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同時刻 海中
「「っ!!!」」
バッ!!!
沙悟浄と猪八戒の二人は同時に、天帝達がいる部屋の方向に視線を向けた。
二人は妖気に似た威圧的なオーラを肌身で感じ、如来の身に何かあった事を察する。
「猪八戒、何かあったな」
「確認しに行くか」
「その方が良いな…、悪いが俺達、一旦抜けるぞ」
沙悟浄の言葉を聞いた哪吒は、他の戦ってるメンバーの代わりに答えた。
「ここは私達だけでも事は足りる。妙な気配を放ってる場所に向かうのだろう?」
「あぁ、すぐに戻る!!!」
タタタタタタタタタタッ!!!
哪吒の問い掛けに答えた沙悟浄は、猪八戒と共に走り出す。
「おい!!!男二人が逃げ…、グアアアア!!!!」
グサッ!!!
走り去る沙悟浄達に気付いた天界軍の一人が追いかけようとした時、泡姫は男の胸に槍を突き刺す。
「この女っ!!!グアアアアアアア!!!」
ブンッ!!!
ブシャアアアアアア!!!
泡姫の背後に居た男が剣を突き立てる前に、丁が鎌を
振るい男の首を刎ね飛ばした。
「礼なんか言わないわよ、猿」
「別に言ってもらおうなんて、思ってねーよ。邪魔だったから刎ね飛ばしただけだ」
「あの二人分の動きをしなさいよね!!!」
グサッ!!!
「グアアアアアアア!!!」
丁の背後から迫って来ていた男の腹に、泡姫が槍を突き刺す。
「あれあれ?二人共、なんか息ぴったりじゃない?いつの間に仲良くなったの?」
「「なってないわ!!!」」
ニヤニヤ笑う風鈴の言葉を聞いた二人は、声を揃えて否定した。
ドドドドドドドッ!!!
天界軍の後方から大きな物音が聞こえると、見覚えのある巨大な芋虫達が走って来ていたのだ。
「おいおい!!?あの芋虫達、海の中にまで入って来たのかよ!?」
「これ、逃げた方が良いんじゃない?流石に、この状況はヤバイでしょ」
戦いの最中に芋虫達の姿を見た李と風鈴は、そそくさに逃げる準備を始める。
「隊長、ここは引いた方が良さそうです。猪八戒達とも、合流したいですね」
「オレも、そう、思う」
胡《フー》と高《ガオ》の二人が丁に話し掛けた時、天界軍の軍人達の悲鳴声が上がった。
「な、何だっ!?この虫達は…っ、グアアアアアア!!!」
「「ギャアアアアアアアアア!!!」」
グチャクチャグチャ!!!
芋虫達が一斉に天界軍達に飛び掛かり、次々と天界軍達の体に噛み付き、肉を引きちぎる。
天界軍達の悲痛の声と芋虫達の咀嚼音が廊下に響き渡る中、哪吒達は猪八戒と沙悟浄の後を追い掛けた。
***
沙悟浄と猪八戒が部屋に向かう中、深傷を負った弥勒
如来の前にヒノカグツチが現れ、阿弥陀如来と釈迦如来を睨み付ける。
「おい、何してくれてんだ!!!テメェ等は!!!」
「釈迦如来、このうるさいの何?」
ヒノカグツチの大声を聞いた阿弥陀如来は、怪訝な表
情を浮かべながら釈迦如来に尋ねた。
「阿弥陀如来、この方はヒノカグツチですよ。一応、我々と同じ神でしたよ。今は、如来の式神?守り神のような存在にいます」
「じゃあ、うちよりも弱いって事だよねぇ?斬って良い?」
釈迦如来の言葉を聞いた阿弥陀如来は、弥勒如来を斬り付けた刀をヒノカグツチに向ける。
「テメェ…、俺の事を馬鹿にしてんのか!?」
「や、めろ、ヒノカグツチ…」
「如来!?大丈夫か!?」
「お前が勝てる相手じゃない…、俺と同じ如来だ」
「ふふ、弥勒如来は賢いですね。ちゃんと、相手の力
量を分かっていて」
弥勒如来とヒノカグツチの会話に、釈迦如来が割って入り嘲笑う。
ヒノカグツチはこの時、どうやって弥勒如来の事を逃そうかと思考を巡らせていた。
目の前にいる阿弥陀如来に敵わない事は、弥勒如来に言われる前から体が先に感じていたのだ。
「おい、まだ頑張れるか」
ヒノカグツチが声を抑えながら、弥勒如来に尋ねる。
「俺の話を聞いた上で言って来てるんだな…。なんと
か、走れる」
「俺はよ、お前に死なれちゃ困るんだよな…いつの間にか、面倒くさいと思ってた子守りも悪くないと思ってたんだよ」
「ヒノカグツチ…、犠牲になるつもりか」
「ハッ、俺は最後まで子守りをするまでだ。如来、死
ぬんじゃねーぞ!!!」
タッ!!!
そう言って、ヒノカグツチは体に炎を纏いながら、阿
弥陀如来の元に向かって走り出す。
弥勒如来もヒノカグツチと同時に扉に向かって走り出した。
ゴオオオオオオオ!!!!
ビュンッ!!!
ヒノカグツチは阿弥陀如来に向かって、纏っていた炎を放つが一瞬で炎が目の前から消える。
阿弥陀如来が炎を斬り付けた事で、放たれた炎は刀を振るった衝撃で消えてしまったのだ。
「炎が消えた…だと?」
「何?この威力のない炎。刀を振っただけで、消えた」
驚くヒノカグツチに、阿弥陀如来派不思議そうな表情を浮かべる。
「ありえない…、大炎だったんだぞ!?それをガキが…」
「貴方では阿弥陀如来を倒す事は出来ませんよ。この子は格が違いますから。阿弥陀如来、ヒノカグツチの首を刎ねなさい」
ヒノカグツチの首を斬れと、釈迦如来が阿弥陀如来に命令する。
その言葉を聞いた弥勒如来は、その場で思わず足を止め振り返り、大声を上げた。
タタタタタタタッ!!!
バンッ!!!
「やめろ!!!」
「「っ!!?」」
弥勒如来の大声が聞こえ、天帝が居るであろう部屋の扉を開けると、信じられない光景が広がっていた。
ブンッ!!!
ブシャアアアアアア!!!
刺されている弥勒如来の前に立つヒノカグツチの首が斬られ勢いよく血が噴き出していたのだ。
「おいおい、どうなってんだよ。この状況は…って、如来!?大丈夫か!!?」
扉のすぐ近くで固まっている弥勒如来の肩を、沙悟浄が強く揺らす。
「さご…、じょう、にげ…」
ガクッ!!!
弥勒如来は言葉を吐きながら、その場で意識を失ってしまった。
「あっ、おい!!!しっかりしろ!!!」
「何で、ヒノカグツチが斬られてんだ…?」
沙悟浄と猪八戒が状況を飲み込めない中、ヒノカグツチの首を斬った阿弥陀如来は、部屋に入って来た二人の事を視界に入れる。
「釈迦如来、誰か来た」
「あぁ、我々が求めている経文をいくつか持っている方々ですよ。ほら、話したでしょう?三蔵一行の沙悟浄と猪八戒ですよ」
「あー、このお兄さん達がそうなんだ。じゃあ、斬っても問題ないよね?」
釈迦如来の言葉を聞いた阿弥陀如来は、刀を構え直し不敵に笑う。
ビュンッ!!!
阿弥陀如来が物凄い早いスピードで、猪八戒目掛けて刀を振り下ろした。
キィィィンッ!!!!
猪八戒は二本の紫洸をクロスさせて、阿弥陀如来の攻撃を防ぐが、猪八戒の足元の床に大きなヒビが入る。
小さな体の阿弥陀如来からは、想像出来ない程の怪力な力が猪八戒の体に乗り掛かるっていた。
「このガキッ、なんて力だっ…」
「私の攻撃を防ぐ奴居たんだ。あははっ、ちょっと楽しくなって来た」
そう言って、阿弥陀如来は猪八戒の腹に蹴りを思いっきり入れる。
ドカッ!!!
「ヴッ!?」
ビュンッ!!!
ドゴォォォーンッ!!!
蹴りを入れられた猪八戒は後方に吹き飛ばされ、壁に激突してしまった。
「なっ!?猪八戒っ!!!」
「貴方が行っても、もう間に合わないでしょう」
「天帝…、その姿は一体、何なんだ…。如来の事を刺したのは、アンタなのか」
「私ではないですよ、阿弥陀如来が刺したんです。私の言う事を聞かなかったからね」
沙悟浄の問い掛けに、釈迦如来は淡々と答える。
「それを正気で言ってるなら、おかしいぞ。天帝、命令を聞かなかったから刺して良い理由にならない。悟空を助けてくれた時のアンタと、今のアンタは明らかに違う。こっちが本性だって、言わないよな」
「悟空を助けなければ、美猿王の相手をしてもらえないだろう?私と阿弥陀如来が、簡単に経文を手に
入れられないだろう?」
「は…?それだけの理由で助けたのか?嘘だろ…、天帝までおかしくなったのか」
「さっきから天帝と言うけれど、私は釈迦如来だ。天帝と言う名を借り、神々達を導いて来た。今更、幻滅されても困るよ。君達はこちら側に付いたのだから」
釈迦如来の言葉を聞いた沙悟浄は、驚きのあまり言葉が出て来なかった。
「あははは、起きる前に斬らないとね」
阿弥陀如来は吹き飛ばした猪八戒を追い掛け、起き上
がれない猪八戒に向かって刀を振り下ろす。
ビュンッ!!!
キィィィンッ!!!
「あれ?誰、お前」
「それはこっちの台詞だ」
「な、哪吒!?」
猪八戒の前に立ち、阿弥陀如来の攻撃を止めたのは額に汗を流す哪吒だった。
「間に合って良かった、嫌な予感がしたから来て正解だった」
「哪吒!?追い掛けて来たのか!?」
「そんな事よりも、天帝!!!」
猪八戒との話を遮り、哪吒は釈迦如来に向かって大声を上げ睨みつける。
阿弥陀如来は眉間に皺を寄せながら、哪吒から距離を取り、釈迦如来の前に立ち守りの体勢を取った。
風鈴もすぐさま沙悟の前に庇うように立ち、泡姫が釈
迦如来に槍を向けながら尋ねた。
「やっぱり、神なんてもんは己の私利私欲の事しか考えてない。気持ち悪い、本当に自分の事しか考えてない。私達、妖が言われ続けてきて、妖怪が人間や神を
殺すようになったのも自分自身を守る為。ねぇ、無駄に長生きして来たんでしょ?無駄に色んな事を見て来たんでしょ?どう言う気持ちで見てきたの」
「神が何故、老いる事なく長生きしているのか…、知っているかい?何故、人魚の数が少ないのも」
釈迦如来の言葉を聞いた泡姫の顔色が青くなり、唇を震わせながら問い掛けに答える。
「私の事を馬鹿にしてるの…?知らない訳がないでしょ。アンタ達が人魚を攫って、御膳に並べて喰っていた事を!!!何が長寿だ、何が不老だ!!!アンタ等は普通の奴等よりも力があるのに、これ以上にまだ望きなの!?」
「私はね、神しかいない世界を作りたいんだよ。そこに食料として、人魚の生産をしていきたい。つまり、君達には頑張って貰わないといけない」
そう言って、釈迦如来は泡姫を含めた人魚達の体を舐
め回すように見つめる。
スッ!!!
視線に気が付いた沙悟浄が、釈迦如来の頬を鏡花水月の刃を走らせ、頬から赤い血が垂れ落ちた。
「釈迦如来!!!頬から血が!!!お前っ!!!」
「沙悟浄…?」
「これ以上、ガッカリさせないでくれ。人魚を喰うの
も、誰かを傷付けんのも、何の為になる?何もならないだろ」
「阿弥陀如来、お前は下がってなさい。何もならない事はないよ、沙悟浄。君の行動一つで、私の敵意が生まれ、私も君達に敵意が生まれた。この争いに勝った者が、この汚れた世界を変えられる。何もかもを塗り潰して、無かった事に出来るんだよ!!!」
阿弥陀如来を下がらせた釈迦如来は、沙悟浄の悲願を笑ながら答えた。
「沙悟浄…、貴方…」
沙悟浄の言葉を聞いた泡姫は心を打たれ、猪八戒達を
含めたメンバーは、哪吒でさえも言葉を失ってしまう程の空気が漂う。
ドドドドドドドッ!!!
「「「キイエエエエエエエエエエエ!!!!!」」」
背後から口の周りが血で赤くなった芋虫達が、一斉に
走ってくるのが見えた。
天界軍達を食い荒らし数分で、次の獲物である沙悟浄達の後を追い掛けて来たのだ。
「チッ、こんな時に!!!」
沙悟浄は慌てて弥勒如来を担ぎ、猪八戒と泡姫の二人は沙悟浄の左右に立つ。
「阿弥陀如来、コイツ等をまとめて斬りなさい。あの芋虫達が来る前にね」
「あははは!!!分かった!!!」
釈迦如来の言葉を聞いた阿弥陀如来は、大きく刀を振り上げ、力強く振り下ろした。
ドドドドドドドッ!!!!
放たれた大きな赤色に光る光の刃が、速度を上げながら沙悟浄達の元に向かって来る。
赤色の光の刃はどんどん大きくなり、沙悟浄達を余裕で超える程の大きさになって来ていた。
「これは…、まずいな…」
「後ろから芋虫達が来てるし…。前からは変な光の刃が、デカくなって来てるし…。逃げられる場所がねーな」
「いやいや!!!冷静に分析してる場合じゃねーだろ!!!どうすんだよ!?このままだと俺達、死んじまうぞ!!!」
沙悟浄と猪八戒の話しを聞いていた李が、怒りながら割って入る。
ドドドドドドドッ!!!
「「「キイエエエエエエエエエエエ!!!!」」」
背後から芋虫達が迫り、前から赤い光の刃が迫って来た時、沙悟浄達の目の前に黒色の鳥居が降り立った。
ドゴォォォーン!!!
「「「っ!!!?」」」
突然、現れた黒色の鳥居に沙悟浄達が驚いていると、
中から天と邪が姿を現したのだ。
「天と邪!?何で、ここに居るんだ!?」
「間に合って良かった。タイミング、バッチリじゃない?あ、死にたく無かったら、早く入った方が良いよー?猪八戒達?」
「もー、何が何だか分かんないって、邪!!!みんな、とりあえず中に入るぞ!!!」
ダッ!!!
猪八戒の呼び掛けを聞いた沙悟達は、天邪鬼が出した黒い鳥居の中に急いで入った。
ドドドドドドドドドドドッ!!!
「「「キイエエエエエエエエエエエ!!!!」」」
猪八戒達が姿を消した直後、阿弥陀如来が放った赤色の光の刃が芋虫達を容赦無く斬り付ける。
ブシャアアアアアア!!!
ボトボトボトッ!!!!
芋虫達の体から大量の緑色の血が噴き出し、斬り落とされた胴体が音を立てて床に落ちて行く。
「釈迦如来!!!アイツ等、逃げちゃったよ!!!どうするの??」
「落ち着きなさい、阿弥陀如来。彼等が逃げた場所は、だいたい検討がついているよ」
「追い掛けないの?」
「いや、追い掛けるよりもやるべき事があるよ。彼が喉から手が出る程、返して欲しいモノを返してあげないとね」
そう言って、釈迦如来は手にひらから光の玉を出現させた。
***
下界 平頂山
源蔵三蔵 二十歳
星熊童子がいつの間にか姿を消し、金平鹿と美猿王、毘沙門天と吉祥天だけが広間にいる状況だ。
重苦しい空気の中、口を開いたのは美猿王だった。
「そろそろ、帰って来るか」
「え?」
ボンッ、ボンッ!!!
美猿王が呟いた後、ボンッと爆発音が二つ重なり、大きな白い煙が上がる。
鏡で悟空と牛魔王の戦いは途中までしか写ってなかったから、どっちが帰って来たのか分からない。
白い煙が晴れ、最初に現れた人物を見て、俺は掛ける
言葉が見つからなかった。
左目から頬に掛けて深い切り傷を残し、小桃を抱き上げている悟空の表情が言葉を語らせなかった。
悟空の隣にいる眼帯を着けた男と、ミルクティ色の長い髪の妙な女と、黒風の姿が…。
「牛魔王の事を殺して戻って来たか、悟空。顔の傷はわざと、治さなかったのか?」
「何がしたいんだ?テメェはよ。牛鬼を修羅道に落としたのは、お前だろ?」
「だったら?」
美猿王の言葉を聞いた悟空は眼帯の男に小桃を渡し、
如意棒を構えてから一瞬で美猿王の目の前まで移動する。
ダンッ!!!
だが悟空が動き出した時、金平鹿も同時に動き出していた。
「まずいな、悟空!!!」
「チッ、仕方ないなっ!!!」
「まっ…!!!」
ゴロゴロ…。
沙悟浄と猪八戒が走り出したので、俺も二人の後を追い掛けようとした時、俺の足元に何かが転がって来た。
「っ!!!三蔵、見るな!!!」
部屋に入って来た羅刹天が俺の名前を呼んだが、俺は床に転がって来た物に視線が釘付けだった。
俺の足元に転がって来たのは、青白い顔色をしていたお師匠の首。
さっきまで生きていて、俺の目の前で生きていたのに。
「し、師匠…?どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして…?」
師匠が死んでる事は、誰が見ても分かるのに、脳が師匠が死んだ事を認めようとしない。
だって、さっきまで…。
「何で、何で…?何で、こんな事になって…」
その場で座り込み、師匠の首に触れようとした時、師匠の首を誰かに踏まれた。
ドカッ!!!
グシァァァ!!!
力強く踏まれた師匠の顔は原型を留めていなく、赤黒い肉片へと変わり、飛んで来た血が頬に付着する。
「あははっはは!!!面白い顔してんじゃん!?源蔵三蔵」
頭上から声が聞こえ、見上げると牛頭馬頭が興奮気味で笑ってるのが見えた。
目の前で起きた光景は現実なのか?
それとも夢…?
頬に飛んで来た血を指で拭うと、氷水のように冷たく血生臭い匂いが鼻を通る。
そのまま牛頭馬頭が斧を振り翳して来たが。俺の体は動かなくなっていた。
キイィィンッ!!!
「あ?誰だ、お前?」
「何やってんだ、三蔵!!!」
牛頭馬頭の攻撃を防いでくれたのは哪吒だった。
「…」
「三蔵…?」
何も答えない俺を見た哪吒は困惑した症状を浮かべ、牛頭馬頭はまた斧を振り翳す。
言葉が出てこない、頭痛がしてきた。
息がし辛い、目頭が熱い、喉が痛い。
「あ、あああああああああああああ!!!」
鼻の奥がツンッてして、涙が滝のように溢れ出し、俺
は肉片になったお師匠の前で泣き崩れた。
源蔵三蔵が泣き崩れる声が背後から聞こえ、哪吒は牛頭馬頭の斧を太刀で跳ね除ける。
ブンッ!!!
キイィィンッ!!!
「っ…、退け!!!」
「おっとっ!!!何?子守りでもするつもり?」
牛頭馬頭の言葉を無視し、哪吒は源蔵三蔵の小さくなった背中を抱き締めた。
「あ、あああっ、何で、何で…っ!!!あ、ああああああああ!!!!」
「三蔵、落ち着け!!!」
「あ、あああああああ!!!」
哪吒の言葉など、今の源蔵三蔵に何も聞こえなかった。
***
キイィィン!!!
悟空が美猿王に向けて伸ばした如意棒が、美猿王の背後から飛んで来た青龍刀に動きを止められる。
「お前は何に対して怒ってるだ?牛魔王が死んだ事か?それとも、小桃の前で百花が死んだからか?」
「何がしたくて、お前は俺達を修羅道に落とした。本当に殺し合いをさせる為だったのか?あ?」
ガシッ!!!
そう言って、悟空は美猿王の胸ぐらを掴んだと同時に、悟空の周りに血統術で作られた血の刃達が囲む。
一歩でも動けば、悟空の体に刺さる状態を美猿王は瞬時に作り上げていた。
「お前の大好きな爺さんを殺した相手だろ?牛魔王は。アイツの過去を知って、可哀想に思ったんだろ」
「あ?!」
「可哀想だったとしても、アイツがして来た事は自分の意識でして来たんだよ。牛鬼に逆らえなかった?そんなのは言い訳なんだよ、屈したんだ。俺っだったら、過去がどうだろうと殺してる」
「アイツも爺さんも、許されない事をして来た。だがな、あの二人を許したんだよ、俺は。牛魔王も、最後は百花を守って死んだ。殺すだけじゃ、何も変わらないんだよ。美猿王、アンタがしてる事は、アンタが嫌って来た神と同じだ」
悟空の言葉を聞いた美猿王の瞳から光が消え、血統術で作られた刃が一斉に悟空の体を貫いた。
グサグサグサグサグサグサッ!!!!
「グアアアアアアア!!!」
悟空の叫び声が部屋中に響き渡り、眠っていた小桃がゆっくりと目を開ける。
「「悟空!!!!!」」
「「「若ああああああああ!!!!」」」
タタタタタタタタタッ!!!
金平鹿を止めようとした沙悟浄と猪八戒の前に夜叉が立ち、持っていた刀で二人の前の床に一本の線を作った。
「この線を一歩でも越えようとした時、お前等の首を刎ねる」
「「っ!!?」」
夜叉の背後に居た二体の白いマネキン人形が二人の背後に移動し、首筋に刀を刃を当てる。
「そこに立ってる猿共もだ。死にたいなら来い」
悟空の元に向かおうとする丁達の背後にもマネキン人形が現れ、夜叉は静かに静止させた。
「お前、王に向かって生意気なんだよ!!!」
金平鹿が刀を振り上げて悟空に飛び掛かろうとした時、阿修羅が素早い動きで金平鹿の横腹に蹴りを入れた。
ドカッ!!!
「ガハッ!!?何だ、この女はよ!?」
蹴り飛ばされた金平鹿は空中でバランスを整えなが
ら、阿修羅を睨み付けた。
「阿修羅、何しに来た」
「お前の誘いを断りに来た」
美猿王の問い掛けに答えた阿修羅は、悪戯げに笑った。