※ちょいグロ注意
◇ ◇ ◇
〈???〉
…………。
「はぁ、はぁ、はあっ……。ここまで来たら追ってこない……よな?」
息が上がる感覚がする。自分は今どのくらい逃げたのだろう。自分は今どこに居て、あいつらはどこに居るのだろう。
──分からない。何もかもが。
とにかく逃げ切りたい一心で走ってきたので、今自分は村のどの部分に居るか分からなかった。陰になって休めそうな場所を見つけ、そこに座る。ため息をついてから、これからどうするかを考えた。
(にしても、何なんだあいつらは……。俺が武器を持ってないと分かった瞬間、真っ先に襲ってきたぞ。あいつらの足が遅かったから何とか助かったな……)
「どうしたものか……」
『どうする?』
突然聞こえてきた、可愛らしい少女の声。振り返って見ても、そこには誰も居なかった。聞き間違いか幻聴かもしれない。それか、あいつらの能力なのか──。
『ねぇ、無視しないでよ。1人で寂しいんでしょ? わたしが遊んであげるよ』
「え……うーん……。いや、寂しいわけじゃないんだが……」
『寂しい? 寂しいよね?』
少女の声が、段々と力強く、肯定しろと言わんばかりの声色で尋ねてくる。その圧に負け、頷いてしまった。すると、少女の期限は途端によくなった。そして、少女はこちらに向かって手を伸ばしてきた。
そこで、意識が途切れた。
◇ ◇ ◇
2体目の引き連れている個体を探して走り回る。融合怪物すら見当たらない。アルバートがその特徴ではと言っていた印も、確かにその可能性としては高いが、本当かどうかは分からなかった。しかも無線などもなく連絡を取り合えない今の状態では、向こうにいる2体目を倒せたかどうかは分からない。とにかく信じて、怪物を探し当てて倒していくしかなかった。
ふと、先を走っていた志音が立ち止まる。それにつられるようにして3人も立ち止まった。
「……あれは何でしょうか?」
志音の視線の先。そこには、融合怪物であろう1体の怪物が、蹲って何かをしていた。怪物が、4人の足音に気付いたのか、むくりと起き上がるようにして音のした方向、つまり4人の居る方を見た。
その怪物の口元には、べったりと血液がついていた。
「───────!?」
「あ、あれは……?」
4人は唖然とする。そんな4人の方へ、怪物はつかつかと歩み寄ってきた。怪物が蹲っていた場所を見ると、地面には1人の男性が倒れていた。その顔に覚えはない。首元や服、顔が血に塗れており、目を凝らしてよく見ると、その腕には先程見た謎の印があった。
更に、4人へ歩み寄ってきている怪物の脚にも同じ印があった。……そう、それは2体目が引き連れている小さい個体の証では、と予想されているもの。やはりアルバートの予想は合っていたのかもしれない。胡朱がそう考えていると、真隣に居た志音が手にしているピストルを発砲した。放たれた弾は融合怪物の額へと当たる。融合怪物はその場で倒れ灰へとなった。
「アルバートさんの予想は当たっているようですね。しかも、あの印が出現しているのはどこか分からない……と」
「にしてもあの人、様子がおかしいですわ。というか、あの印が腕にありますわ。もしかして──」
男性は血塗れのまま起き上がる。瞬く間にその姿は変形し──融合怪物へと成り果ててしまった。
4人は再び動揺する。人間が融合怪物へと変身していく様子を目の前で見たのだ。先程の男性の死体を見ていたからか、死体からこんなになるだなんて、と思う気持ちもあった。ひとまず、何らかの理由で、死んだ人間も融合怪物に変わってしまうということが判明した。これは大きな収穫だろう。帰って説明しなければと思いつつ、4人は人間だった融合怪物を倒した。
……その罪悪感は小さくはないだろう。いくら人に危害を加える融合怪物に変身してしまったとしても、元は人間だったのだ。しかも、その融合怪物の被害を受けた者だ。もしかしたらあそこに居た怪物達も、という嫌な思考が過ぎり、胡朱は深く考えるのをやめた。
「……あの印がある怪物達、やっぱり2体目が引き連れている個体っていうことでいいのかな? だとしたらもっと探さなきゃだよね。完全に弱体化させるには、全員倒さないといけないだろうし」
目の前で起きた出来事からは目を逸らすようにして、デイジーがそう言った。やはり、人間が化け物に変身するというのは些か現実味に欠けるのだろう。3人もそれに頷き、話題を逸らすように、どのようにして、効率よく2体目が引き連れている個体を探すかについて話し始めた。
2体目が引き連れている小さい個体には謎の印があり、その印が体のどこかの部位にある融合怪物を探して倒せば済む。見つけた融合怪物を片っ端から倒すようなことにならなかったのは、不幸中の幸いと言えるだろうか。しかし問題は、その印がある小さい個体をいかに効率よく、より早く見つけられるかだ。向こうではアルバート達4人が戦っているが、あちらには大きい個体が2体も居り、更に1体目が引き連れている小さい個体も居る。流石に戦える限界があり、戦闘を長引かせるのもいいことではない。胡朱達4人は、一刻も早く2体目の引き連れている小さい個体を探す必要があった。
「これは何でしょうか……。方位磁針のように見えますが……どこを指しているのでしょう?」
胡朱が拾い上げたのは方位磁針のようなものだ。しかし、その方位磁針は本来示しているはずの北を示しておらず、村のすぐそこにある森……その麓を示しているように見えた。胡朱が3人を呼び、その方位磁針を見せる。3人も、その北を示していない方位磁針を見て顔を見合せた。
「森の麓を示しているように見えます。ほら、あちらに見える……」
「本当だね。でも、あそこの森は危ないんだよ。融合怪物がうろついているっていうことで、つい数ヶ月前に全面立ち入り禁止になっちゃったんだよ」
方位磁針の針が示している先を見ながら、デイジーがぼそりと呟くように言う。融合怪物がうろついている森、危険、全面立ち入り禁止。もしかすると、と声を上げたのはアリスだった。
「でしたら、そこに2体目が引き連れている個体が沢山居る可能性もあるかもしれないですわ!」
「そうだけど……危ないよ?」
「ですが、行ってみるに越したことはありませんね。もしかすると、本当に2体目が引き連れている個体が居るのかもしれませんし」
アリスの意見に賛同したのは志音だった。デイジーはいかにも不安そうな表情をし、胡朱の方を見遣る。胡朱は頷き、「私もそう思います」と付け足した。そして、4人は方位磁針が示している先、森の麓へと向かうことにした。
◇ ◇ ◇
4人は森の麓へ向かった。その途中、森の麓の近くに来た時──ふわりと、方位磁針は謎の光に包まれた。それを一行は疑問に思ったが、どうしようもないのでそのままにして進んでいった。
森がすぐそこへと迫っていくにつれ、その光は強いものになっていく。胡朱の手元にある方位磁針が、持っているだけでも分かるほどの強い光を放ち始めた時。ふと、その光が宙へと浮かんだ。光は宙に浮かぶと、どこかへ消えていってしまった。突然のことで困惑していた4人の前に、今度は淡い光の筋が浮かんでいるのが見えた。その光は森の麓へと続いており、元を辿ると方位磁針があった。
「ど、どういうことでしょうか……」
困惑が隠せない様子で志音がそう呟く。他3人も、分からないとでも言いたげに首を横に振った。何が起きているのか理解が追いつかないまま、4人は光が示している先を進んでいった。……もしかすると、この光が自分達を導いているのでは、と考えながら。
またしばらく進むと、今度は壁に当たり4人は立ち止まった。目の前は一面土の壁で、これ以上先に進むにはよじ登る必要があるだろう。しかし、光はその壁の先を示しているように見えた。壁を崩せということだろうか。胡朱がそう考えていると、デイジーが1歩前に出て壁を観察した。見た目を見て、手で触り、それから少しすると──何かが分かったのか、振り返って説明しはじめた。
「これは一見するとただの壁のように見える。けど、どうやらこの先は空洞になっているみたい。何か壊せるものがあればいいけど……って、え?」
「どうしたのですか?」
「……その方位磁針、どうなってるの?」
どうなっているとは? 疑問に思った胡朱が右手の方位磁針を見る。すると、それを見た胡朱は驚いてしまい、つい声を出してしまった。
──方位磁針が、強く光っている。心做しか、ピッピッといった謎の音も聞こえてきているような気がした。……音に合わせて光が強くなってゆく。嫌な予感がした胡朱は、何となくそれを前方に投げた。その瞬間。
方位磁針は、大きな音を立てて爆発した。音の割に爆発範囲は小さかったため4人は無傷だったが、土埃のせいで一時的に目の前が見えなくなってしまった。胡朱が咳をしながら目を開く。目の前には、先程まではなかったはずの洞窟の入口があった。
「どっ、どういうことですの!?」
「おそらく、私が先程投げた方位磁針は、何らかの条件下で爆発するものです。その条件が満たされ、爆発したのかと。……そして、これはその爆発により出来た洞窟の入り口。デイジー様がおっしゃっていた空洞がこの洞窟なのでしょう」
「……行ってみましょうか?」
現れた洞窟の入り口と3人を交互に見ながら、志音がそう呟く。すると、デイジーが一足先に洞窟の中へと入っていった。中に入ってから数歩ほど歩くと、振り返りながら「大丈夫だよ」と言う。危険はなさそうだということを伝えたかったのだろう。一行は、薄暗い入り口の中へと入っていった。
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グロの匂いがして戻ってきました(?) 謎の少女.....可愛いのかな...... 今回も最高に面白かったです!続き楽しみに待ってます!