コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝、食事と準備を終えたミューゼ達は、屋敷の前で全員集合。
ピアーニャは朝からすっかり凹んでいる。朝食時も始終不機嫌だった。それはもちろん……アリエッタがさらに増やしていた可愛い服を着せられた影響である。
「はぁ、似合ってるわ、ピアーニャ♪」
「うぉらー! かえるぞー!」
ルミルテに褒められたピアーニャは、完全にヤケクソ状態で叫ぶ。
他の大人達は苦笑しながら簡単な挨拶を交わしていた。
「お世話になりました」
「ああ、またいつでも来るといい。その子の事で何か力になれる事があれば手伝おう。ピアーニャも上手く使ってくれればいい」
ハウドラントに来た本来の目的は、アリエッタに覚えのある光景が無いか、様子を見る為だったが、それ自体は完全なる空振りに終わった。しかし、それ以上にドルネフィラーの情報やドルネフィラーそのものと話す事が出来る生物という想定外の収穫があった。
この事はシーカーにとっての快挙でもあり、ピアーニャの一家は大満足。ファナリアに帰る事を急かしているのも、はやく資料をまとめて記録として残したいという想いも半分あったりする。
昨晩のピアーニャは暴れて疲れていたものの、ネフテリアと一緒にまとめたその資料を見て、ホクホクとした気分で眠りについていたのだった。起きて早々、その気分は打ち砕かれたが。
ワッツとルミルテ、そして恍惚とした光を瞳の奥に宿しながら涙と涎を流す変態達に見送られ、ピアーニャ達一行は屋敷を後にした。
(旅行も終わりかぁ。なんだか不思議な世界だったなー。雲の上だったり、水が上に登ったり、夜は綺麗だったし、虹の上にもいたし、オバケにも会った。怖かったけど、ミューゼが助けてくれたし……んふふ♡)
状況を理解していないアリエッタはもちろん、エルツァーレマイアも、ドルネフィラーとハウドラントを1つの世界として認識している。言葉を覚えるまでは、正しい知識が入ってこないのは当然の事なのだ。
「メレイズちゃん来てるかな?」
「めれいず?」
「うん、昨日のうちに帰るって連絡してもらったからねー。ファナリアに行く前に挨拶しようねー」
(もしかして、めれいずに会えるのかな?)
すっかり仲良くなったメレイズに挨拶もさせずに帰ったら、絶対アリエッタは泣くだろうと思ったパフィは、メイドに伝言を頼んでいた。住んでいる場所もその時聞いている為、いざとなれば訪問も可能である。
なお、伝言を頼まれたメイドが、ここぞとばかりに飲みかけのティーカップを下げ、退室してから裏で何かをしていたところを別のメイドに見つかり、殴り合いになった後、少し遅れてメレイズの元へと向かっていた事は、パフィのあずかり知らぬところである。
「アリエッタちゃん! 今度ファナリアに遊びに行くからね! 絶対だからね!」
塔にはしっかりとメレイズとその母親が到着していた。転送の準備中にメレイズがまた会おうという事を伝えようと頑張っている。
その必死さに、言葉が分からなくともお別れを言いに来ている事を、アリエッタは察していた。
「うぅ、めれいずぅ……」(もしかして、この体になって初めての同年代の友達だったのかな。そう思うと寂しくなってきた)
アリエッタの泣きそうな顔を見て、ミューゼがぽんぽんと頭に手を置く。すると、どうしたらいいの?という顔で、アリエッタが見上げた。
その表情が分かりやすく、察する事が出来たミューゼは、アリエッタの横に屈んで、アリエッタの手を取って、振りながらゆっくりと発言した。
「メレイズ、ま・た・ね」
「めれいず……またね……」(これがさよならって言葉なのか……)
完全ではないにしても意味を理解したアリエッタは、そう言うと堪えきれずに涙をポロポロ流し始める。それを見て我慢出来なくなったメレイズは、たまらずアリエッタに抱き着いた。
「うん、またねぇっ」
塔の中に女の子2人の泣き声が響き渡った。大人達は温かく見守り、一部もらい泣きしているシーカーや警備員もいたりする。
「ア゛リエ゛ッダぢゃん! わたしとアリエッタちゃんはともだちだからねっ! ともだち!」
「ぅえっ…ぐすっ……と…もだ…?」
「ともだち!」
必死にそう叫びながら、アリエッタの手を握る。
「とも…だち…」
「うん、ともだち!」
「アリエッタ…めれいず…ともだち」(『ともだち』ってもしかして……)
泣いて少しボーっとする頭で、アリエッタは考えた。そして結論を出し、メレイズに抱き着いた。
「ひゃっ」
「めれいず…ともだち!」(多分大好きって意味だ! 僕もめれいずの事大好きだよ! 初めての友達だし!)
アリエッタの中で、微妙に意味がズレた。使い方自体は間違っていないお陰で、ミューゼ達が通じたと感じ驚いている。
2人はそのまま少しの間、抱きしめ合うのだった。
「ほらアリエッタ、最後に『またね』よ」
「めれいず! またね!」
「またねー! アリエッタちゃーん!」
落ち着いたアリエッタは、自然とミューゼの手を握り、一緒に台へと上った。
そしてそのまま怖がること無く、転移するまでメレイズと見つめ合っていたのだった。
アリエッタは『またね』と『ともだち』を覚えた。
王城の奥の方にある一室。
エインデル城に帰ってきたネフテリアは、ピアーニャと両親に内密にしてほしい大事な話があると言い、誰にも話を聞かれないこの部屋に誘った。
「どうした? まだドルネフィラーについてトンデモないヒミツでもあるのか?」
「……ううん、それだったらピアーニャの実家で全部話したよ」
部屋の外に気配が…特に兄の気配が無い事を念入りに確認し、緊張した面持ちで話し始めた。
「秘密は秘密だけど、今回話すのはアリエッタちゃんの秘密よ」
「まぁ、アリエッタちゃんの?」
「確かに重要だとは思うが、個人の事だろう? ここまで厳重にするものなのか?」
王と王妃がこの状況を不思議に思うのも無理は無い。沢山の異なるリージョンと交流のあるファナリアにとって、最初は信じられないと思えるような文化の人と出会うのは不思議な事ではない。そういう異文化との交流を管理しているのが他ならぬピアーニャなのである。
つまり誰にも言えないような秘密がアリエッタにはある……そう睨んだピアーニャは、黙って続きを促した。
「じゃあまず最初に結論から言うと、アリエッタちゃんは……天使だったわ」
真剣な顔になっての告白に、ピアーニャ達は……ハァとため息をついた。
「よく知ってるわ。アリエッタちゃんは天使だって事くらい」
「ああ、あれだけ可愛いからな。誰が見ても明らかに天使だろう」
「そんなくだらんコトをいうために、わちらをあつめたのか?」
「えぇ……」
3人の冷めきった反応に、逆にネフテリアが引いてしまった。
「あーゴメンナサイ! 結論から言うんじゃなかった……えーっと……」
ネフテリアは夢の世界で出会ったエルツァーレマイアの事から話し始める。
ドルネフィラーに入ったら、最初からアリエッタと一緒にいた事。とても仲が良かった事。アリエッタが怒った時と同じ力を使った事。そしてドルネフィラーから出たら消えていた事。
「つまり、アリエッタちゃんのお母様は、アリエッタちゃんの心の中だけに住んでいる……ああぁっアリエッタちゃん! わたくしが新しいお母様になってあげるっ!!」
深刻な顔で聞くガルディオ王の横で、王妃フレアが勝手にアリエッタの悲しみを想像して、わんわん泣き出してしまった。
「いやまぁ、わたくしもそう思ったんだけどね……」
ここまではピアーニャも実家で説明してもらっていた為、隣で情報整理しながら何も言わずに聞いていた。
「つまり、ハナシにはツヅキがあるのだな?」
「ええ、でもその前にもう1つ。この事を教えてくれたドルネフィラーの事を教えないとね」
続いてドルネフィラーというリージョンと、そのリージョンそのものである存在について話した。
ネフテリアもドルネフィラーから出るまでは、混乱もあって意識していなかったが、『創造主』という事は神様という存在と同じなのではと後で気づき、案の定ピアーニャの実家でのたうち回っていたが、そこは伏せて説明していった。
「うぅ……ここにきてあたらしいジジツをふやすんじゃない……」
「ごめんなさい、誰かに聞かれる可能性は確実と思えるまで減らしたかったの」
神が関わるとなれば、国家レベル以上の機密事項である。他に誰もおらず、防音も完璧な場所でないと話もし難い。
さらに、この事を知る者は少ない方が良いというドルネフィラーの望みでもあった。だからこそ、ネフテリアは自分自身が特に信頼している両親とピアーニャにだけ話したのだ。
「いやいや、人の手には余り過ぎるのだが?」
説明が終わると、王は早速拒否反応を示した。それもその筈、リージョンに住み、渡り歩く程度の存在である人が、リージョンそのものである神と話す……明らかに存在自体のスケールが違い過ぎる。
「まぁその事自体は今はいいの」
「いいんかい!」
ここまでは本題の為の前提である。最初からネフテリアが話したいのはこの事ではない。
「そのドルネフィラー様から聞いたんだけど、アリエッタの母親であるエルさんは、別世界の女神らしいのよ」
『……は?』
3人はまず、自身の耳を疑った。その様子が少しおかしくて、ネフテリアは後ろを向いて笑っている。
「あ~…つまり、神様がその母君を神だと見破ったと。それを教えてもらったと……」
「うそ…アリエッタちゃんは女神様の娘? ねぇ女神様の娘って天使になるの?」
「お母様、疑問に思うところがズレてる! いや確かに違うかもしれないけど!」
最初と違い、ドルネフィラーが神だと認識してからは、アリエッタが天使だと言った事をあっさり納得した。前置きは大事である。
もっとも、天使は比喩でしかないが、見た目と性格のお陰で、むしろそっちの方が納得できてしまっている様子。
そんな中、ピアーニャはテーブルを叩き、ワナワナと震えていた。
「ど……どうすればいいのだ! わち、アイツにかわいがられてるんだぞ! メガミとしってしまっては、ますますテイコウできなくなるじゃないか!」
『それはそれでイイね』
「まてや!」
王族は3人ともピアーニャが可愛がられる姿を良しとした。
この後ピアーニャいぢりで騒いだ後、とりあえずこの件は内密にし、アリエッタに対してはいつも通りという事で落ち着いた。
「はぁつかれた……ロンデルのやつももどってないし、かえってジョウホウせいりするか……」
項垂れながら帰ろうとするピアーニャを、何かを思い出したフレアが呼び止める。
「あ、そういえば、グラウレスタに向かったロンデル達なんだけど……2日前にドルネフィラーに森ごと飲みこまれたかもしれないって報告がきてたわよ」
「………………はああああぁっ!?」
「わたくし…しばらくは、ドルネフィラー見たくないわ……」
数日後、結局何の成果も無いまま帰還したロンデル達を、うんざりした様子のピアーニャが迎えた。
ロンデル達は赤くなった森を調査していたところ、急に夢に取り込まれ、ドルネフィラーだと察し、調査していたという。そしてその途中で急に目を覚ました。未だ森は赤いままだったが、数日経っていた事を察しそのまま帰還したのだ。
そうして帰ってきたロンデルが、ピアーニャ達が持ち帰ったドルネフィラーについての情報量の多さに茫然とし、また長い間ドルネフィラーについての話で盛り上がったのは別の話である。