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エルシエット伯爵家が領地を売っている。そんな知らせを受けてから程なくして、とある人物が私の元を訪ねてきた。

その人物は、不愉快そうに私を見ている。数年振りの再会ではあるが、彼女はそんなに変わっていないようだ。


「それで、何をしに来たのかしら? イフェリア、あなたが私の元を訪ねて来る用なんてなかったと思うけれど?」

「……わかっているでしょう? お姉様、エルシエット伯爵家はあなたのせいで、落ちぶれてしまったんですよ?」

「私のせいということはないでしょう? 既に私は、エルシエット伯爵家とは無関係なのだから」


目の前にいるイフェリアに、私は淡々と言葉を放つ。

彼女が訪ねてきたと聞いた時は驚いた。まさか、こちらまで訪ねて来るとは思っていなかったからである。

そんな彼女が、どうしてここに来たのか。その理由は気になる所だった。しかしその理由は、どうやら私を責めに来たという理由であるらしい。

それに私は少し呆れてしまう。まさか、そこまでして私を責めたいとは驚きである。


「あの金貸しが、お姉様の手の内のものだということはもうわかっているんですよ?」

「勘違いしているみたいね。私は彼らとは何の関係もないわ。まあ、多少話をしたりはしたけれど、それは私が既にエルシエット伯爵家とは無関係であるという証明をしただけに過ぎないわ」

「どちらにしても、領地を売り渡させるというのはお姉様の案なのでしょう? そこまでして、私達を陥れたいのですか?」

「私は、あなた達が安全に負債を支払う方法を提示しただけよ。そもそもの話、借金をしたあなた達が悪いんじゃない。あなた達は縛ってでも、ディクソンを止めるべきだったわね」


私の言葉に、イフェリアは不快そうな顔をしていた。

しかし彼女は、特に反論してこない。ディクソンが愚か者だったということは、彼女もよくわかっているということだろうか。


「……確かに、ディクソン様がろくでもない男だったということは事実です。ええ、認めましょう。私は夫にするべき人物を見誤ったと」

「あら? 珍しく殊勝じゃない。この数年で、あなたも成長できたということかしら?」

「……私は今日、お姉様にあることを頼みに来たのです」

「……なんですって?」


イフェリアは、不愉快そうにしながらも私に対して頭を下げてきた。

それは、本当に意外なことである。まさかあのイフェリアが、こんなことをするなんて思っていなかった。どうしてしまったのだろうか。私の頭の中には疑問が先行した。

もしかしたら、何かしらの思惑があるのかもしれない。イフェリアの態度に、私はそんなことを思うのだった。


「お姉様、私はお姉様にエルシエット伯爵家の領地を買い戻していただきたいと思っています」

「領地を?」


イフェリアは、私に対してゆっくりとそんなことを言ってきた。

その言葉に、私は疑問符を浮かべる。どうして私が、そんなことをすると思えるのだろうか。

私は元々、エルシエット伯爵家の借金を肩代わりしなかった。その時点で、この提案が断られることは読めると思うのだが。


「当然のことながら、ただとは言いません。お姉様には、それ相応の報酬をお支払いします」

「報酬? それは一体何かしら?」

「エルシエット伯爵家をお姉様に差し上げます」


イフェリアは、真剣な顔で私を見ていた。

今まで彼女とは幾度となくやり取りしてきたため、彼女のことはよくわかっている。

故にその言葉に、嘘がないことがわかった。その奇妙な理解が、私を混乱させてくる。


「私は、エルシエット伯爵家の存続を望んでいます。私が失敗したということは、事実として認めてあげましょう。お姉様にエルシエット伯爵家を好きにしてもらって構いません」

「……」

「私のエルシエット伯爵家をお姉様に差し上げます。悪い話ではないでしょう? 貴族として返り咲くことができるのですから」


イフェリアは、どこか勝ち誇ったような顔をしていた。

それは、私がその提案を受け入れることを確信しているということなのだろう。

彼女の中に、まさか家のためという考えがあったということは驚きだ。それ自体は、評価できる点といえるかもしれない。

しかし彼女は、決定的な勘違いをしていた。私と彼女の間には、認識の齟齬があるのだ。


「あなたにとって、エルシエット伯爵家はとても大切なものなのね?」

「ええ? もちろんです。それが何か?」」

「でも、それはあなたにとっての話でしょう? 生憎私にとって、エルシエット伯爵家なんてものはどうでもいいものであるし、貴族に返り咲きたいなんて微塵も思っていないわ」

「……え?」


私の言葉に、イフェリアは目を丸めていた。

彼女にとって、この返答は予想外のものだったようだ。それが、その表情から伝わってくる。


「あなたが出した交換条件は、私にとって利益がないもの。つまり、交渉は不成立ということになるわね? まあ、あなたがまだ私に頼みたいというなら、別の交換材料を持ってくることね」

「は、伯爵家の地位ですよ? それが欲しくないのですか?」

「ええ、そう言ったでしょう? そんなものは、私には必要ないものよ」

「そ、そんなはずは……」


イフェリアは、絶望的な表情をしていた。

この価値観の違いは、彼女にとってそれだけ衝撃的だったということだろうか。

しかし実際の所、私はもう貴族の地位には興味がなかった。そんなものがなくても、私は幸せなのだ。

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