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◇忍び寄る影
「匠ちゃん、ただいまぁ~」
翌土曜日の午前中に、母親の看病のために実家へ戻っていた妻の圭子が
娘の未紗と一緒に自宅へと帰って来た。
俺はというと、コーヒー、トーストにベーコンエッグ、レタスときゅうりの野菜
サラダを加えた簡単な朝食を終え、テレビを流し見してまったりとしているところ
だった。
「おかあさん、どう?」
「うん、めまいが酷くて毎日横になる生活だったけど、だいぶ良くなった。
おかあさんね、匠ちゃんにお礼言っておいてねって。
圭子がいなくて不便かけただろうからって。匠ちゃん、ありがとね。
私からもお礼言います。いっぱい実家に行かせてもらって感謝です」
「そんなふうに言ってもらって恐縮するけど、おかあさんが元気になれて
良かったよ。
これで圭子もこっちでおかあさんのこと気に掛けずに、
安心して暮らせるんだからな。
将来的にはここの分譲で賃貸が出たらおかあさんを呼び寄せるのも手だよな」
「うん、ありがと。私もそれが一番いいような気がする。
でも、なかなか賃貸が出ないからそこがネックだよね」
「まぁ、チラシとかインターネットなんかで、ちょこちょこ見ておくかな」
「そうだね。帰ってきてすぐになんだけど、私、少し横にならせてもらうね」
「分かった、テレビの音小さくするわ」
義母の住む家から自宅まで車で90ほど掛かるので疲れたのだろう、
妻はこのあとすぐに娘を連れて寝室に消えた。
妻が寝室に消えて小一時間ほど視線だけをテレビに向け気を紛らわせていたが、
昨夜の出来事が頭から消えてなくならずモヤモヤが晴れないため、自分も圭子の
側でゴロンと寝そべってみるかと、そっと妻の横に滑り込む。
翌日からは4日連続の祝日続きでゴールデンウイークに突入。
日曜、俺たちは、遠出して混雑した人、人、人の波の中へ入って行くと疲れるのは
目に見えているので、夕食は最寄りの駅近にあるファミリーレストランで外食する
ことにした。
圭子と俺は遅めのブランチを10:30頃に済ませ、これまた混みそうな時間帯を
ずらして16:30頃家を出た。
エレベーターを降りたところで妻の学生時代の先輩である小泉淳子と
出合い頭に遭う。
「あっ、淳子さん、こんにちは」
「圭子ちゃん、もうこっちに帰って来てたのね。お帰りなさい。
おかあさん、良くなったんだ?」
「お蔭さまで」
「そう、良かったわね」
二人の会話が始まると、俺はすぐにその場を離れ共用ラウンジのスペースの棚に
置かれている雑誌を手に取り、妻たちの話が終わるのを待った。
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