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実家に戻された私は、まるで魂を抜き取られた抜け殻のような日々を送っていた。
家門の借金は完済され、病弱だった弟の病状も
レオ様が手配してくれた名医のおかげで劇的に回復している。
彼との間に交わされた「契約」は、私の人生に救いだけを残して、跡形もなく消え去ったはずだった。
けれど、街のあちこちから風に乗って聞こえてくる不穏な噂話が、私の心臓を氷の指で締め上げる。
「第二皇子レオ様が、独断で公金を私物化した罪を認めたらしいわ」
「没落公女を囲うために、あろうことか国庫にまで手を出したって…あんなに人懐っこい笑顔の裏で、そんな恐ろしいことをしていたなんてね」
(……嘘。そんなの、絶対にありえない……!)
真相は火を見るより明らかだった。
彼は私を汚名から守るために、あえて自分一人にすべての罪を被せようとしているのだ。
あの「契約書」が明るみに出れば、共犯者として私の人生も、再興しかけた我が家も終わる。
だから彼は、私を「何も知らずに騙された被害者」に仕立て上げ、自分だけが泥沼に沈む道を選んだ。
(……レオ様…あなたは、どこまで馬鹿な人なの……!)
私は、彼から贈られた琥珀の首飾りを、指の跡がつくほど強く握りしめた。
契約は終わった。報酬も受け取った。
今の私には、彼を助ける義務なんてどこにもない。
平穏な未来を享受することこそが、彼の望みなのだから。
でも──
私はもう、彼の「完璧な恋人役」なんかじゃない。
(私は……一人の女として、あの人を助けたい。演技なんかじゃなく、本気で…っ)
私は、止める乳母を振り切り、実家の門を飛び出した。
向かったのは、彼が糾弾されている王宮の重苦しい審問場。
鎧を纏った衛兵たちに遮られようと
私は泥に汚れたドレスの裾を翻し、正面から巨大な大扉を全力で押し開けた。
「お待ちください!レオ皇子の罪は、すべて偽りです!」
静まり返った広大な場内に、私の叫びが礫のように響き渡る。
壇上で、審判官たちの罵声を浴びながら項垂れていたレオ様が、弾かれたように顔を上げた。
その琥珀色の瞳が、驚愕に大きく見開かれ、そして「なぜ来たんだ」という悲痛な絶望に揺れる。
「ローラ……!? どうしてここに…君には関係のないことだ!」
「いいえ、帰りません!あなたが私を守るために嘘をつくなら、私はあなたを救うために真実を話します!」
私は冷ややかな視線を送る審判官たちの前に毅然と立ち、懐から一通の書面を取り出した。
それは、数日前にレオ様が私に叩きつけた「契約解除通知書」。
その裏側には、私が眠れない夜に書き記した彼への本当の想い
そして、彼がいかに誠実に国と向き合ってきたかを証明する
ハルデンベルク家に代々伝わっていた、政敵たちの不正を記した裏帳簿の控えだった。
「私たちは確かに、冷酷な『契約』から始まりました。でも、彼が私に注いでくれた献身は、すべて本物でした。彼は自分の地位を捨てて、自らの身を滅ぼしてまで、名もなき公女の未来を守ろうとした……。そんな高潔な方が、私欲のために国を裏切るはずがありません!」
場内が波打つように騒然とする中、私は壇上へ駆け寄り、彼の震える手を両手で力強く握りしめた。
レオ様は、初めて出会った時の冷徹な瞳でも
人懐っこい仮面の笑みでもなく、ただ呆然とした表情で私を見つめ
やがてその目から一筋の涙を零した。
「……ローラ、君は……。本当に…僕の計画を、全部台無しにして…」
「お互い様です、レオ様。……二人でこの『嘘』を終わらせましょう」
ビジネスという名の冷たい仮面をかなぐり捨てた私たちは、今、初めて対等な「共犯者」になった。
どんな権力や卑劣な陰謀よりも強い、たった一つの真実という武器を、その手に握りしめて。