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芙月みひろ
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週末。渋谷駅前の喧騒から離れた、アンティークなカフェの一角で、ひよりは、親友でありコミケ軍師の真帆を前に、今にも泣き出しそうな顔で事の次第をぶちまけていた。
「真帆……どうしよう。陽一さんが、みんなの陽一さんになっちゃう。彼の身体を、みんなが指を咥えて見てるんだよ……っ!」
「なるほどね。『推し』が物理的に進化して、人気が出ちゃったわけだ。まあ、あんたのその歪んだ独占欲、嫌いじゃないわ」
真帆は涼しい顔でアイスティーを啜り、ニヤリと口角を上げた。
「いい? ひより。陽一さんが『無自覚フェロモン』を撒き散らして野良猫(女子社員)を引き寄せてるなら、こっちは『圧倒的な色気』で迎え撃つしかないわ」
「『圧倒的な色気』……?」
「そうよ。次のコミケ。あんたがただのBL作家としてブースに座ってるだけじゃ、あの鈍感には響かないわ。……彼の理性を根こそぎバグらせるくらいの、絶世の美女コスプレイヤーとして降臨するのよ」
私は絶句した。人前に出ることすら苦手な自分が、コスプレ?
「そんなの、無理だよ! 恥ずかしくて死んじゃう!」
「いい、よく聞きなさい。これは陽一さんの『独占欲』を煽るために必要なことなのよ。自分だけのものだと思っていたひよりが、大勢の男たちにカメラで囲まれ、賞賛を浴びる。……その光景を見せつけられた時、彼の『理性』はどうなると思う?」
真帆の言葉に、私の脳内シミュレーションが最速で動き出した。人だかりを掻き分け、嫉妬に狂った陽一さんが、無理やり私を連れ去る。見たこともないほど強引に。抱き上げられて、そのまま――。
(……うん、それはそれで最高♡)
「……私、やる。陽一さんを……再起不能なまでに嫉妬させたい!」
「いい返事ね。もう衣装の候補は決めてあるの」
真帆がスマホの画面を差し出した。そこには、陽一さんが王子谷くんとともにプレイしているスマホゲーム「NIKKO』の女神キャラが映し出されていた。
「これ……陽一さんの、一番の推しキャラ……」
「そう。しかも他のキャラクターと比較して露出度が高く、神々しい衣装よ。これで彼を悩殺して、嫉妬で発狂させるの!さっそく、あんたの家で作戦会議よ!」
鼻息を荒くした軍師に引きずられるように、私たちはカフェを後にした。