※長いです。3000文字程度。
「起立、礼ー」
授業終了のチャイムが鳴り学級委員が号令をする。
俺はこの学校で国語教師をしている。
今日使ったプリント忘れんなよー、と声かけをするがそんな声は聞こえないくらい休み時間の教室はうるさい。
さて、昼休みになったとこだし俺もお昼食べよ。
と、教室を後にした。
教員室までの廊下を歩いていると
「あっ!ないこせんせー!!」
と、元気な声で呼び止められた。
声のした方を振り向くと赤髪の青年_りうらがこっちに手を振っていた。
りうらは今一番俺になついてくれている生徒だ。
「ないこ先生お疲れ様。 次の授業楽しみにしてますね!」
りうらの爽やかな笑顔に心が浄化される。
仕事が辛くてもこういう生徒が少なからず居るから頑張れる。
「うん、ありがとう。 りうら。」
そう素直に感謝を伝え、 教員室までの道をまた歩き出した。
教員室に着くともうお昼を食べ始めてる先生は結構居て。
俺含め、みんなだいたい質素なコンビニ弁当。
生徒の弁当を見て、母親の弁当が恋しくなるな。
なんて思いながらコンビニ弁当と、 おにぎり (×2) ホットスナック (×2) を平らげた。
「ごちそうさま。」
さて、始業まで時間がある。
準備を済ませてしまったし、
スマホでも見ているか。
そう思い、スマホを取り出そうとしたが
「ないこ先生、今ちょっと時間ありますか?」
理科担当のスズキ先生に呼び止められてしまった。
「はい、大丈夫ですよ?どうかしましたか?」
さっきも言ったとおり始業までには全然時間がある。
彼も次の時間、授業だろうし
早めに終わるだろうと思っていた。
「ちょっと着いてきてほしいとこがあって、」
申し訳なさそうに顔を歪ませ教員室を出て行く彼。
少し遠出の用で、早く終わりそうにないみたいだ。
「了解です。 どこですか?」
俺も席を立ち、教員室を後にした。
「しばらく廊下を歩き、 旧校舎の方まで来てしまった。
彼曰く、こっちの方に昔使っていた資料があるという。
俺は全然こっちの方に来ないから詳しいことは分からない。
「あ、ここです」
そう言って彼は教室に入っていた。
俺もそれに続いて教室に入る。
そして目の前に広がっている、 大量に積み重なった資料。
……ではなく、広がっているのは何もない教室。
そしてガチャと鍵のかかった音。
「どう言うつもりですか?」
本能的にこの状況はやばいと思ったのか少し彼から距離を置く。
「いやぁ、僕ずっと前から狙ってたんですよ。 ないこ先生のこと。」
楽しそうに声を弾ませ、ジリジリと近づいてくる彼。
……とうとう、壁まで来てしまった。
手首をがっちりつかまれ、逃げ出せない状態に。
彼は見た目に反して腕力は結構あるようだ。
「その綺麗な顔が、ぐちゃぐちゃに壊れる瞬間……見てみたい……ッ♡」
舌なめずりをして言う彼の言葉にゾクッと背筋に悪寒が走った。
がっちりつかまれた腕の時計をちらっと見ると、始業まであと10分。
「……ッこのまま俺が教室に行かなかったらみんな怪しみますよ?」
「あ、それは大丈夫ですよ?生徒には『もしかしたらないこ先生ちょっと遅れるかもしれない』って伝えてますから♡」
そうだ、次のクラスは彼が担任のクラスだった。
「あ、僕も今日はもう授業ありませんからご心配なく♡」
まずい。 かなりまずい。
ただでさえ、旧校舎は人通りが少ないのに昼休みが終わってしまったらもっと人が居なくなってしまう。
そうなってしまったら、ほぼ確実に助けは来ない。
「ねぇ、ないこ先生?おとなしく僕に抱かれません?」
その言葉と共にパーカーの下からスルリと手が伸びてくる。
「……ッ、!?」
突然のひんやりとした感覚にきびくっと身体が反応してしまった。
咄嗟に彼を睨みつけると完全に雄の顔になっていた。
それは今にも襲いかかってきそうなほどで、
なんて考えていたら彼の手が顔に伸びてきた。
「……やめ、ッ!」
やばい。
目をぎゅっと瞑る、と同時にガラガラッと勢いよく扉が開く音が聞こえてきた。
ハッとしてそちらを向くと見慣れた赤髪が。
「あれ、空き教室だと思ったんだけど……先生方、 何してるんですか?」
りうらだ。
りうちは今ままで聞いたことないような低い声をだし、睨みつけてくる。
スズキ先生は一瞬顔を歪ませたがすぐいつも通りの笑顔に戻って、
「大神くんこそ、なにやってんの?もう授業始まっちゃうよ?」
と、言う。
今まで良い笑顔だな、と思っていた彼の笑顔は本性を知った今、恐怖でしかなかった。
彼はまだ俺のことを離す気はないらしく、降ろされた手首はまだがっちりつかまれている。
「授業なのは、 先生方もでは?大の大人が仕事サボって何してるんですかね?」
いつもよりも語気を強めて言うりうら。
サボってるなんて、と言うスズキ先生の言葉を遮るようにりうらがスマホ画面をこちらに見せつける。
そこにはさっきまでの俺たちの写真があった。
それには彼も驚いたようで言葉を詰まらせる。
「教師同士でこういう関係…いいんですかね?ましてや、 スズキ先生、これって、レイプですよね?」
一つ一つ、 問い詰めるように聞くりうら。
それに焦ったように言葉を返すスズキ先生。
「は、いや、これは…そういう関係であったとしてもレイプなんて…っ!」
「俺には、はっきりとないこ先生の『やめて』と言う声が聞こえたんですが?」
反論できなくなったのか黙り込むスズキ先生。
「学校と、教育委員会に報告させていただきますね。」
そうりうらが言うと、くそっ、と捨て台詞を吐きスズキ先生は出て行った。
腕が解放され緊張が解けたのか地面にへたれこんでしまう。
その様子を見て、りうらがこっちに駆け寄ってきた。
「ないこ先生っ、大丈夫ですか?」
「うん、だいじょ······って、 あれ……、」
安心からか、 ポロッと涙が一粒こぼれた
さすがに生徒に泣き顔なんて見られたくないな、と思い、少し下に俯き、りうらと目を合わせないようにした。
すると、ふわっと突然何かが俺を包んだ。
「怖かったですよね。 レイプされそうになったんですから、落ち着くまで一緒にいますから、安心してください。」
上から振ってくる優しい声に、俺を包み込んでいるのはりうらだと言うことが分かった。
俺は生徒の腕の中で情けなく泣いた。
始業のチャイムの音ははっきり聞こえなかった。
しばらくして、 だいぶ落ち着いてきたので
もう大丈夫、なんて言ってりうらの腕から離れる。
「ごめんりうら……授業……」
「そんなの良い。先生が無事でほんっとよかった……」
「……うん、ありがとう…」
りうらの優しい言葉にまた泣きそうになる。
すると、突然りうらの手が俺の頬を包んだ。
「今度、 こんなことがあっても俺が貴方のことを守りたい。ねぇ、先生。 好きです。 今すぐ……は無理だと思うので、俺が高校卒業したら、俺と付き合ってくれませんか?」
突然の告白。
俺が訳も分からず戸惑っていると、 りうらが言葉を続けた。
「返事は今じゃなくて良いです。 また卒業式で貴方に告白します。 そのときに返事をください。」
そう言うとにこっと微笑むりうら。
どういうわけかさっきから鼓動がどうにも鳴り止まない。
「ほら、ないこ先生。 そろそろ行かないとやばいですよ?」
ぐいっと腕を引っ張られ、 りうらと一緒に教室を出て行く。
俺の脳内にはりうらのさわやかな笑顔と、『好き』 と言う言葉がこびりついていた。
この感情が『恋』だと気づくのはもう少し後のこと。
青桃版も投稿しております。ぜひそちらも。
➜【好きを隠して__】
コメント
4件
フォロー失礼します!
はわっ、、、尊い
すずき〇すか、、、