「いいか、オレもお前も学生っつー身分である以上、それぞれの生活ってもんがある。オレにはオレの予定があるし、お前にもお前の都合があるだろ。全部をすり合わせようだなんて、はなっから無理なんだよ。それにな、オレがお前のバイトに付き合うってのは、それだけオレの時間がなくなるってコトだろ? お前の言う『執事』ってのは、『主人』の大事な時間を奪うもんなのかよ?」
「っ、そういう訳では……」
「だろ? だから、今日みたいなのはナシ。それと、朝もわざわざオレの予定に合わせて来なくっていいから。夜だって、気が向いた時だけでいいんだからな。お前の時間はお前のモンだ。オレだけ自由にさせろってのも、不公平だろ?」
ついでにこの変な関係を終わらせてくれたっていいんだ。
そんな思いを腹の底に含みながらそれらしく諭すと、ぐっと眉間に皺を刻みながら熟慮していた邦和が、重い口を開いた。
「……功基さんのご意見はもっともです。わかりました。私も、功基さんの貴重なお時間を頂戴するのは、本意ではありません」
「じゃあ」
「ですが、その他に関しては、私が好きでやっていることです。功基さんにご予定がおありでしたら、当然、そちらを優先させて頂いて構いませんが、その他の件に関しまては、ご理解を頂ければ」
つまりは現状維持で納得しろというのか。
『交換条件』としている以上、邦和の理解なしに制限は出来ない。
功基は仕方なしに頷いた。
「……わかったよ。その代わり、マジで無理すんなよ」
「勿体無いお言葉です」
深々と頭を下げられた後頭部を見下ろしながら、功基は自身の異変に気づいた。
(……なんでオレ、ちょっとほっとしてるんだ?)
せっかく自由になれるチャンスだったというのに。ここは、ガッカリすべき場面だろう。
不測の感情に胸中で首を傾げるも、当然、答えが降って湧いてくる筈もない。
ぼんやりと思考にふける功基を、邦和の落ち着いた声が呼び寄せた。
「お夕食ですが、リクエストはございますか」
「あ? あー……お前、ハンバーグって作れる?」
「功基さんはハンバーグがお好きですか」
「なんだよ悪いかよ」
「いえ、お好みが知れて大変嬉しゅうございます」
「お前な……」
(一体どこまで本気なんだか)
あまり妙な言い回しをすると変な誤解を生むと、そのうち教えてやらないといけないかもしれない。
「では、買い出しにいって参ります」
足の痺れはないらしい。
すっくと立ち上がった邦和に、功基も腰を上げた。
「オレも行く」
「いえ、お待ち頂いて……」
「行くっつったら行くんだよ。なんだよ一緒は不満か?」
「いえ」
功基を見下ろす邦和の顔が、花咲くようにほころんだ。
「大変、嬉しいです」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!