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引き留めたい気持ちは強くあるけれど、物わかりの良いティアは、黙って扉を開けた。


バザロフは、嘘をつかない。忙しいのは本当のことなのだろう。


「本日は、表から帰られますか?」

「いや、裏からだ。今日は護衛付きなもんでな。目立たない方がいい」

「かしこまりました」


メゾン・プレザンの入り口は、表向きは一つだけしかない。


けれど、マダムローズが認めた最上位の客に限っては、裏口から帰ることもできる。

二間続きの部屋を使えるバザロフは上客だが、状況に応じて出入り口を使い分けるので、その都度、確認する必要がある。


「……では、そこまでお見送りさせてください」


ティアの口調は、少し甘えが混ざっていた。


今は雨期の終わり。そろそろ季節は、初夏へと向かう。

長雨は、バザロフに疼くような古傷の痛みを与えるが、ティアには嬉しい訪れを与えてくれる。


逆に言えば雨期が過ぎれば、バザロフは娼館に足を向ける回数が減ってしまうのだ。

だからこそティアは、今日は少しでも長くバザロフと一緒にいたかった。


「ああ、共に行こう」


すべてわかっていると言いたげに、目を細めて頷いたバザロフは、ティアに剣を渡す。


ティアは、それをうやうやしく受け取ると、並んで廊下へ出た。





ティアと並んで歩いているバザロフは、普段の歩幅にならないよう慎重に歩みを進める。


なにせ隣にいるティアはとても小さい。必然的に歩幅も狭いので、うっかりするとティアを走らせてしまうことになってしまう。


しかも、バザロフの剣は、一般的な騎士が持つ剣より、長く重い。


それを抱えているティアには、小走りであっても、とても酷なことだろう。


そんな理由から、ほんの少しだけぎこちなく歩くバザロフは、人知れず溜息をつく。


王城が厄介事を抱えているのは間違いないが、それよりもっと深刻な悩みがバザロフにはあった。


娘盛りになったティアだけれども、結婚願望が欠片もないのだ。


バージンロードのエスコートは、是が非でも自分が!と、常日頃から強く望んでいるバザロフとしては、これは由々しき問題だったりする。


「ティア、最近……どうだ?」

「はい。変わらず過ごしています」

「……そうか」


つっけんどんと思えるほど淡々と答えたティアに、バザロフはやれやれと肩をすくめると、うぉっほん、うぉっほん、とわざとらしい咳ばらいをしてから、再び口を開く。

「その……最近入ったロムは……そのどうだ?」

「そうですね。まだまだ、迷子になることはありますが、3回に1回は自力で戻ってくるようになったので、探しに行く手間が減って助かります」

「いや……そうではなく……」

「なんでしょうか?」

「……いや、なんでもない」


小動物を思わせるティアのくりくりとした瞳にじっと見つめられて、バザロフは視線をあらぬ方向に泳がせる。


面と向かってティアに、いい加減、恋の一つでもしてみろとか、お見合いでもしてみろなどとは口が裂けても言うことができない。


バザロフは怖がられる側の存在ではあるが、人間だ。怖いものは、もちろんある。


ティアにウザがられること。ティアに嫌われること。ティアに『黙れ、くそジジイ』と罵られること。


鬼神と謳われたバザロフだが、どうにもこうにもティアには弱いのだ。

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