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昼過ぎ。シェアハウスは珍しく静かだった。
私と晶哉くん以外、みんな仕事や用事で出かけてしまっている。
〈やっと……2人になれたなぁ、如月ちゃん♡〉
振り返った瞬間、晶哉くんが勢いよく抱きついてきた。
「うわっ!ちょ、危ないってば晶哉くん!」
〈えへへ……。如月ちゃん見てたら……キスしたくなるねん〉
甘えるように言いながら、少しずつ距離を詰めてくる。
その瞳はまっすぐすぎて、逃げ場がない。
「だ、だめ!ダメだよ!」
私は慌てて顔をそむける。
〈なんで……?誠也くんとは、したんやろ……。なんで俺はあかんの?〉
「それは……」
言葉が出ない。
胸がぎゅっと苦しくなった。
晶哉くんは、少しだけ悲しげに黙り込む。
〈……〉
「たしかに末澤さんに……キスされたよ。でも……付き合ってるわけじゃない。告白もされたけど……断ったし……。私……“好き”とか“恋”とか……よく分からないんだ」
震える声で言うと、晶哉くんはじっと私を見つめ……
〈……じゃあ、俺が教えたる〉
ぐい、と手首を引かれた瞬間、唇が塞がれた。
息を飲む暇もなかった。
〈……好き。大好きやねん。嫌なら……突き飛ばしたらええ〉
囁く声は震えていて、必死で。
そしてまた、深くキスを落としてくる。
突き飛ばす?
できるわけがない。
そんなことしたら、晶哉くんが傷つく。
私の心が痛む。
だから私は……動けなかった。
気づけばソファの上で押し倒される形になり、晶哉くんの唇が何度も触れた。
“私……最低だ……”
胸の中で自分を責める声が響く。
末澤さんとも……晶哉くんとも……キスして、どちらにも答えられなくて……どちらも嫌いじゃなくて……それが恋なのかどうかすら分からなくて……
溢れる涙が頬を伝った。
その滴に気づいた瞬間、晶哉くんの動きが止まる。
〈……如月ちゃん。〉
彼はゆっくり私の上からどき、視線をそらしながら立ち上がる。
〈……ごめん。俺、ちょっと……部屋戻るわ〉
絞り出すような声で言うと、晶哉くんは俯いたまま自分の部屋へと消えていった。
残された私は、涙を拭うことすら忘れて……
ただ、ソファの上で動けずにいた。