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暗い空に、雪が静かに降っていた。月は雲に隠れ、街はまるで誰かに息をひそめるように沈黙していた。
その夜、江戸川乱歩とポオは、人通りの少ない裏通りを歩いていた。乱歩が好む古本屋がこの通りの奥にあるためだった。
「しかし、君とこうして歩くのも、なんだか珍しいよね。」
「一人にはしたくない。」
ポオははっきりとそう言った。乱歩は少し笑って、雪を手に取る。
「……頼もしい護衛付きってわけだ。」
そのとき——風が止まり、空気が変わった。
次の瞬間、何かが乱歩たちに向かって飛び込んできた。
「伏せろッ!!」
ポオが乱歩を押し倒し、すぐに金属の何かが地面に突き刺さる鋭い音が響いた。投げられたのは鋭利な刃。もし避けていなければ、乱歩の喉をかすめていたはずだった。
「やっぱり、来やがったか……!」
乱歩は笑ったが、その目は冗談ではなかった。
暗闇の中から現れたのは、黒いコートを羽織った複数の影。顔はマスクで覆われ、言葉も発しない。ただ、乱歩を狙って動いているのは明らかだった。
「完全に狙い撃ちだな。僕だけを連れに来てる。」
ポオはすぐに体を乱歩の前に出し、鋭く睨む。
「触れるな。彼に指一本、許さない。」
だが、相手は迷いなく動いた。襲撃者のひとりがポオに向かってナイフを振るい、もうひとりが乱歩を後ろから羽交い締めにする。
「……!」
ポオの身体能力では複数を相手にするのは限界があった。咄嗟に異能を使おうとするが、相手は煙幕のような黒いガスを撒いた。
「異能力……封じ?」
咳き込むポオ。その隙に、乱歩の姿は煙の中に消えた。
「……乱歩!!」
叫ぶ声が夜に響いたが、返事はなかった。
それが、「狙われた夜」の結末だった。
ポオは荒れた路地に一人、立ち尽くしていた。乱歩のマフラーだけが、地面に落ちていた。
手に取り、強く握る。
「必ず、取り戻す。」
その瞳には、静かな怒りと決意が宿っていた。
しかし、彼の前にはただの誘拐では終わらない、もっと深く冷たい闇が待ち受けているとは——このとき、まだ知る由もなかった。