戦場にでも行くかのような覚悟を持って俺は歩みを進める。
公爵家のメイドさんに連れられて俺はパーティ会場へとついに到着してしまった。会場にはたくさんの人たちがグラス片手に優雅に談笑している。空間全体が気品に満ち溢れており、まるでこの場所だけ別世界のような雰囲気である。
俺は目立たないように極力存在感を消して隅っこの方へと移動する。
もちろんスキルは使わず前世からの習慣で影を薄くしている。
まあ流石にせっかく招待されて何もしないで帰るのももったいないので飲み物や食べ物は遠慮なく頂くことにした。会場には綺麗な白いテーブルクロスが敷かれた丸テーブルがいくつも置いてあり、そこには様々な種類の料理が並べられており、好きなものを取って食べるようになっている。
俺は誰の邪魔にもならないようにそそくさと飲み物と料理を取って再び隅の方へと戻り、壁にもたれかかって静かに食事をする。やはり貴族が集まるパーティだけあって飲み物も料理もどれもこれも非常に美味い。こんな緊張する空間じゃなければもっと味わって食べれたのにな…
とりあえずある程度食事を済ませ、ある程度緊張もほぐれてきたので今度はじっくりとパーティ会場を見渡してみる。貴族というだけあって見た目に気をつかっている人が多いのか会場のどこを見ても美男美女ばかりである。まあ中には典型的な権力に溺れていますっていうような見た目の肥えた貴族の姿も見られるけれども。
ふと俺は会場の中で一際人が集まっているところへと目を向けてみると、その中心にはアルバート公爵がいた。その隣には公爵の妻らしき人物、そして後ろには公爵やセレナ様に似ている男性と女性がいた。もしかしてあれが公爵家の長男と長女…なのかな。
じゃあセレナ様も近くにいるかも…!
俺はそう思い、その周囲を見渡してみるが彼女の姿は全く見当たらない。
おかしいな…マリアさんからセレナ様もパーティに出席するって聞いていたのに。
俺はパーティ会場全体を魔力感知で隈なく探知する。
すると俺がいる場所から反対側の壁沿いにセレナ様の魔力を確認した。
俺はセレナ様の魔力を感じた方向へと目を向けてみるとそこには綺麗な水色のドレスを着た彼女が少し下を向いて佇んでいた。この距離からも居心地が悪そうにしているのが一目瞭然であった。
あれだけの美少女だったら他の貴族から口説かれたり、結婚の申し入れとかもたくさんあるだろうにと思うのだが現実はその真逆で誰も彼女に声をかけるどころか近づこうともしていなかった。
「ねぇ、例の噂聞きました?あの白銀の魔女なんですけど、昨日誘拐されたらしいですわよ」
「えぇ聞きましたわ。何でも厄介な集団に狙われているらしいですって」
「ただでさえ見た目も魔眼も気味が悪いですのに、そのうえ厄介事まで持ち込んで…嫌ですわね」
「本当にその通りですわ。公爵様も大変ですわね」
俺の近くで談笑していた女性たちが少しボリュームを落とした声でそのように話しているのが聞こえた。白銀の魔女…つまりはセレナ様が避けられているのはこういうことか。
確かに公爵様もその奥さん、そして公爵家の長男も長女も誰ひとりとしてセレナ様と髪色が同じ人はいない。そう考えるとセレナ様が公爵家の中でも浮いてしまうのは分からなくない。
それもおそらく突然変異か魔眼の能力の影響だろう。しかしそのことをよく理解できていない人たちにとっては彼女の見た目を見て気味が悪いと感じてしまうのは無理もない。そもそも若くて銀髪をしているという人は彼女以外に全く見たことがない。
しかし見た目だけで判断して物事の本質を理解せず避けるのは愚かだな。
そんな連中ばかりのパーティなんか彼女にとって居心地が悪いのは当たり前だろう。
しかし貴族としての責務なのかは分からないけれど、こういう環境でも公の場に出席しないといけないというのは酷だな。貴族も面倒なものだ。
俺はモヤモヤした気分が心の中に広がっていくのを感じた。
せっかく美味しいものを食べれていい気分だったのにな…
俺は気分転換のためパーティ会場から少し外れたところにあるバルコニーへと足を運んだ。少し夜風にあたって気分をリセットでもしようと思ったのだ。
会場からバルコニーへと出るとそこには誰もおらず、先ほどとは一変して静かで落ち着いた雰囲気であった。時折頬をなでる夜風も程よく冷たくてモヤモヤしていた心を洗い流してくれているようである。
俺はバルコニーの柵に肘をついて満天の星空の広がっている夜空を眺める。
何も考えずただただ微かに聞こえる虫や鳥の鳴き声、そしてそよ風の感覚に意識を向ける。
そのようにしてぼーっとしていると突然背後から音がした。
おそらく誰かがバルコニーにやってきたのだ。
しかしこの気配は…
「あっ、ゆ、ユウトさん…?!」
「昨日ぶりですね、セレナ様」
そこには肩に防寒のためか白い羽織をかけているセレナ様がいた。