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 私は、昔からオルゴールが好きだった。

まだ五歳の頃、両親に連れられて北海道にある祖母の家に遊びに行った時のことだ。

外に降り積もる雪には目もくれず、テレビで中継している雪祭りにも目もくれず私は、祖母の部屋の机に置かれていた小さくも綺麗な音色を奏でる古いオルゴールに心惹かれた。

そのオルゴールは祖母が昔母親からもらった物らしい。祖母は小さい頃、そのオルゴールの奏でる音を聞きながらよく寝たそうだ。

ほんの三十秒程の短い曲、でもそこには何故か心を内側から温めるような不思議な魔法のような力を感じた。

私は、そのオルゴール指さし祖母に聞いてみた。

「ばぁば、これなーに」

祖母は、しわくちゃな顔で優しい笑顔で私に答えてくれた。

「これはね、魔法のオルゴールなのよ。いつも私を元気づけてくれた大切な大切な宝物なの」

小さかった私には、その小さな木箱がまるで黄金で作られた宝箱のように見えていたのだろう。

私は、祖母に欲しい欲しいとせがんでいた。

「ばぁば、ばぁばこれちょうだい。わたし、これ欲しい」

「そうだねぇ、よし分かった。じゃあ、これは琴音ちゃんにあげようかね。大切にするんだよ」

「やったぁ!ありがとうばぁば、わたしこれ大切にするね!」

その時の祖母の笑顔は今でも私の思い出です。

キャッキャとはしゃいでいた頃の私が懐かしい。

祖母からもらったオルゴールを私はとても大切にしました。

家に帰ってからも毎晩のようにそのオルゴールの音色を聞いて私は寝ていました。

オルゴールを聞いて寝るようになってから、私は毎晩のように夢を見るようになりました。

それは、違う世界の夢。

夢の世界は、いつも私がいる世界とは違う世界でした。

いわゆる異世界と言うやつなのだろう。

見知らぬ風景に、見知らぬ動物。

植物や街や魔物。

私が見たこともないようなものばかりです。

そこで私は、毎晩のように冒険しました。

花畑に行ってみたり、草原を駆け回ってみたり、ある時は、スライムなんかの魔物と戦ってみたり。

それはそれは、楽しい夢でした。

でも、いつしかそんな夢も見れなくなりました。

私が中学を卒業して、高校に入学した辺りです。

突然、あの夢を見れなくなりました。

毎晩オルゴールは欠かさず聴いて寝るのは変わっていません。

成長した、という事なのでしょう。

小さいかったあの頃は、なんでも想像ができた。

でも、今の私は少しずつ周りの事を、世の中の事を知るようになった。

それが原因なのかはたまた私があの世界へ行くことを望まなくなったのかそれは分かりません。

ですが、今の私はたまにあの世界の事を思い出すんです。魔法なんかがある、この世界とは別の世界。

異世界に行く事を、私は心のどこかで望んでいたのかもしれません。

私荷野琴音は現在高校三年生。

受験シーズン真っ只中です。

高校二年生までやっていたファンタジーゲームも今はあまり手をつけられていない状態で、毎日毎日勉強勉強。

正直、かなり鬱憤が溜まっています。

それを発散出来るものも、今はオルゴールの奏でる音色だけ。

今日の学校も終わり、帰宅した私は部屋でふと机の端に置いてあったオルゴールに手をかけ箱の横に付いているネジを回し、小さながらも綺麗な音色を聴き、癒されていました。

「やっぱり、これが一番癒されるなぁ」

癒されつつ、椅子に座り机に伏せていた私はリュックサックから進路のプリントを取り出した。

しかし、そこには記名はしてあるものの希望は書かれておらず、ほぼ白紙の状態。

「進路、かぁ。私、やりたい事ないんだよね。将来の夢とかないし、、、」

提出期限は明日。

適当に書いて出す訳にもいかないのだけれど、かと言って何か希望がある訳でもない。

そんな呟きをしていると、オルゴールの音が止んだ。

もう一度鳴らそうとネジに手をかけて回す。

カチカチカチカチ

小さい木箱からネジを回す音が聞こえる。

いつも聞いている音、五歳の頃からずっと聞いている音。十三年間、変わらず毎日を共に過ごしてきた音。

なのに、何故だろう。

とても、不思議な感じする。

再びオルゴールが音色を奏で始める。

いつも聞いている音色だ、変わらない。

でも、身体の内側からなんだか温かい物を感じる。

その温かさは、私を自然と眠りへと誘った。

ぼんやりとした意識の中、小鳥の囀りが聞こえる。

川のせせらぎが聞こえる。

そして、オルゴールの静かな音色も。

私の意識は覚醒した。

起きてみると、そこは私の部屋ではない。

夢でも見ているのだろうか、ここは森の中なのか。

辺りを見回してみると、そこは森のど真ん中。

辺りにある物を確認してみる。

木、木、木、木、川、木、木、木、

どうやら、私は森の中にいるようだ。

でも、どこの森。

私の家の近くにこんな森はなかった、でもあったとしても親が私をこんな場所に捨てて行くとかは考えられない。

普通に犯罪だもの。

つまりはここは知らない地、ということになる。

こんなありえない状況にあるのに、私はどこか冷静でこの状態に慣れているような気がした。

それも、かなり昔から。

そんな事は考えていられない。ひとまず近くに何かないか確認しに行こう。

そう思い立ち上がると、目の前に見慣れたオルゴールが落ちている。記憶を辿れば、最後に見たのは自室。

私と一緒にここにいるのは何故だろう。

状況自体が何故という感じではあるものの、このオルゴールが落ちているのはもっと不思議。

私は、地面に落ちているオルゴールを手に取り、着ている学生服の胸ポケットにしまった。

残念な事に、発育が良くない私の胸ではポケットは圧迫されず、オルゴールはすっぽりと入った。

オルゴールがしまえた事は良かったが、少し残念でもあった。

森の中を歩いていると、何故か自然と何かがある方向が分かった。

まるで、昔この道を歩いたことがあるような感覚だった。

しばらく歩くと大きな道に出た。

とは言っても、舗装もされていない酷く荒っぽい道だけど。

「なんだろう、この道。見た事ないなぁ近所にこんな場所あったかなぁ」

私が首を傾げていると、突然強めの風が吹いた。

反射的に手でスカートを押さえたが、少し髪が乱れてしまった。長髪の痛いところだ。

私は道に沿ってしばらく歩いてみた、感覚的には三十分程経った頃、遠くに大きな建物の集団が見えた。

 それを見て思った、あのような建物は私の住んでいる場所にはない。そして、今の時代に立っているような建物でもなかった。

建物の形からするに、中世ヨーロッパ辺りの物だろう。

そうか、ここは異世界なんだ。

私は、異世界に来てしまったんだ。

そうか、そうなのか、、、。

心が躍った。

自分の中で何かが動いた、それは昔からあって忘れていた物。

「異世界だぁぁぁあ!やったあぁぁぁぁあ!」

気づくと私は叫んでいた。

 こんなにも楽しいのはいつぶりだろう、このワクワク感を私はずっと忘れていた。

「ここが異世界なら、私は新しい人生を歩める。セカンドライフが始められる!やりたい事、なんでも出来る気がする!絶対に、ぜーったいに楽しんでやるんだぁぁぁぁぁぁあ!」

 こうして、私の異世界セカンドライフが始まりました。

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