テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4 ◇不信感
『あの人とは余り深入りしないほうがいいかもね』と、夫も言ってるくらいだからもし、
直接淳子さん本人から誘われても行かないよね? 匠ちゃん。
それにしても……と、圭子は思った。
これまでにも淳子から夫の匠平のことを羨ましがるような発言はあったけれど、
今日みたいに夫の良いところを細かく指摘されたことはなく、普通に社交辞令
として聞き流してきたのだが、今更に少し嫌な気持ちになった。
それでも、突然前触れもなく夫に対して先日の礼を放ったりというような淳子の
言動がなければ、そこまでの嫌悪感は生まれなかったかもしれない。
そんなこんなで、モヤっと形にならない不安が圭子を襲うのだった。
彼女がご主人の不倫で離婚していること、住宅という高額な買い物をして毎月キツい
住宅ローンを抱えていること、おそらく額にして3800万円~4000万円近くの
ローンがあるのではないだろうか……世の夫たちが払うのでさえ大変な額のローンを
抱えていて、今度は返済のため自宅でマッサージサロンのようなものを始めていること、
収入が激減していると話していたことなどが、胸に刺さり引っ掛かりを覚えてしまうのだ。
淳子の話は、いくら考えても身の丈に合ってないように思える。
ふと圭子は自分が今の淳子の状況になったらどうするだろうと考えてみた。
分譲マンションを賃貸に出して自分は家賃の安いハイツかアパートに移るかな。
それなら夜職しているのだから余裕でなんとかなるんじゃないかしら。
彼女の話からざっと算出すると、実質手元に残るのが、生活費や必要経費など
差っ引いても55万円前後になるみたいで、目減りしたとして今これが40万円
と考えても、賃貸料-家賃=13万~15万収益として残るのだから、手元に残る
のが53万~55万でしょ。余裕でローン返せるんじゃないのかな。
残ったお金は失業したときのために貯金するとかして。
自分は未経験者だし多くの事例も知らず、声を大にしては言えないが、例えばお金が
溜まった時にパッとまとまった額を一気に返済してしまうという方法もあるというの
を聞いたことがある。
また、人によっては利息が低ければローンとしてできるだけ長く借りて長期戦で
払った方がいいと考える人もいるようだ。
まぁ、私たちの住んでる物件は、駅近で人気があり、このご時世でも販売価格が
高騰しているので、最悪売ってしまえば生き残りの方法はあるのかもしれない。
5 ◇押しの強い女
先日、圭子と一緒にいた匠平に礼の言葉を投げ掛けた折、彼は少しの愛想も返してはくれず、
一度自分を一瞥しただけで、彼の元へと歩いて行く妻の圭子に視線を 移し、そのあとは、
圭子の手から娘の座っているバギーを引き受け、代わりに押しながらさっさとエントランスを
くぐり抜けて行った。
一生懸命サービスした自分に素っ気なく過ぎやしないかと、淳子は少しいらっとした。
けれど、妻の前で流石に他の女にデレデレできないかっ、と考え直した淳子は、
イライラを引っ込めることにした。
そしてそのあと、自宅での仕事が途切れた隙に匠平の帰宅する頃を狙って、
仕事であるマッサージを盾に次の約束としてアロママッサージの予約を
取り付けようと考えた。
初めてのあの日、素っ気なくそそくさと匠平は帰って行き、また後日会った時にも
確かに素っ気なかった。
しかし、最初の時は思いがけずの出来事にアタフタしてのことだったろうし、二度目は
近くに妻がいたので、親し気にできなかったのだろう。
圭子に同僚との付き合いでと言い置き、我が家に再度来てもらい、私からの好意を
伝えれば自分の美貌とこのしなやかな肢体に必ずや彼は溺れるはず、そう淳子は心算した。
◇ ◇ ◇ ◇
今回のゴールデンウイークを匠平は、1日有給を入れたため土曜を入れると
6日間まとまった休日を取ることになり、家族とまったりと過ごし、普段
忙しくてストレスが溜まる一方だがよい骨休みになった。
匠平は化学メーカーに勤めていて多忙な日々を過ごしているが、化学製品や素材製品の
分野では生産技術の進化が事業の成功に繋がるため、やりがいを感じていて、大学に残り
研究者の道を進む選択肢もあったが開発に携わると決めたことに後悔はなかった。
そして今日は休み明けの初日、少々疲れたが翌日からまた2日間の休みなので英気を養い、
次の週初めからは仕事に本腰を入れなきゃな、などと、妻と娘の待つ我が家へと急ぎ足で
マンションのエントランスへと匠平は足を踏み入れた。
いつものように数メートル先のエレベーターを目指し足早に歩を進め始めた時、
共用ラウンジにいたであろう小泉淳子が顔を見せたのである。
匠平には悪い予感しかなく、自然と口元が引き締まる。
「匠平くんっ」
「こんばんは」
俺は普通に挨拶をしてやり過ごし、足を止めずにそのままエレベーターに
乗ろうとした。
すると、すかさず彼女は俺の横に張り付いて言った。
AI自作イラスト 加納圭子
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
10
#シングルマザー
水羽凛
174
#異世界転移
花月夜れん
2,595
フィオレ
86