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1番手前の煉瓦造りの建物に2人で入る
やはり多少年齢があるとはいえ言語の不便さからも心配が募るのか、隣にいる彼は縮こまるように立っている
話は聞いている?
えぇ、もちろん
副幹部様がおっしゃっていましたよ
それは良かった
もう連れてきたんだが入れるか?
えぇもちろん
ただスマイル様…..
いくらなんでもここじゃあ“あれ”が近すぎやしませんでしょうか
そう訝しげな表情で俺の顔を覗き込む孤児院長に俺は口が回らない
…….いや
俺が頼んだんだ
俺の見込みで…
ここに置いてくれないか
そうそっと目を合わせて言うものの
いいですけれども…..
それにここにはあの子がいるのに本当にいいのですか…?
やはり訝しげな様子を解いてくれる気はなさそうだった
…..いい刺激だろう
俺は一拍置いて言った
はぁ、全く
時々身勝手なことをおっしゃいますよね
そう眉を困らせつつも笑った彼は言った
任せてください
大切な家族として迎え入れますよ
本当にありがたい….
はは
あなた方の勘には付き合わないと
……まぁ勘に過ぎないかもと保険はかけたいがな
まぁまぁ長話も良くないですね
さぁ
そう手を差し伸べられた彼はだいぶ困惑している様子だ
あぁ
それでも19歳だからな
へぇ
どうりで顔つきが大人っぽいこと
そうだ東の子でしたね
失礼しました
ではスマイル様は少しお待ちくださいね
よければコーヒーでも飲みます?
そう微笑む彼に首を振った
すぐ移動するつもりだったからおかまいなく
そうですか
では手続きだけお願いしますね
お忙しいのであれば後日でも構いませんよ
いや、今俺が書こう
わかりました
私はこの子をみんなに紹介してきますね
そう言って煉瓦造りの家から出て行った彼らの背中を見て目を細めた
東の言葉しかわからないと聞いたけど…
間違いないです
すみません
いやいや、謝る必要はないよ
ただこれからここでこの国の言語を学んでもらわなきゃならない
今聞いたのはこの国の言語で書かれた本をあなたが持っているから
あぁ、これは…..スマイル…が買ってくださって
ああ、ほんとに
…いいことだよ
その本が読めるようにしっかり学ぼうね
それと、ここの話については聞いてきてるってことで大丈夫?
はい
ある程度の話は聞いてきました
ならいいね
そう話しながらついた建物の中はとても騒がしい
ここで靴を脱いで
夕食の前にみんなに紹介したかったんだけど
少し間に合わなかったね
どうする?何か食べてきたんだろう?
先に寝泊まりする部屋でも見る?
なんでも大丈夫です
うん
じゃあ部屋に行こうか
別の棟だからね
そう外へと導かれ歩いていく
賑やかな声は絶えず聞こえていた
そのまま色々な棟を紹介されてまたその人と歩いていた
抱え続けていた本と服は部屋に置いてきた
先ほどよりも身軽になってまた知らない棟へと足を踏み入れている
あの、ここは何ヶ所の棟が…
覚えきれそうにないその数に俺は思わず聞いた
ん〜12はあるね
全部使えるとこではないけれど
わぁ..
思わず変な声が出てしまったことにも気づかなかった
さあさ、そんなことを話してるんじゃなくて
やっとお披露目だよ
そう振り返って笑ったその人は続けて言う
君をみんなに紹介しよう
賑やかだ
その声のトーンは俺が今まで聴いてきたものよりずっと高い
胸に何か苦しさを感じる
あれ、緊張しちゃうタイプ?
そう顔を覗き込むその人の振る舞いはずっと子供向けだ
……いえ、?
ここの言語での挨拶と自己紹介の仕方を教えてください
できる限り言います
その人は少し驚いた表情をしてからすぐに笑った
思ったよりも難しくはなかった
発音の仕方や単語の順が同じだから
でも、
それ以上の会話はできないから
そこからはまた”みんなのはなし”
一番遠くのドアから誰かが大きな声で何かを言う
それを聞いた皆は一斉に部屋を出ていって
ぽつんとひとり残される
おいで、
そう俺を手招くのは案内し続けてくれている人
外はしんしんと降り注ぐ雪があった
ここは雪が降るのかと少し驚いた
建物の構造があまり向いているように思えなくて
暗くなってきたね
今の時間は18時だけど全体行動はこの時間に終わり
このあとはそれぞれの棟に戻ってそれぞれ過ごしてもらう
さっき荷物を置きに行った棟だよ
寝室は1人部屋だけど小さかったよね?
中部屋があってそこでみんなで寝ている子もいるよ
それ以外にも大部屋がいくつかあるからそこで寝るまでの時間を遊んで過ごす子が多いかな
明日からはその時間の最初の1時間を勉強に使うけど今日は自由に過ごしてもらおうと思って
はあ
そうへんてこな声が出続けてしまうのはしょうがないかもしれない
すごく違うんだ
断片的に覚えているあの国の過ごし方と
大丈夫
同じ出身の子もいるから孤立しないとは思うよ
みんな君のことが気になっているようだし
ゆっくりでいいから馴染もう
そう背中を押されてから棟に向かう
しんしんと降り注ぐ雪の中俺は傘も刺さずに歩いている
冷たさが懐かしくて気持ちよくて
顔が濡れることが気持ちよくて
都合が良くて
このまま外にいたいとも思った
がたんと音を立てて棟に入ると
それだけで暖かさを感じる
弱い光が通路を照らしそれぞれの部屋の灯りを繋いでいる
Da sind wir.
Die Neulinge gehören wohl doch zu unserem Trakt.
Anscheinend kommen sie aus dem Osten.
Ach so. Kein Wunder.
Ihr dort! Ihr stammt doch aus dem Osten. Bringt sie her.
少し離れた部屋の方から顔やら身やらを乗り出す人たちは何かを話している
わからない言葉にため息をつきたくなった
そんな時反対側のさらに奥まった部屋から物音がする
Ach
Der da ist es.
Das ist wohl eine Art Taufe
Geht das wohl gut?
Ich kann nicht eingreifen
何か含みのある声色で何かを言った彼らはそそくさと部屋の中に戻って行った
…..なに..
思わず口に疑問を出した時だった
遠くで低く音が鳴る
それは重い扉が思い切り開けられた音
は
息を吸ったのも束の間
Stirb doch
何かをぼそりと呟かれた
そう判断した時には俺を薄着のまま床に転がっている
腹のあたりがずきりと痛む
俺が立っていた場所には別の人影が立っている
緑髪に反転した黒い目
綺麗な鼻筋と裏腹の印象を持たせる牙のような八重歯
俺は痛む腹を抑えながら悟る
“彼”が
スマイルの言っていた
“シャークん”だ
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