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「けど……元はと言えば大葉のせいなんですからね!? あんな、しつこく……」
そこでゴニョゴニョと言葉を濁らせて、ムムゥーッと唇をとがらせる羽理が可愛いくてたまらない。
そんな羽理の突き出された唇へ掠めるだけのキスを落とすと、大葉は「だから俺が責任取って面倒見てやろうって言ってんだろ?」とククッと笑ってみせた。
「ひゃっ、き、キシュッ……」
そのせいだろうか。
羽理が『詭弁です!』とか何とか、もっともらしい反論も出来ないまま真っ赤になって、ぎこちない動きになる。
キスの余波は相当大きかったのか、それじゃなくても痛みでノロノロだった荷物をまとめる手つきが、輪を掛けて覚束なくなってしまった。
「着替えは旅行鞄の方へ詰めて……、いつも使ってる小さめのバッグに携帯とか財布とか、しょっちゅう使うもん入れとくといいぞ」
言いながら、床に広げられた羽理の荷物を見た大葉は、思わず「あ……」とつぶやいていた。
そのまま羽理のそばへ座って財布に取り付けられたキーホールダーを手に取ると、
「おい、これ……」
言って、羽理にそれを差し出して見せる。
「ん? あー、それですか。へへっ。可愛いでしょう? ……お祭りの時にそこの神社で買ったお守りなんですよ♪」
昨日居間猫神社の近くで大葉とともに見た、焼き鳥の三毛猫に導かれるように進んだ先――神社の裏手の誰もいないような場所で、おばあさんがひっそりとお店を開いていたのだと、羽理が説明してくれる。
(焼き鳥のってことは……あのチェシャ猫か……)
羽理の話を聞きながら、大葉は(怪しげな猫だったし、そんなのについて行ったのかコイツは! ホント危なっかしいな!?)とか何とか思っていたのだけれど。
「これ、縁結びのお守りで……本当は猫ちゃんもペアだったんです。でも……」
買ってすぐに一匹いなくなってしまったのだと残念そうにつぶやいた羽理に、大葉は「もしかして……会社にも付けて行ってたか?」と問い掛けずにはいられない。
だって――。
「……え? はい。初日には鞄に付けてたんです。でも一匹落っことしちゃったんで大事を取って、お財布に付け直しました」
「なぁ、俺、――多分この片割れ持ってるぞ?」
手にしているハートに「良縁」と書かれた招き猫の根付だ。そう何個もあるものではないだろう。
「え?」
すっかり忘れていたけれど、いつぞやの休み明け、会社のエレベーターの片隅に落ちていたこれとお揃いの猫を拾って、後で落とし物入れにでも入れておこうとスーツの内ポケットに入れたのを思い出した大葉だ。
考えてみれば、結局そのまま忘れて家まで持ち帰ってしまって、つい何の気なしに書棚の上にポンッと置いたままになってしまっていた。
(忙しさにかまけてすっかり忘れちまってたが――)
よくよく思い出してみれば、羽理と真っ裸で初めましてをしたのは、それを拾った日の夜だった。
(もしかして……このせい……なの、か?)
非現実的で荒唐無稽な話だけれど、そもそも遠く離れた風呂と風呂が繋がること自体、あり得ないことだ。
あの怪しいチェシャ猫由来のキーホールダーが原因だって、何ら不思議ではない気がしてしまう。
「羽理、これ……縁結びのお守りって言った……よ、な?」
「……はい」
「だったら……俺たちの縁って……このお守りが結んだんじゃねぇのか?」
大葉がそう言った途端、どこかで「大当たりニャァァァー」と、猫(?)の鳴く声が聞こえた……ように感じた。
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