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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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ひと房手に取った私の髪にキスをした悠真くんに、もうドキドキだったのに。悠真くんは髪から手を離すと、今度は私を抱きしめる。

抱きしめ、私の髪に顔を埋め、囁く。

「この甘いクッキーみたいな香り……。やっぱりアリスのこと食べたくなっちゃいます」

そう言いながら悠真くんが、突然私のことを抱き上げる。

これにはもうビックリで、ドクンと心臓が大きく反応することに。

も、もしや今晩、そういうことに!?

一応、それを踏まえ、下着は可愛らしいものを身に着けているけど……。

ゆっくり私をベッドにおろすと、悠真くんは「歯磨きをしてきます」とウィンクをした。

それはもう、歯磨き粉や歯ブラシのCMに使えそうな極上のスマイル!

この笑顔にキュンとし、いきなりそういうことはないと安堵し、そして残念という気持ちになり、さらに……。猛烈に恥ずかしくなる。

安堵している場合ではない!

悠真くんと私は恋人同士なのだ。お付き合いをしている。現状、触れるだけのキスしかしていないし、交際スタートからまだ数日だけど。お泊りもこれで二度目。だからそういうイベント(!?)が発生してもおかしくない。

おかしくないのだけど……。

え、私、大丈夫……?

「つい食べ過ぎちゃいます」と言っているモデルでもある悠真くんの体型のことを気にしていただけど。私はどうなの!?

アラサーで運動なんて……していない。

身長があるから、なんとなくスタイルはそれなりに見えるかもしれないけど。

お腹……ぽっこりしていない? でも食後だから当然? でも腹筋があれば、ぽっこりしないのでは……? 夏が終わった直後は合コンもあったし、いろいろ頑張った。でもここ最近は干物女をやっていたわけで……。細部のお手入れができていない気がする。

「!」

悠真くんが歯磨きを終え、戻って来てしまった。

ど、どうしよう。

き、今日はパスしたい。

できればお手入れを、総点検をしてから、そういうことは……。

「アリス、目覚ましはもうセットしましたか?」

「あ、う、うん! 勿論! というか、平日、毎朝起きる時間は決まっていますから。スマホのアラームは設定済みです」

「何時に起きるのですか?」

起きる時間を確認した悠真くんは「8時間睡眠をとるなら……あと1時間か」と呟くと、甘い笑顔を私に向けた。

心臓がドクンと大きく反応する。

これはあと1時間あるから、私を……。

悠真くんは持参していたトートバックから何かを取り出そうとしている。それはつまり、もしもの備えのあれを取り出しています……? この部屋にそれはないから持参してくれているなら助かる……ではなく! え、やっぱり、これから……。

「オセロ、やりませんか?」

「え!?」

「チェスでもいいです。後、トランプでも」

悠真くんはトートバックに、いわゆるテーブルゲームで知られるオセロ、トランプ、チェスを持参していた。持ち運べるサイズのものだ。ロケで新幹線や飛行機で移動すると、隣に座るマネージャーさん相手に、これらのゲームでよく遊ぶのだという。

「疲れていると眠っちゃうんですけど、寝られない時はよくこれらで遊びます」

スマホをいじることも多いが、充電のこともある。よってこのアナログなゲームで遊ぶのが一番らしい。

チェスはやったことがない。

でもなんだかできるとオシャレ(?)な感じがした。

だからチェスはやったことがないから気になると話すと……。

「では今日は僕がチェスの遊び方をレクチャーしますよ。チェスピースの意味と動かし方、ルールを説明します。人から教えてもらった方がこういうのって、覚えやすいですからね」

そう言った悠真くんは、ベッドの上にポータブル用のチェスボードを広げる。そしてチェスピースと呼ばれる駒を一つずつマス目に置きながら、説明を始める。超初心者の私にも分かりやすく丁寧にいろいろと教えてくれた。

「それでこうやって追い詰めて、キングが絶体絶命にするのがチェック。この状態でキングはこことこのマスと動けますけど、そのどれに動かしても相手のビショップに追い詰められてしまう。これがいわゆるチェックメイト。詰んだ状態です」

「なるほど。駒によって動きが違うのですね。そこをきっちり覚えるところからスタート……」

「そうです。でも最初は僕が、それはこっちにしかいけませんよ、と教えるので、完全に暗記しなければ遊べない!と思わなくても大丈夫です」

そこで悠真くんは時計を確認し「今日のところはここまでですかね。今度は実際にアリスも駒を動かしながら遊びましょう」と提案してくれる。「うん。ありがとうございます、悠真」と私も応じ、片付けを手伝う。

トートバックにチェスを戻すと、悠真くんは「もう寝ますよね?」と確認する。「寝る」という言葉に反応しそうになる心臓を落ち着かせ「う、うん!」と返事をすると。「明かりは全部消しますか?」と悠真くん。「はい。私、真っ暗じゃないと眠れない派で」「僕もです。では消しますね」「あ、はい」と答え、慌ててベッドに横になり、掛布団をかける。

悠真くんが明かりを消し、部屋が暗くなった。

チェスで遊び、8時間睡眠に丁度いい時間にベッドに横になる。

健康的で健全だ。

「!」

悠真くんがベッドに乗ったことで、ギシッと軋む音が聞こえた。

一人暮らしのワンルーム。当然だけど、ベッドはシングル。

一人分の体重に耐えられる設計だから……。

ここでそういうことになると、当然、ベッドがギシギシしちゃう。それはカッコ悪いよね。引っ越しをするならベッドは……。

「引っ越しと同時にベッドを買おうと思います。さすがにシングルじゃ狭いですよね」

横になった悠真くんがふわりと私を抱きしめた。

同じ事を考えていた!という事実と、抱きしめられたことに、心臓のドキドキが止まらない。

「……でもベッド、購入してもすぐ届かないんですよね……。しばらくお預けかぁ」

そんなことを言いながら悠真くんが私の髪を優しく撫でていると思ったら……。耳の後ろや首に急にキスをするので、思わず変な声が漏れてしまった。すると……。

「アリス、反則です。そんな声出したら、僕、オオカミになりますよ」

「!」

そんなことを言われても!

好きな相手にそんなことをされたら、声も出ちゃうわけで。

「……って、声がなくても、こんな体勢だから……」と悠真くんは言うと、熱い吐息が耳にかかる。さらに「アリス……」と甘く名前を呼ばれ、私はもう、失神寸前!

「本当に止まらなくなるから、これでおしまい」と言った悠真くんは唇ではなく、額にキスをすると、動きを止める。そして「アリス、おやすみなさい」と甘々な声で囁く。

ベッドはボロいし、私もいろいろと体の総点検をしたかったので「おやすみなさい」で問題ないはずなのに!

物足りなく感じてしまう。

いや、まだ付き合って日も浅い。しかも悠真くんはここ数日内に引っ越しをするのだから。しかもタワマン! そこで広々としたベッドで初めて結ばれるのがベスト。だって相手はあの青山悠真なのだ。こんな狭いベッドでギシギシさせるなんて恐れ多い!

悟りが開けたので「うん。おやすみなさい、悠真」と、私は彼の頬にキスをする。「アリス……」と悠真くんは私の頬へのキスに、悶絶してくれた。まさか、あの青山悠真が! 私の頬のキスぐらいで、こんなに嬉しそうにぎゅって抱きしめてくれるなんて。

夢みたいで、本当に幸せ過ぎる。

しばらくはお互いに心臓をバクバクさせていたと思う。

でも寝る前にスマホをいじったりしなかったのがよかったのかな?

それに悠真くんに抱きしめられていたからなのか。

温かさに包まれ、気持ちも体もほっこりし、そしてグッスリ眠りに落ちていた。

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