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「おま、いつから……」
「単刀直入に聞くけど、辺りから」
「ほぼ最初からじゃねえか」
宏斗が律の胸板を押して、離れようとする一方、如月ファンクラブの彼女たちは、灰と化していた。律の登場を際立たせるための風が吹く度、彼女たちの灰は美しく空へと舞った。
「き、如月くん、なぜここにいらっしゃるのでしょうか!」
リーダーの彼女はもじもじしながら、律に話しかけた。けれど、彼女は律の顔すらまともに見られず、指先を震わせていた。
「なんでって、ずっと宏斗の後つけてたから」
しかしこの男・如月律は、吹き抜けた風と同時に“爽やかスマイル”で爆弾を落とした。ただのストーカーである。
「……で、何のつもりで宏斗を呼んだの?付き合ってるか確認したかっただけ?それとも、宏斗が他の男と仲良くしてるのが気になった?」
しかし、徐々に低くなっていく律の声に、如月ファンクラブ達は震え始めた。
「おい、律!別にそういうんじゃ!」
そう、彼女たちは決して宏斗を陥れようとか、わからせるために呼んだのではないと分かっていた。律の腕を強く引っ張り、彼女たちと律の間に入る。自分に今できることはこれくらいしかなかった。
「私たちはただっ、あなたの恋を応援したいだけなんです!」
えッッッ???????
いや、今の展開って、俺が律と女子の間に入って、“この子たちはなにも悪くない!!”ってセリフを決めるシーンなんじゃ………
呆然とする宏斗の頭上には、彼を嘲笑するようにカラスが鳴いていた。
如月ファンクラブの4人は、悲鳴を堪えるように抱き合っていた。
そして、如月律は______
「じゃあ、ちゃんと応援してね」
宏斗を抱きしめながら、そう彼女たちに微笑みかけた。
瞬間、屋上はバラ園と化し、4人の心臓にハートの矢がぐっさりと刺さった。
______________
空へ美しく舞った4人を見送った後、宏斗は律に連れられ校舎を出た。
「宏斗、逃げるの下手くそ」
「あー…」
律は、一瞬とも宏斗に目を向けなかった。だいたい、急に好きと言われてもどうすればいいのかわからなかった。しかも、よりによって、如月律に。
言葉を詰まらせ、その場に落ちていた石を蹴り飛ばした。
「なんで、俺なの?」
「……。」
「お前、かっこいいしモテるのに何で俺なんだよ」
絞り出すように吐かれた言葉に、律は足を止めた。宏斗の蹴った石は、自我を持つように転がっていき、律のつま先の前で止まった。
「初めて、楽しいって思えた。嬉しいって思えた。宏斗といると…自分がちゃんと生きてる気がするんだ」
夕焼けが律の横顔を照らす。
いつも完璧で、何でも持っているはずの男が、迷子のような顔をしていた。
「みんな俺を“王子様”として見る。でも宏斗だけは違った」
律も足元の石を軽く蹴った。
「うるさいし、すぐ突っかかってくるし、負けてもまた追いかけてくる。俺を“如月律”として見てくれたのが嬉しかった。」
律の声は、風に溶けるように静かで、困ったように笑っていた。あの日から、律は見たこともない表情ばかり見せるようになった。困ったように笑って、嫉妬して、必死に追いかけてくる。そして、この世界はいつだって如月律を中心に回っていた。
「最初は友達になれればと思ったんだ」
コツ…コツ…とローファーの音がやけに耳に響いた。徐々に近づいてくるその音に心臓が強く脈打った。
「でも、あの日…宏斗の音楽を聞いた瞬間、全部わからなくなった」
律の声は熱に浮かされたみたいに掠れていた。律と宏斗の距離はわずか数センチ。
「友達になりたいとか、隣にいたいとか、そんな綺麗な感情じゃ足りなかった」
シトラスの香りが近づく。
「宏斗を、俺だけのものにしたいって思ったんだ」
律の顔が微かに赤い理由は、夕日のせいなのか、それとも……宏斗にはわからなかった。今まで見てきた少女漫画に、こんな展開見たことないし、そもそも自分のポジションってどこなのだろうか。
けれど、目の前にいる彼はいつも完璧で、何を考えているかわからない男なのに、今だけは答えを待つような顔をしていた。
自分の心臓がうるさい。耳障りだ。
「……お前、そういう顔もするんだな」
必死に返した言葉に、律がわずかに目を見開いた。
「どういう顔?」
「なんか、その……余裕なさそうな顔」
途端に、律は困ったように笑った。
「宏斗のせいだよ」
また鼓動が跳ねる。
この男は、自分がどれだけ破壊力のあることを言っているのか理解していない。まるで、壊れ物を扱うような手つきと愛おしそうな目が何度も宏斗の胸を締め付けた。
「俺まだ、分からなくて…男同士とか、急に好きとか言われても、頭追いつかないし」
首筋を抑えながら下を向き、柄でもない表現をしている自分を必死に隠した。それでも律は、宏斗の頬に手を添えながら、溶けそうな目でじっくりと見つめた。
「うん、知ってる」
夕日を背に、律が微笑む。
「だから、ちゃんと好きにさせる」
逃げ道を塞ぐみたいに、また一歩距離が縮まった。あと少しで、ゼロ距離。
「宏斗が俺しか見えなくなるまで」