今日の昼食メニューは、親子丼とお味噌汁とサラダという簡単なメニューにした。
瑞希くんはいつものように
「美味そう!」
喜んでくれた。
そして一口食べても
「美味い!」
美味しそうに食べてくれる。
瑞希くんのそういうところが好きだな。
ん?好き!?
そういうところが良いなって思う。
でも何年も経ったら「美味しい」も「ありがとう」もそれが普通になって、何も言ってくれなくなるのかな。尊みたいに。考えると少し寂しくなった。
「ん?どうした?」
私の顔を見てすぐ反応してくれる。
「なんでもないよ。美味しそうに食べてくれて嬉しいなって」
「だって本当に美味いもん」
「失礼かもしれないけど、普段から美味しい物食べてそうで。女の子とご飯食べに行くこともあるんでしょ?」
「んー。そうだな。お客さんとご飯食べに行く時は、確かにお店選んだりするけど。一人の時は、安いチェーン店で食べたりとか。あんまり食事にお金はかけないよ」
「女の子の家に行って、作ってもらって食べる時あるの?」
「家に行くことはないよ。昔、お金がない時は食事に行って奢ってもらったことはあった。稼げるようになってからは、特別な日とかしか食事には行かないよ」
「そっか」
瑞希くんが女の子の家に行って、ご飯食べているところを想像してしまったら、なんだろう。
嫌な気持ちになった。
嫉妬じゃないよね……。
瑞希くんが出かけるまで一時間くらい。
時間が過ぎるのが早いと感じる。
「葵、となりに来て。話しよ」
「うん」
そのあと、瑞希くんについて知らないことをいろいろと質問をした。
「えー!!瑞希くんって私と同じ年なの?」
「そう。店では、二十代前半って言っているけど、二十八歳だよ。ちなみに春人ってわかる?あいつも同じ年。公表してないから秘密な」
二人とも若く見える。
とても私と同い年だとは思えない。
「ちなみに、本名は、|榊 瑞希《さかき みずき》って名前。葵は?」
「私は、|遠野 葵《とおの あおい》だよ」
私が彼のことを知りたいと伝えたせいか、いろんなことを教えてくれる。
でも、もし私がバラしたり……とか考えないのかな。
「私がお客さんに話しちゃったり…ってことは思わないの?」
「思わない。信じているし。ていうか、この仕事やってたら、この人は信じられないとかなんか勘?でわかるようになった。葵がそういう女の子だったら、三年前、駅で俺を助けてくれないだろうし。もし、バラされても……。恨んだりはしないよ。俺が見抜けなかったのが悪いんだから。信じられないって最初から諦めるより、信じて自分が傷ついた方がいいと俺は思うから」
「あとは?何か俺に聞きたいことある?もっといろいろ聞いてほしい」
彼は優しい微笑みを浮かべた。
「スマホは、二台持ってるの?」
「んっ?スマホ?ああ、二つ持ってる。仕事用とプライベート用。仕事用は基本的には常に持ち歩いているけど、プライベート用は知られたくないから、仕事中は持たない。葵には、プライベート用の瑞希って方に連絡してほしいけど、夜緊急で何かあったら流星って方に連絡して。この間、葵のスマホにアカウント二つ入れておいた」
やっぱりあの時に入れてくれたんだ。
「うん。わかった」
「俺からも質問!」
「なに?」
「もし、葵が次の日休みとかで予定が何もなかったら、またここに来てもいい?」
ここって。私の家?それって……。
「夜、泊まるってこと?」
「うん」
「《《変なことする?》》」
「……。昨日はごめん。葵が嫌だったら、我慢するから。たぶん。」
そこは絶対って言わないんだ。
ある意味正直な人。
それが面白くて笑ってしまった。
「いいよ。来る時は事前に連絡してね?」
「マジで!連絡する!」
仕事に行く瑞希くんを玄関まで見送る。
「ねえ、ごめんね。やっぱり昨日、私が嚙んじゃったところ、赤くなってる。痛かったでしょ?」
「いや、あれは俺が悪いんだし。葵こそ手首、痕残ってない?」
瑞希くんが私の手首をまじまじと見る。
「全然残ってないよ。そんなにキツく縛らなかったでしょ。わかってたよ。」
「良かった」
瑞希くんは、ほっとした表情を浮かべた。
「またね!」
私が声をかけると、瑞希くんは私をしばらくの間、抱きしめた。
「充電させて」
「うん」
私も思わず瑞希くんをギュッと抱きしめちゃった。
「すぐ連絡するから」
「はい、行ってらっしゃい」
パタンとドアを閉める。
この間とは違い、空虚感などはない。
あんなに瑞希くんと離れなきゃって悩んでいた自分がウソみたいだ。彼とまた会えると思うと、心が軽くなる。
次の日の月曜日。
華ちゃんとランチに行くことになった。
「先輩。金曜日、大丈夫でしたか?あんなに酔っぱらって。タクシーで帰ったって春人さんが教えてくれました。よく一人で帰りましたね。それと、お支払いも先輩がしてくれたって聞きました。ごちそうさまでした!」
ああ、そういうことになっているんだ。
瑞希くんが華ちゃんの分まで支払ってくれたんだ。
瑞希くんに感謝しなきゃ。
「うん。ごめんね。先に帰っちゃって。春人さんと華ちゃん、楽しそうに話してたから邪魔しちゃ悪いかなって思って」
はぁと華ちゃんはため息をついた。
「どうしたの?」
「私、ホストクラブって、担当とか特にいなかったんですけど。春人さんがいいなって本気で想っちゃって。担当にしようか悩んでるんです」
「えっ。よくわからないんだけど、指名すると高いんでしょ?」
春人さんのこと、本気で推しになったってこと?
コメント
2件
続き楽しみにしてます! ホストさんの推しとか、ありそう、🥲