「じゃあまず最初の曲は、toxicです!」
トキシック。有毒。
このバンド「Stellers」のデビュー曲。
電気は消え、ボーカルにスポットライトが照らされた。
正直、大したことないと思っていた。
「I’m your toxic」
最初の一言はそれだった。
当時9歳の私には、意味なんてわからなかった。
私は君の毒。
そう言う意味だった。
「you’re my dream」
そう。
Stellersは私の夢。
ずっと憧れていた。
「They kissed in the mirror」
その一言と共に、間奏が始まる。
私はその後も演奏を楽しんだ。
だが、集中なんてできなかった。
最初に聞いた時は、体に衝撃が走った。
あの時の感動が頭にこびりついて、ずっと。
忘れられない。
何かは分からないけど。
ナランチャのギターには、Stellersの演奏と同じものを感じた。
まるで、当時の気持ちを掘り返されたように。
あの感動をもう一度、感じた。
私もStellersやナランチャのように、人に感動を伝えたい。
「では、歌います!」
「ああ。」
少しの緊張と高揚感が、私を包み込む。
「I’m your toxic」
私が、あなたの毒になる。
「you’re my dream」
君は、私に夢を見せてくれた。
「they kissed in the mirror」
そう、いつか。
君を超えて見せるよ。
伴奏が始まった。
「君が死ぬ夢を見たの」
Aメロの一言目。
なんともつまらないものだった。
そのまま私はサビ前まで、大した面白みもない、つまらない歌を歌いあげた。
自分はこんなもんだったのか。
少しがっかりした。
でも、私はここで終わらない。
1番の山場の、サビで…!
「you’re my toxic」
声を振り絞って叫んだ。
私は、私は。
これまでたくさん辛い思いをして、積み上げてきたんだ!
こんなもので終わってたまるか!
「恋が強く蝕んで」
大きな声で。
苦しそうに。
「it’s a lot of love which lies」
身を削って。
よりリアルに。
「美しい嘘で永遠に惑わせて」
本当に苦しいくらいに。
息継ぎなんてするな。
「The man has liar face who drowning her」
でも、少しの上品さも忘れぬように。
決して、辛いと思わせないように。
こんなのは演技だと、わかるように。
「They kissed in the mirror」
1番で音楽が止まった。
歌いあげた。
そうだ。
“歌”は決して楽なものじゃない。
そう、身に染みてわかった。
「…Stellersのtoxicでした!」
「…なっ」
部長が少し驚いた顔をしている。
「…お前がここまでやれるとは、思っていなかった。よろしく、ヨハネ。」
「いえいえ。よろしくお願いしま〜す!」
どうやら、心を許してくれたようだ。
「俺も驚いたぞ、まさかそんなに歌えるなんて」
「へへー、ありがとうございますせんせー♪」
「でー?私の歌、ナランチャはどうだったー?」
返答が楽しみだ。
「…ヨハネも…かっ、かっこよかった…」
「…っ!」
なんだろう、この気持ち。
なんだか、胸がドキドキする。
「…まさかヨハネー。照れてるのかぁ〜!?」
いや、違う。
これは照れなんてものじゃない。
い、いや、しっかりして、自分!
私はナランチャのギターが好きだっただけ、だから…!!
…でも。
それなら、今のこの気持ちはなんだろう。
…私。
ナランチャに、”恋”してるの??
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