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それから歩き始めて10分が経過した。
目的地まではおよそ、あと3キロほど。ゆっくり歩いても1時間はかからないだろう。
癒姫華は今はもうすっかり目を覚まし、いつもの笑顔を見せている。癒姫華は俺といる時ずっと欠かさず笑顔でいる。前は無理してるんじゃないかってよく考えていた。だけど、癒姫華と一緒にいて今ではもうそんな不安は無くなった。それよりもこの笑顔を無くさない方法を探す方がいい事を知ったからだ。
そう考えていた時、ふと癒姫華が呟いた。
「もし、間に合わなかったら…」確かに。
正直その不安はある。導かれてるからこそ、道中何があってもおかしくない。でも、何故、導かれてるのだろう…今更。シウルを祖母から貰って9年近く経つ。9という数字に何かあるのかもしれない。
「絶対大丈夫。根拠は正直言ってないけど、信じてるっていう理由はあるから」と俺らしくないことを口にした。いつも“根拠の上に説明は成り立つ”という考えの俺がこうやって言うのは本当に初めてに近いことだった。すると、彼女は少し笑ってから「うん!信じてるってことがもう根拠な気がするよ!」と言ってくれた。
この暗い、闇が広がる空の中明るい彼女が本当に月のように思えた。
【スターチシス城 本城 大広間】
「おい、ハナアム。あいつはまだか?」
そう話すのは、国王であるラ・モールバーク・S・サース。16で若くして国王の権力を握った凄い男。現在は29の年齢で魔法を使い時間を止めている。体格はスラッとしているおだやかなイメージがあるが、赤髪の混ざった黒髪が灯りに照らされると途端に威厳を発するような皆が畏れる(おそれる)王であった。
「はい、あっちの世界ではあと2時(にとき)あまりの時間があるようです」宰相であるハサアムが答える。
「本当にいちいち時間が“こっち”と違うのはやめて欲しいな。魔法を使って直したいがやっぱり元々魔法が使えない俺は簡単なことはできてもそんな難しいことはできないみたいだ」…これは普通はあり得ないこと。生まれつき魔法が使えないものはその先、一生使えることはない。だが、この国王だけは例外だった。
「国王様、左様のようで」
すると、国王は急に不気味な笑顔を浮かべてこう言った。
「とにかく、“あいつ”にあの話をしたらどうなるか楽しみだ。それで“あれ”もなハサアム。あいつはきっと手強い(てごわい)ぞぉ」
その時、ハサアムは思った。
この話の結末は哀しいものになるのだろうと────。
「癒姫華!あそこだ!」あれから数十分歩き続け、ようやくあの絵画と同じ風景の場所を見つけることが出来た。そして俺はシウルを見る。1:10。時間には結構余裕があった。
「あとは…3時55分になるまで待つだけだね」
「うん」あと、、数時間。
何があっても、絶対癒姫華は守らなければ。俺はその時間になるまで何度も頭の中で復唱した────。