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金貸しのドナテリア一家の一員であるバランドは、エルシエット伯爵家へと来ていた。

彼の目的は、ただ一つだ。ディクソン・エルシエットがした多額の借金を返してもらうことである。

ディクソンの努力によって、借金は多少返済された。しかしながら、それでもまだ残っている。それを払ってもらうために、バランドは伯爵家を訪ねてきたのだ。


「いやぁ、追い出されなくて安心しましたよ」

「……」


エルシエット伯爵は、明らかに不機嫌そうにしていた。それは目の前にいる二人が、本来であれば屋敷に入れたくない者達だからである。

しかしながら、それでも彼はバランドとその部下であるゴルザスを屋敷に入れた。入れざるを得ない状況であるということは、伯爵も理解しているのだ。


「さてと、それじゃあお話を始めましょうか。わかっていると思いますけど、俺達はディクソン・エルシエット氏が残した借金を返済してもらうためにこちらに来ました」

「……あいつをどこにやったのだ?」

「何のことですか? 俺達にはわからないことですね。例えわかっていたとしても、わざわざあなたに説明する必要がないことだ」


バランドは、エルシエット伯爵に対して冷たい目を向ける。

しかし、伯爵はそれに怯まない。流石にディクソンよりは経験を積んでいるため、そういう目に耐性があるのだ。


「無礼な奴らだ。私が誰であるか、知らないという訳でもあるまい……」

「すみませんね。生憎礼儀作法なんて学ぶ身分じゃありませんでしたからね。そもそも、俺達だって別に来たくてここに来た訳じゃないんですよ。お互いの精神衛生のためにも、ここは穏便にことを済ませるとしましょう」

「わかっているはずだ。こちらに渡せる金はないということが……」

「いいえ、まだありますよ」


エルシエット伯爵の言葉に、バランドは笑っていた。

ここに来るにあたって、バランドはとある人物と話をした。その人物から、彼はある種の知恵を得たのである。


「領地というものは、貴族にとってとても大切なものであるようですね? エルシエット伯爵家も、それなりの領地がある。その所有権は、まだあなた方にあるのでしょう?」

「……何を言っている?」

「領地ですよ。それを周囲の貴族に買い取ってもらえばいい。そのくらいの交渉くらいは、あなたにだってできるでしょう?」

「そ、それは……」


バランドの言葉によって、エルシエット伯爵は驚いていた。

そんな彼に対して、バランドは笑みを向ける。その選択が、どれ程に屈辱的なものであるかを知りながら。

そして彼は同時に感じていた。この提案を授けた人物が、どれだけ的確であったかということを。




◇◇◇




ドナテリア一家は、悪質な金貸しであると聞いていた。

そんな彼らの元を訪ねるのは、少々怖かった。ただ、今後の憂いを取り除くためにも必要なことではあっただろう。


『まさか、あなたからこちらを訪ねて来るとは驚きましたよ。実家であるエルシエット伯爵家を助けに来たということですか?』

『私は父に縁を切られました。故に、彼らを助ける義理はありません』

『なるほど、出回っている記事とは事情が違ったということでしょうか?』


ドナテリア一家は、思っていたよりも私を丁重に迎えてくれた。

彼らとしては、借金を返済できる財力を持つ私を、無下に扱う理由がなかったということだろうか。

ただ、私は借金を返済するつもりなんてなかった。私は彼らと交渉をしに行ったのである。


『あなた方が、私の方に取り立てに来る可能性を考慮して、こちらから訪ねさせてもらいました』

『ほう、それは驚きましたね。返済する気がないというのに、わざわざ訪ねて来るなんて……』

『もちろん、手ぶらで来た訳ではありませんよ。私はあなた方に、とある事実をお知らせしに来たのです』


エルシエット伯爵家が借金に苦しんでいる。それは、事前に聞いたためよくわかっていた。

しかしながら、彼らにはまだ支払えるものがあることを私は知っていた。無論それは、彼らが決して手放そうとしないものであることもわかっていたが、私の身の安全のためにも、それらは売ってもらわなければならないものだったのだ。


『貴族というものにとって、領地は何よりも大切なものです。それを手放すということは、中々しないでしょう。あれこれ理由をつけて、その所有権を手放さないはずです。それさえ所有していれば、再起するチャンスがありますから』

『なるほど……つまりあなたは、それを売ることを迫れと言っている訳ですか?』

『ええ、周辺の貴族は、多分それなりの金額で領地を買い取ってくれると思いますよ』


私は、ドナテリア一家に入れ知恵をしておいた。

それは、彼らが私の元に来ないようにするための手だ。

あくどいとはいえ、彼らは取り立てという分野に関するプロだ。きっと、お父様達から領地を取り上げてくれるだろう。


『さっきから聞いてりゃあ、バランドの兄貴に対して随分と偉そうじゃないか。そんなことをしなくても、あんたから取り立てりゃあ済むことだ。聞いた話によると、随分と金持ちみたいじゃないか』

『やめろ、ゴルザス』

『あ、兄貴?』

『申し訳ありませんね。こいつは少し血の気が多くて』

『いいえ、構いませんよ……さて、私達はそろそろ失礼させてもらいますね』

『ええ、わざわざお越しいただき、ありがとうございます』


大柄な男が何かを言いたげだったが、私は一緒に来ていたギルバートと一緒にその場から去ることにした。そんな私が最後に聞いたのは、男達の会話である。


『兄貴、どうしてですか? 元々、あの女に取り立てるつもりだったんでしょう?』

『あの人を敵に回すのは得策じゃないってことさ。ラナキンス商会を敵に回したくはないし、何よりあの人は強かだ。下手に叩くよりも、落ちぶれている伯爵家に行った方がいい。ほら、お前も準備しろ』

『は、はい……』




◇◇◇




「……私の娘に、アルシエラという者がいる。取り立てなら、その娘の所に行け」


バランドの提案に、エルシエット伯爵は辛うじてそのよう言葉を返した。

領地を売り払う。それは彼にとって、最も取りたくない手段であった。

それは再起の可能性が潰える選択肢であり、何よりも屈辱的な選択肢だからだ。

周囲の貴族達に、頭を下げて交渉する。プライドの高い彼にとって、それは避けたいことなのだ。


「商人として大成した娘さんのことですか?」

「……ああ、その通りだ」

「縁を切ったのでしょう?」

「……何?」


バランドの言葉に、伯爵は驚いた。その事実を、彼が知っているとは思っていなかったからだ。

しかしながら、エルシエット伯爵は思った。例えその事実をバランドが知っていたとしても、自分が提案するべきことは変わらないと。


「例え、私が娘と縁を切っていたとしても、お前達がそのようなことを考慮する訳がないだろう。いいから、あの娘から取り立てろ」

「申し訳ありませんが、アルシエラ・エルセデスの元に取り立てには行きません。それが、こちらの決定です」

「なんだと?」


困惑するエルシエット伯爵に、バランドは少し怒ったような表情を見せた。

彼はゆっくりと立ち上がり、エルシエット伯爵を見下す。その目は、冷たい目であった。


「まあ、彼女を敵に回したくはないという理由もありますが……俺達だってね、義理や人情ってものが完全にない訳じゃないんですよ?」

「な、なんだと?」

「あんたは屑だ。俺達と同類なんだよ。貴族などという人の上に立つに相応しい人間じゃない」


バランドは、不快感をあらわにしていた。

あくどい金貸しの彼ではあるが、それでもエルシエット伯爵の身勝手極まりない主張に怒りを覚えているようだ。


「貴様、誰に向かって口を聞いている……この私は、貴様なんかよりも遥かに地位がある者なのだぞ?」

「なら、その地位とやらに縋ってみてくださいよ。既に財力もないあなたを、助けてくれる人がいるかどうか、試してみたらいいじゃないですか?」

「ぐっ……」


バランドの言葉に、エルシエット伯爵は怯んだ。

彼も、わかっていたのである。今の自分を助けてくれる人なんて、誰もいないということを。

故に伯爵は、その拳を握り締めた。バランドの提案に従うしかないということが、彼にとって非常に屈辱的なことだった。

しかしながら、従わなければどうなるのかは既にディクソンがその身をもって証明している。流石に命が惜しい彼は、生きるためにその地位を捨てることを選択したのだ。

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