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カビは残った。苛立ちも羞恥も、自分の中にこびりついていた。
思い出そうとしなくても、勝手に滲み出てくる。
それでも、少しずつ、彼女は笑えるようになっていた。
カビが剥がれるわけじゃない。
きれいになるわけでもない。
でも、彼女は自分の手足で、もう一度立ち上がることを選んだ。
泣いた夜をなかったことにせず、無理に忘れようとせず、
ただその重さを引きずったまま、地面を踏みしめた。
そして、彼女はもう一度、壊れてしまった手順を、一つずつ確かめるように歩きはじめた。
言葉にできなかった時間を、自分の足で言い直すように。