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ヒーさん 様より、イカレナチス×ドイツ
※旧国
昔々…と言っても、せいぜい数十年前。
生まれて数年も経っていない政党が、多くの国を恐怖に陥らせた。
人体実験、虐殺、戦争…その他数々の悪行を眉一つ動かさず遂行して、のし上がって、列強として建て直した人物。
それこそが自分の父であり、この世で最も罪深い最悪の存在、その名ナチス・ドイツ。
不気味な赤い瞳を光らせ、細く小さな体格からは想像もできないような残虐さと強さを兼ね備えている。
獣のような歯を見せて笑う姿はまさに悪魔。
今までに起きた損だって、大抵奴のせいだ。
双子の兄を失ったのは、あいつが裏切って無理な勝負を挑んで負けたせい。
俺が国際社会に馴染めなかったのは、あいつの犯した罪が俺を縛り付けたせい。
こうして働き詰めなくてはいけないのだって、家にあいつがいると考えたら帰りたくないからだ。
そうじゃなかったら、とっくに仕事を終わらせて帰っている。
俺はそこらの無能とは違う。
…じゃあなぜ逆らわない?
そんなくだらない質問はやめてほしい。
あんな頭のおかしいやつに逆らってみろ。
死ぬより酷い目に遭いたくないのなら、大人しくお人形している方が自由なのだ。
「はぁ…」
暗い社内で、ため息を一つ。
誰もいない部署は気が狂いそうなほど静かで、苦悩を吐き出す音と殴るように叩くキーボードの音だけが響いている。
疲れのせいか耳がおかしくなってきて、ずっと音が反響し続けて気分が悪い。
そろそろ限界なのだろう。
「家…帰りたくねえな…」
度の強いメガネを取り、ブルーライトにやられた目を擦る。
昔反抗した時に思い切り殴られ、視力はほとんどない。
それ以来反抗しようとは思わなかったし、思ったら殺されるくらいの気持ちで生きてきた。
もう十分なんじゃないかと思って縄やカッターや練炭なんかを購入したが、結局はここで働いている。
頭の中はいつも俺の裸眼と同じくらい靄がかかっていて。
印がなければ歩くことすらままならない 。
命令がなければ動くことすらできない。
「もう帰るか…」
今日は公園で野宿だ。
「…俺が生まれた時代は、もっと星が見えたのになぁ…」
いつの日か兄さんと見た星々は隠れ、代わりに高いビルの窓が光っていた。
ベンチで横たわる俺は惨めで、家に帰っても帰らなくても、あのサイコパスからは逃れられないことをひしひしと感じる。
もう死んでも、襲われても、どうなってもいい。
足早に過ぎていく時を忘れたくて、俺は目を閉じた。
「…あれ?ニエムツィ?」
「…」
目が覚めると、どこか知らない天井が目に入った。
「ふへ…んにゃ…」
「!?…だ、誰だ?」
もしや売春宿にでも連れて来られたか?と疑いかけたが、よく目を凝らして見れば、隣で寝ていたのはポーランドだったらしい。
赤と白の特徴的で見やすい色なので、なんとか判断できた。
「…まずい、本当に見えない…」
おそらくここはポーランドの家。
それは良いのだが、柔らかい布団の中から出たところで動けないのだ。
見知った家、嫌いなやつの家ならともかく、ポーランドは父親が無惨なことをしたにも関わらず仲良くしてくれている。
下手に動いて何かを触って壊しでもしたら、俺は申し訳なさで自害するしかない。
切実にメガネが欲しい。
「…きっと会社にも遅れるな…もういいや」
俺は幸せそうに眠っているんだろうポーランドを一瞥し、もう一度頭を枕へ預けた。
すぐに襲いかかってくる睡魔に抵抗することもなく、また目を閉じる。
もう二度と開かなければ、この地獄からも抜け出せるのだろうか?
何か、ガチャガチャ、カチャカチャと金属音が重なっている。それに誰かの呻き声も。
微かに鉄臭く、なにやら生臭い。
「ぅ…な、にが…」
俺が寝ていた場所は柔らかいベッドとは程遠く、硬い。おそらく ソファか何かだろう。
「ようやく起きたか?息子よ」
低い声が耳を震わせた。
「ぁ…と、父さん…」
よく見えなくたってわかる。
自分がこの世で最も忌み、心身ともに恐怖で覆われるこの感じ。
気がつけばソファらしきものから降りて、震えながら膝をついていた。
「いつも言っているよな?プライベートで私が認めた相手以外との交流は、絶対に許さないと」
「は、はいっ…」
「私はポーランドの家で寝泊まりなど、許可していないが?」
「ぁ…そ、それは…」
眠気は霧散したものの、やはり寝起きのせいか頭が回らない。
威圧的な声にただ恐怖して言い訳を探していると、急に頭を撫でられた。
床に押し付けるでも、殴るでもなく、ただ撫でられた。
普通の親子なら、安心して身を委ねるのだろう。
だが、俺からすれば意味がわからなくて怖いという感情だけが増幅される。
「…ふっ、あまり家に帰らないから、少し仕置きだ。今回の事の顛末は、向こうにいる下等生物から聞き出したからな。お前に責任はないことくらい理解しているとも」
イカレ野郎が静かに指を指したので、その方向を見てみる。
「…ポーランド…?!」
特徴的な紅白と、伸ばされた白い羽らしきもの。
子供の頃に見た天使と見間違えるような美しさだったはずの羽は、床に大量の白いものを残してボロボロに見える。
もしや、あの白いものは全てポーランドから抜け落ちた羽だろうか。
「話を聞くだけだというのに抵抗してくるから、少々痛めつけた。羽を毟る程度で済ませてやったんだ、感謝こそすれ、そのように睨むとはどういうことかな?」
奴は俺を置いて拘束されたポーランドに近づくと、そのまま蹴り上げた。
口を塞がれているのか、ポーランドは呻き声しか発さない。
さっきから聞こえていた声や金属音の正体は、羽が毟られ抵抗していたポーランドだったようだ。
「ポーランド!」
「いい様だ。この私の息子を攫うだなんて、随分勝手なことをしてくれたな」
鎖に自由を奪われたポーランドの腹を踏みつけ、怒りが満ちた声でそう言い放っている。
「と、父さん、そのくらいに…」
「ドイツ」
「ひぅ、はいっ 」
「眼鏡がないと視界が悪いだろう?お前の近くにあるテーブルに置いておいたから、それをかけてからこちらへ来い」
「わ、わかりました…」
なんとなくそれっぽいものの上を手探りで調べ、メガネを発見した。
ようやくクリアになった視界で、改めて周囲を見渡す。
やはり捕えられていたのはポーランドで、落ちているのは赤い飛沫がかかった羽の山。
助けたいとは思うものの、従わねば自分が危ないことは百も承知。
次は指くらい持っていかれるかもしれない。
「よしよし、やはりお前は良い子だな」
「…」
大人しく奴の元へ来ると、ぽんぽんと軽く頭を撫でられた。
薄気味悪くて恐怖したが、それより酷いのはポーランドの状態だ。
機嫌良さそうな笑みを浮かべているのに、そのヒールを履いた足はポーランドを踏み続けていて、ポーランドは苦しそうに顔を歪めている。
「と、父さん、流石にこれ以上はやめてあげてください…ポーランドは外で寝ていた俺を、室内で寝かせてくれただけなんです…」
こんなやつ、父でもなんでもないと言い切りたい。
でも言わないと殴られるし、長年呼んできてしまったせいで慣れてしまった。やはり最悪だ。
「あぁ、だからこの程度で済ませているんだろう?それと、お前にはしなければならないことがある」
「な、なんでしょうか…?」
「こいつで新しく作った毒薬を試してくれ」
「…は…」
「私は甘かった。ポーランドは確かに距離が近く、お前も知り合いだ。なのに殺しておかないから、こんなことになった。先ほどの言葉を少し訂正して、外で寝たお前にも、少しは責任がある。なので、ちょっとした罰というわけだ」
表情を変えずに言い切ったそいつは、近くのテーブルから注射器やその他諸々の器具を取り出す。
話を聞いていたポーランドは「冗談じゃない」と言う顔をしている。
俺も全く同じ気持ちだった。
「ほら、これだ。少し毒性の強いもの同士を組み合わせて作ったのだが、人体実験は必要だからな。大きな生物にも対応できるか、どのような効果が現れるか、そしてポーランドとお前への罰。この3つを同時に達成できるのは効率が良い。ほら、やれ」
俺は怪しい液体が入った注射器を渡され、ポーランドは口の枷だけを解かれ、クソ親父は記録のための用紙を片手に眺めている。
「息子に殺人を犯させるとか、異常すぎるんね!!離せ!クルヴァ!」
必死に抵抗するポーランドの顔は青褪めていて、きっと俺も同じような顔だろう。
「ドイツ、そんな下等生物の戯言など聞くな。気にせずやれ」
「…ッは、ぃ…」
震える手で注射器を持ち、ポーランドの腕に針を当てる。
「ごめん、ごめんポーランド…ごめん…」
そのまま針を刺して、液体を流した。
「…ニエムツィも結局、ナチスの言いなりなんだね…」
「ッ…!!」
「…ぁ゛ッ…や、ぁあ゛ッ!なに゛、こ゛れ…!く゛、るし゛ッ…」
効果はすぐに現れ、ポーランドはエメラルドの瞳を濡らして苦しんだ。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…!」
助けを求めるようにこっちを見つめてくる。
やめてくれ、そんな目で見ないでくれ。
謝ることしかできなかった。
目を瞑って、ただポーランドが苦しむ声を聞く。
耳を塞いだら、それこそポーランドから目を背けることになると思ったから。
「ぁく゛まッ…!か゛み、さ゛、ま…た゛す゛、け…て゛ッ…」
…そのうち、ポーランドは事切れた。
いつもキラキラしていた瞳は光をなくして、半開きの口からは唾液が滴り、苦しんで逝ってしまった。
俺のせいで。
死体処理はクソ親父がすると言って、俺はトイレに籠った。
吐くものなんてなくても吐き気が止まらず、胃酸をずっとずっと吐いた。
喉が焼けて痛くても、ポーランドはこれ以上に苦しかったんだ。
「悪魔」という言葉が耳から離れない。
クソ親父を指していたのか、俺を指していたのか、幻覚だったのか。
何にしても、ポーランドは悪魔を見たんだ。
自殺しようと何度も考えた。
胃から迫り上がるものを抑えきれず、吐いて吐いて吐いて、腕に切り傷をつけて、どうにか贖罪しようとした。
でもダメなんだ。
首に縄をかけて、そのまま動けない。
「…俺、もう言われなきゃ、自殺すらできないんだな」
今まで自殺ができなかったのだって、こういうことなんだろうな。
俺って本当、すごく優秀な息子だ。