「どうって……普通に使わせて貰ったらダメなのかな。心配なことでもあるの?」
ルイスさんは首を傾げながらレオンに疑問を投げかけている。私も彼と同じ考えだった。特別な力も必要無い。レオンの負担も軽くなる。良い事尽くしではないのかと。レオンだって役に立つと言っていたのに。
「石に問題があるというわけではないが……」
レオンは神妙な面持ちのまま、テーブルの上を見つめていた。石の入った布袋は現在彼の手元にある。しかしひとつだけ……白色に変化したコンティドロップスだけが、袋の中に戻されないままテーブルの上にちょこんと乗っていた。この石はつい先ほど、コンティレクト様が石の性質を説明するために使用した物だ。石の中には私の魔力が詰まっている。レオンが見つめているのは、この白色のコンティドロップスだった。
「石がまた透明に……コンティレクト神の仰った通りですね」
レオンに倣うように私達も石を眺めていると、レナードさんが口を開いた。再び石に変化が現れたのだ。白く色付いていた石が元の透明な姿に戻っていく。
通常のコンティドロップスであるなら、一度吸収した魔力が自然に抜けるにはかなりの時間を要する。そのため、石から魔力を得る時には砕いてから体内に入れる必要があるのだそうだ。
私達が貰ったコンティドロップスが通常の物と違う点……そのひとつが、この石から魔力が抜けるのにかかる時間の長さだった。
「完全に透明になったな。時間は……大体1時間か。これも聞いた通りだな。コンティレクト神がどのような方法で石に手を加えたのかは分からないが、透明に戻った石はまた繰り返し使えるのだったな」
レオンとレナードさんは、コンティレクト様から教わった石を使う時の注意点をおさらいしている。互いに間違った受け取り方をしていないかの確認作業だろう。
「はい。同じ石を連続で使用するには、数時間のインターバルが必要との事でした。そして、普段は布袋に入れて保管しておくようにと……。その袋に石を入れておけば、魔力の影響を受けるのを防げるらしいので」
誰でも簡単に扱えるけれど、保管に関してはちょっとだけ気を付けなければならなかった。コンティレクト様が石を持ち運ぶのに使っていた布袋。このどこにでもあるような普通の袋が、石を正しく管理するために無くてはならない重要な代物だった。
「魔力を遮断できるような物がないと石の性質上、常に俺やクレハの力を吸い込んでしまうからな。あとはどんなことに注意するんだっけ?」
「石の有効範囲は石のある場所を中心として半径約3メートル。これより遠いと石が反応しませんので、離れた場所にいる魔法使いを探すといった使い方は出来ません」
「……3メートルか」
石は最も近くに存在する魔力を吸い込んで色を変える。この特徴を利用して『魔力感知』の代わりにするのだ。しかし、簡易だとコンティレクト様も仰っていたように、レオンや神々が使う本物の感知魔法には到底及ばない部分が多々ある。その辺りもしっかりと把握しておかなければならない。
「でも、今までボスしか分からなかった不思議な力を、俺たちも視認出来るようになったってのはかなりデカいよね。魔法使い疑惑が出たヤツにはこの石を近付けてみれば良いんでしょ」
「うん。それに殿下の負担が減るという利点もあるしね」
ご兄弟もレオンが心配だったようだ。探知魔法に関することは、どうしても彼に頼るしかないから。部分的にでもレオンの負担が軽減できるのはありがたかった。
「本来の感知に劣るとはいっても、やはり便利過ぎるな……」
レナードさんとの相互確認を終えたレオンは、難しい顔のまま唸っていた。彼は何をそこまで心配しているのだろうか。
「みんな、聞いてくれ。今日この場所にローシュの神がいらした事……そして、神から賜ったこの特別な石。これらの詳細全てを口外するのを禁ずる」
次にレオンが発したのはまさかの言葉だった。彼はせっかく頂いたコンティドロップスの使用に制限をかけるつもりのようだ。彼の部下達もこの発言には驚きの表情を浮かべる。しかし、すぐに冷静さを取り戻してレオンの真意を探ろうとした。先陣を切ったのはクライヴさんだ。
「……理由を伺ってもよろしいですか、殿下。まさかジェラール陛下やルーイ先生にも隠しておくおつもりで?」
「いや、おふたりには俺から報告する。特に先生にはコンティレクト神から託けられている品物を渡さなければならないからな。だが、お前達の口から情報を他者へ流すのは一切禁止とする」
「それってウチの隊員も? セドリックさんやミシェルにも言っちゃダメなの」
「ダメだ。あいつらにも折を見て俺 から話す。お前達は相手が誰であっても他言無用を貫け。当面の間、今この場にいる人間の前以外で、石に関する話をするのも禁止だ」
直属の部下である『とまり木』の人達にすら情報統制を敷くなんて。コンティレクト様のお話の中に、彼らに知られて困るようなものは無かったと思うけど。
「お前達はこの石を良い物だと感じたろう? でもそれはあくまで、自分たちが使うことが前提。我々の手元にあるからこそ言えることなんだよ。魔法という力は押し並べてそういうものだ」
「あー……なんかボスの言いたい事分かった気がする」
ルイスさんはここでレオンの思惑を感じ取ったようだ。クライヴさんとレナードさんも何かを察したのか、表情が変わった。
「俺も便利だと思ったよ……でも石の説明を受けている途中から恐ろしくもなった。この石が万が一、クレハの命を狙うような悪人の手に渡ってしまったらどうしようとな……」
「レオン……」
レオンが石を使うことにここまで慎重な理由が私にも分かった。さっきまで魅力的に感じていた『誰でも使える』が、見方を変えた途端に怖くなってしまった。
石を使えば魔法使いの居場所が分かる。それはつまり、魔力を持つ者……私やレオン……ルーイ様にも当てはまるのだ。レオンが危惧しているように悪人に石を奪われてしまったら……
「石に反応が現れるのは対象との距離が3メートル以内であること。たかだか3メートルではありますが、強制的に自分の位置を相手に知られてしまうのは問題ですね」
「石持ってる奴とかくれんぼしたらすぐ見つかっちゃうね。感知する側からされる側になってみると、石のヤバさがよく分かる」
「……この石の存在は、決して良いことばかりではないということだ」
便利だからこそ危険……か。実際に使ってみなければ分からないこともあるだろう。でもレオン達は管理は当然のこと、使用に関しても慎重にすべきだと話し合いを始めてしまった。
石を贈った張本人であるコンティレクト様は、レオンの役に立つだろうと軽い気持ちだったのだろうな。それがまさか、ここまで議論を引き起こす事になるとは考えていなかったと思う。
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