テラーノベル
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夜の帳がすっかり落ち、繁華街から2本外れたところにある、住宅街よりも商業地に近い所に構えている喫茶ヴェンガム。
割れた窓ガラスは、すっかり新しいガラスが嵌められている。
日よけを下ろされ、店内は暗い。
悠真は店には入らず、細い小道を進み、 錆のついた手摺を頼りに、明かりのない暗い外階段を登る。
茶色の古びたドアを、ノックより強めに叩く。
「店長!西山です!」
バタバタと奥から足音が聞こえ、同時にガタガタン、と何か物の落ちる音が聞こえた。
また、なにか引っかけて落としたのだろう。
店長は口は悪いし、整理整頓が苦手だが、人情味溢れる好い人だ。
「おう。
、、詩苑の件だな?」
無精髭に電子タバコを咥えながら、ドアを開け招き入れてくれる。
よれよれの白いTシャツに、スウェット。なぜか、右側だけたくしあげている。
「大津から、詩苑の部屋のポストに気になるメモが入ってたらしくて、部屋確認したいみたいなんです。
、、店長、合鍵持ってますか」
店長のだらしない姿はいつも通りなので、特に指摘も気にせず声をかける。
「持ってる。
、、どこかの、、引き出しに、、。
、、どこやったかな、、。 」
散らかった部屋を見渡し頭をガリガリと掻いた。
「メモってなんだ?」
悠真の方に振り返る。
「《もうすぐだ》ってメモがあったらしくて。
詩苑も最近家に帰りたくないようだったと大津が話てて。
、、警察や実家の方は」
「実家の方は、そうですか。と言われた。
、、どうなろうが、どうでもいいんだろうな。
、、あの家は、昔からそうだ。
警察は、アパート周辺を探ってみます。だとよ。まだ若ぇし、どっか遊びに行ってるんだろと、取り合ってくれなかった」
チッと、舌打ちが聞こえた。
「、、店が休みってのも関係してるってことでしょうか」
長いため息のような、息を吐く。
「だろうな」
物の積み重なった棚を指差した。
「お前、あそこ探して。
俺、押入れ見っからよ」
鍵探しだろう。
若干、気が遠くなった気がした。
「、、少しは片付けてくださいよ、、。
インターフォンも、、いつ直すんすか、、。」
落ちている服を踏まないように棚に近付き、上から開けて探っていく。
封筒、請求書、領収書、領収書、契約書、封筒、納品書、納品書、決算書、、。
ないな。
「別に困んねぇだろ。
こんな家、誰も来ねぇし。
、、ここにはねぇな。こっちか?」
領収書、契約書、履歴書、納品書、決算書、決算書、、。
「店長、、。
整理してくださいよ、、。
いっしょくたに押し込んじゃダメですよ、、。」
「まぁ、そのうちな」
「いつもそれじゃないですか、、」
「お!あったぞ!」
発掘したらしい。
店長の手のひらに乗る、キーホルダーの付いていない、鍵。
「、、間違いないですか」
「たぶんな。
、、そっち任せていいか。
俺は違う方面探ってみっからよ」
店長から鍵を受けとり、しっかり握り込む。
「大津と部屋探ってきます。
なにかあったら連絡入れますので、、スマホ繋がるようにしていてくださいね」
しょっちゅう充電切れを起こす店長のスマホを思い出しながら念を入れる。
「、、おう。
さっき、翔が充電していったから大丈夫だろ」
森山くんも店長の悪い癖に慣れている。
最初は、みんな遠慮も配慮もするが店長相手には早々にやめる。困るからだ。自分達が。
「、、そういえば、森山くんは」
電子タバコを替えながら、玄関へ向かう店長を追う。
「帰らせた」
本当は喫茶で出す商品開発の予定だった。
見た目はチャラいが、人懐っこく器用な笑顔を思い浮かべる。
「沙織のこと頼むな」
しっかりと目線を合わせてきた。
悠真は喫茶ヴェンガムを後にして早足で駅へと向かう。
適度に混み合う電車に滑り込み、揺れながらスマホを開く。
大津沙織のメッセージを入力する。
《鍵受け取った、今電車》
《もうすぐ行くから》
送信した直後、すぐに既読が付く。
《まってる》
返信を確認した後、車窓に映る男と目が合う。
余裕のない目、眉間を寄せた眉。残暑が残る暑さだけの理由じゃない額の汗。
悠真は、その男を睨み付けた。
不安と焦りを圧し殺して。
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コメント
1件
第3話、読みました。店長の「そのうち」でいつも流す感じと、散らかりようが逆に安心感というか…長年の付き合いで築かれた信頼関係がにじんでて好きです。詩苑の行方、気になりますね。伏線っぽいメモと、実家の冷めた反応が不穏で。続きが待ち遠しいです。
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